神経症的な美しさ アウトサイダーが見た日本

著:モリス・バーマン 訳:込山宏太/慶應義塾大学出版会

column

2023.02.16

日本、あるいは日本人論については、すでに数えきれない程の本が出版されています。ラフカディオ・ハーンの本やルース・ベネディクトの「菊と刀」など古典としてロングセラーを続けている本をはじめ、ライシャワー元駐日大使の「ザ・ジャパニーズ」やヴォーゲルの「ジャパン・アズ・ナンバーワン」など、出た当時に大ベストセラーになった本もあります。私たち日本人はいつも欧米から、どう見られているのかが気になるようです。そこにもう一冊「神経症的な美しさ」という本を紹介してみたいと思います。

タイトルの「神経症的」とはどういった意味があるのか気になるところですが、著者は、日本は二重苦(英語の慣用句で二つの大きな衝撃の意味がある)に見舞われた。それはいずれも米国によるもので一つは江戸末期のペリー来航、もう一つは第二次世界大戦後の日本占領であり、ここから生じた魂のねじれが日本人にとっては相当深刻なもので、そういった状況の中で神経症的にならない人などいないし、さらにここから日本は二度と立ち直ることができなかったとも言います。しかし第二次世界大戦後の日本と米国はもちろん、世界の変遷を見ればわかるように歴史はたくさんの矛盾と問題を孕んでいます。

アメリカ型の資本主義が崩壊しつつある中で、日本はポスト資本主義のモデルになりうるか。その一点の答えが知りたくて本書を読み始めたのですが、そう簡単に答えを得られるはずもなく、読んでみてもその道筋は複雑で錯綜しています。「突き詰めると私たちはみな、日本人なのではないか?…日本とヨーロッパの唯一違うところは、科学革命から産業革命を経て超合理化近代の生活に至るのにヨーロッパがおよそ350年かけたのに対して、日本はそれを言ってみれば一晩のうちにやってしまわなければならなかったこと、それでちょっとおかしくなってしまったくらいである」。日本という国は、世界の中で一番極端な道を辿っているのではないか、日本を見定めてさえいれば世界の脈動にふれることができると著者は言いきります。そして敬意をこめてその「美しさ」が「神経症」を最終的に上回ることを願っていると締めくくります。本当に日本がポスト資本主義のモデルになれればいいなと思います。

山下 郁夫

宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん

坂出市出身。約40年書籍の販売に携わってきた、
宮脇書店グループの中で誰よりも本を知るカリスマ店長が
珠玉の一冊をご紹介します。
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宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん

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