なぜ今、『街の小さな本屋さん』が
増えているのか

ビジネス香川編集室

Special

2018.11.15

どんな業種も、時代や人々のニーズが変われば、それに対応する新しいビジネスのカタチが生まれてくる。

昔ながらの街の書店が減っている一方で今、個性的な「セレクト書店」が増えているのもそういった動きの一つかもしれない。

今までのビジネスモデルと何が違うのか、どんな経営の工夫をしているのか・・・。

3軒の店主に話を聞いた。そこには、起業やこれからの働き方=生き方につながるヒントがあった。

他業種と組み合わせて小商い 本屋ルヌガンガ

中村勇亮さん(右)涼子さん(左)

中村勇亮さん(右)涼子さん(左)

現在、本の売り上げは減ったが、出版される数は年間約8万冊とさほど減ってはいない。「その中から面白い本を見つけるのは不可能に近い。一冊ずつセレクトして気になる本がすぐに目に入るようなサイズ感にする。同時に、本の多様性が伝えられるお店にしたかった」と店主・中村勇亮さんはいう。

資金面でも、小さく始めたことで初期投資が抑えられた。また、本棚を設置する費用をクラウドファンディングで集めたほか、取次店を通さず出版社と直接取引し、委託ではなく本を買い取ることで仕入れ値を下げ粗利率を上げるといった工夫もしている。

セレクト書店は古書を扱う場合が多いが、こちらは新刊を扱う。店内でゆっくり本が読めるカフェスペースもある。何より特徴は、定期的に開催されるトークイベントだ。著者を招いて出版した本について語るのがオーソドックスだが、著者の多くは東京在住のため頻繁に開催するのは厳しいと考えていた。ところが、お客さんから企画を持ち込まれることが増え、今ではイベントの半分近くが持ち込み。「イベントで高い収益が上がるわけではありませんが、いい内容だとお店に対する愛着が増す気がします。こんな路地裏でやっていけるのはお客さんたちのおかげだと思います」

一般的に書店は接客をしないことが多いが、これからは顔の見える範囲、手の届く規模の“小商い”でリピーターを増やすことが大事だと考えている。「最近、オカウチAPIさんから声がけいただいて、イベントで親子向けの絵本を出張販売したような感じで、地元のお店とも積極的に連携して地道にファンづくりをしていきたい」という。

情報発信で店主の個性光る なタ書(なたしょ)

藤井佳之さん

藤井佳之さん

インターネットで簡単に本が買える時代に、あえてお店で買う─。その理由の一つに“この人が勧める本を買いたいから”という人が一定数いる。藤井佳之さんは、2006年にいち早くセレクト古書店を高松で始めた先駆け的存在でファンも多い。「古書店や中古レコード店はあったが、本をキーワードにしたお店がなかったので面白いかなと。そもそも古書で食べられると思っていなかったから、他の仕事をしながらの営業でした」。お店の特徴といわれる「24時間受付で予約があれば営業する」スタイルも、仕事をしながら営業するために都合が良かったからで、別に奇をてらったわけではないという。

少しずつお客さんが増えてきたのは、瀬戸内国際芸術祭で県外の人も来るようになったころ。SNSで情報発信できるようになったことも大きい。「新刊なら多くの人に売るために不特定多数に情報を発信しなければならない。古書は買う人が1人見つかればいい。誰が見ているとかを意識してこの内容をこのタイミングで・・・意外と情報発信の戦略は立てているんです」

それができるのは、お客さんの顔が見えているから。「仕入れの時、この本はあの人が興味ありそうだなとか。本を棚に並べる時はお客さんの顔を浮かべながら順番を考えますね」。どんな業種も、起業した時は一生懸命だが数年たつと意欲が下がってくる人も多い。藤井さんは「年数を経てお客さんの情報が蓄積されるほど、モチベーションも上がっています。今はお店にお客さんが来てくれると単純に嬉しいですね」という。

兼業から始める YOMS(ヨムス)

齋藤祐平さん(左)末度加さん(右)

齋藤祐平さん(左)末度加さん(右)

齋藤祐平さん・末度加さん夫妻は、2015年11月に東京から香川に移住し、17年1月にYOMSをオープン。祐平さんは図書館司書、末度加さんはグラフィックデザイナーとして働く「兼業」書店だ。古書を中心に、個人出版の本や雑貨も販売。自家焙煎したコーヒーなどの飲み物を提供するカフェでもある。

大学時代からネット通販で古書を販売していた末度加さんは、いつか自分の店を持ちたいと思っていた。なるべくお金をかけずに開店することを目指した。「少ない資金でもお店はできます。高松はコンパクトにまとまっていて移動しやすいし、家賃も安い。独立や開業に挑戦しやすい環境だと思います」。開店にあたっては、人とのつながりに助けられた部分も多い。「こういうことをやってみたい、これを探しているということをいろんな人に言っておくと、声をかけてもらいやすいですよ」

会社勤めをしながら空き時間に店を開けているため、肉体的にきついと感じることもある。だが祐平さんは、「本が人から人の手に渡ることに、ぬくもりのようなものを感じます。お客さんに喜んでもらえるとやっぱり嬉しいですね」と話す。

高松にある「面白い本屋さん」の一つになりたいという。

新しいカタチの書店とは

インターネットで本が買えるようになった、ちょっとした疑問は本を読まなくてもネット検索で解決できる、収入の柱であった雑誌とコミックの販売部数が減った・・・などさまざまな原因が指摘されているが、書籍・雑誌小売業(古本を除く)の数は2007年の17363店が16年には8544店と減っている(経済産業省平成28年経済センサス・活動調査))。

「最近増えている本屋さんは、今までの書店とは全く違う業態という印象があります」と日本政策金融公庫四国創業支援センター所長・佐藤公昭さんはいう。カフェを併設したり雑貨を扱ったりと“書店”ではなく“本を扱っているお店”に変化した。本の品ぞろえも店主の個性が反映されているため、競合しにくい。お客さんは、品ぞろえや店舗の雰囲気に共感して訪れるので多少不便な場所にあっても問題ない。

「路地裏などに店舗を構えるのは、家賃を抑えられる利点もあります。また、書店に限らず起業するときは初期投資を抑えるようにアドバイスしています。そういう意味で、規模が小さい書店は理にかなっています」SNSを使うことで、規模が小さくてもお店の個性をターゲットに確実に発信できるようになったことも大きいという。

キーワードは「小規模」「店主の個性」「他業種との組み合わせ」「情報発信」。「大きな書店と小さな書店では、果たす役割が違います。小さな書店は、ニッチなニーズに応える存在で、それがお店の個性=差別化につながっていると思います」

本屋ルヌガンガ

住所
香川県高松市亀井町11-13
代表電話番号
087-837-4646
社員数
2人
営業時間
10~19時
定休日
火曜
地図
URL
https://www.lunuganga-books.com/
確認日
2018.11.16

なタ書(なたしょ)

住所
香川県高松市瓦町2-9-7-2階
代表電話番号
070-5013-7020
社員数
1人
営業時間
24時間受付で予約制
地図
確認日
2018.11.16

YOMS(ヨムス)

住所
香川県高松市亀井町11-10寿ビル4階
代表電話番号
090-1850-9482
社員数
2人
営業時間
土・日曜14~22時
※平日営業もあり。詳しくはTwitterで確認
地図
URL
http://caccokari.blogspot.com/
確認日
2018.11.16

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