次世代を支える担い手づくりへ

JA香川県 代表理事 理事長
北岡 泰志さん

Interview

2025.10.16

高松市寿町の香川県JAビル

高松市寿町の香川県JAビル

「本業立て直し」を目指して

JA香川県が大きく変わろうとしている。今年6月からの新体制で、常勤役員9人のうち6人が新任となり、北岡泰志さん(61)がトップに就いた。「職員3000人、組合員14万人の大所帯。様々な要望や意見にどう応えていくか。身の引き締まる思いです」

北岡さんはJA香川県の発足以来、主に営農・経済部門を歩んできた。営農は農畜産物の生産・販売、営農指導などを行い、経済は肥料・農薬などの生産資材や生活に必要な食品・生活用品などの購買業務を行う、まさにJAの「本業」だ。歴代の理事長は、管理部門や貯金、貸出金、投資信託、共済などを扱う「信用・共済事業」出身者が占めていた。JA香川県初の“営農・経済出身”理事長が誕生したことになる。「全国ほとんどのJAが『信用・共済事業の収益で、営農・経済事業の損失を賄う』という経営体質です。足元を見つめ直し、もう一度本業を立て直す。それを目指して舵を切るのが私の役目です」

JA香川県では今年度から、営農・経済事業の再編整備などを含んだ第8次中期経営計画がスタートしている。「様々な試みに対し、組合員全員が賛同しているわけではありません。ですが、メリットとデメリット、両方を示して理解を求めていきます」

北岡さんが特に力を入れていきたいと話すのが「兼業農家支援」だ。香川では農家の約9割を占めるが、国や県による助成制度は、農業を主業とする認定農業者や農業法人などに向けたものが多い。北岡さん自身も兼業農家。気持ちは痛いほどよく分かる。「JAの積立金などを活用し、兼業農家が利用しやすい新たな助成制度を設けたい。どのような助成が望まれるのか、県内各地で意見交換会を行い、現場の声を拾っているところです」
農業経営コンサルティングの様子

農業経営コンサルティングの様子

また、農業といえばやはり「作業がしんどくて手間がかかるというイメージがあると思います」。JA香川県では、労働力を必要としている農家と、農業に携わりたい人をマッチングする無料の職業紹介所「アグリワーク」も展開中。さらに『定植支援』や、農作物を収穫した後そのままJAの集荷場に持ち込めば、選別や箱詰めをしてくれる『出荷調整支援』もあり、「農家組合員は圃場での栽培管理や収穫作業が中心になり、負担はかなり減ると思います」

また、定年後に農業を始めようという人に就農準備金を助成する『定年帰農支援』など、「いろいろな支援事業があります。農業人口が減少する中、多様なやり方で次世代の香川の農業の担い手づくりに努めていきたいと思っています」

急転直下でJA職員へ

 祖父母が専業農家、両親が兼業農家。田植えやミカンの収穫を手伝うなど、幼い頃から農業は身近だった。しかし、「東京の大学に進んだこともあり、東京で働くつもりでした」

就職先も決まり、あとは卒業を待つだけだった。と、ここで急転直下。「祖父から突然、『帰ってきてくれ』と連絡が来たんです」。何事かと思い、急いで実家に戻ると「『農家の長男で田んぼも山もある。どうしても継いでほしい』と。祖母に泣かれましてね……。育ててもらった祖父母の頼みを振り払うことはできませんでした」
小学生がサツマイモの収穫を体験

小学生がサツマイモの収穫を体験

簡単ではなかったが内定先に断りを入れた。故郷に戻り、最初に思い立ったのは「自分で農業をやってみる」。タマネギ、ニンニク……祖父母に手伝ってもらいながらも、自分の手で一から育ててみた。それが北岡さんの覚悟だった。

それから約40年。歩んできた道のりをこう振り返る。「農作物は手をかければかけるだけ応えてくれる。頑張れば頑張った分、はね返ってくる。いろいろ考えながら学びながら、人に教えたり教わったり……『あぁ、地域密着の仕事とはこういうことなんだ』と改めて感じますね」

リスクを軽減し、全力で支える

米の高値が続いている。米価高騰の背景には、JAが集荷量を確保するため生産者へ支払う概算金(仮払金)の引き上げが原因ではないか、という声もある。「JA香川県では今年、2025年産の米に対する概算金は60kgで2万6,100円(コシヒカリ・おいでまい1等)です。この数字は、生産コストが最低でも60kgで2万1,600円必要なこと、それに流通経費などを積み上げて算出したもの」と北岡さんは説明する。
農業の未来……真剣に考えなければならない時が来ている

農業の未来……真剣に考えなければならない時が来ている

さらに近年は、夏の猛暑が農作物に多大なダメージを与えている。「香川は温暖で災害も少なく、比較的環境に恵まれていますが、それでもやはり農業にはリスクがある。最近では肥料や資材、農機具も値上がりし、生産者の皆さんはギリギリのところで踏ん張っています。様々なリスクを軽減し、全力で支えていくのが私たちの使命」と口調を強める。

今後、農業はどうなっていくのか。「人間が生きていくうえで欠かせない『食』に繋がるのが農業です。現在叫ばれている食料安全保障や食料自給率の低下……『無ければ輸入すればいい』では、日本の農業は衰退するだけ。本当に真剣に考えなければならない時が来ていると思います」

篠原 正樹

北岡 泰志 | きたおか やすし

略歴
1964年 善通寺市出身
1983年 善通寺第一高校 卒業
1987年 法政大学経済学部 卒業
     善通寺市農業協同組合 入組
2000年 香川県農業協同組合 善通寺支部
     (県下43JAの合併によりJA香川県発足)
2014年 営農部農産販売課 課長
2016年 コンプライアンス統括部 次長
2017年 営農部 畜産担当部長
2020年 経済部 部長
2022年 常務理事(経済・自己改革担当)
2025年 代表理事理事長

香川県農業協同組合(JA香川県)

住所
香川県高松市寿町一丁目3番6号 香川県JAビル
代表電話番号
087-825-0200
設立
2000年4月1日
社員数
職員数 3097人(正職員1983人、嘱託・臨時職員1114人・2024年度末)
事業内容
営農事業、経済事業、信用事業、共済事業
出資金
228億円(2024年度末)
組合員数
13万8322人(正組合員5万4191人、准組合員8万4131人・2024年度末)
グループ
株式会社JA香川県オートエナジー、株式会社JA香川県ライフサービス
株式会社JA香川県フードサービス、農協食品株式会社
地図
URL
https://www.kw-ja.or.jp/
確認日
2025.10.16

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