市場の番人 公認会計士の魅力を発信

日本公認会計士協会四国会 会長 石川 千晶さん

Interview

2016.11.03

高松市亀井町の日本公認会計士協会四国会事務局

高松市亀井町の日本公認会計士協会四国会事務局

医師、弁護士と並んで三大難関国家資格と言われるのが公認会計士だ。しかし、その一方で認知度が低く、なり手が少ないのが現状だ。日本公認会計士協会四国会の石川千晶会長(56)はこう話す。「会計士の人手不足は全国的に深刻な状況です」

今年6月に就任した。女性が協会地域会の会長になったのは全国で初めてだ。「特に意識はしていませんが、私が女性ということで注目されるのなら、それをきっかけに会計士についてもっと知ってもらいたいですね」

昨年、東芝の巨額の不正会計が大問題となった。来年4月からは一定規模以上の社会福祉法人で会計監査が義務付けられるなど会計士業界には今、大きな波が押し寄せている。

公認会計士は「市場の番人」と呼ばれる。市場を守ることは国を守ることに等しい。石川さんは、大きなやりがいと影響力のある公認会計士という仕事を全力で社会にアピールしていく。

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「経済活動があるところには必ず会計があります。義務教育の中に入れてもらいたいくらいです」

公認会計士は、企業が公開する財務情報を第三者の立場で検証して保証する監査業務が主な仕事だ。10年程前は会計士を増やそうという国の政策もあって、公認会計士試験の受験者数は毎年2万人を超え「会計士ブーム」とも呼ばれていた。しかし、現在の受験者数は半分ほどに減っている。リーマンショックなどで大手の監査法人が採用を控え、難関の試験に合格したにも関わらず、就職できない人たちがあふれかえったのが原因と言われている。

「そのしわ寄せが今来ています。最近では自治体にも会計が導入され、来年からは社会福祉法人にも監査が入る。業務の領域が増えているのに人材が確保できなければ、きちんとした監査が提供できなくなります」
「ハロー!会計」で子どもたちに授業をする石川さん=3月、高松市

「ハロー!会計」で子どもたちに授業をする石川さん=3月、高松市

四国会の会長として石川さんが最も力を入れているのが会計教育だ。小・中学生を対象に会計士を派遣する出前講座の「ハロー!会計」は、「会計とは?」「監査とは?」「会社とは?」といった基本的な内容が中心。高校生や大学生には実際に公認会計士を志望してもらえるよう、具体的な業務や仕事の魅力を紹介する。

今年7月、母校の高松高校を訪ねた。「みなさん目がキラキラしていて、真剣な表情で耳を傾けてくれました。私にもあんな時代があったのかと懐かしく思いましたね」。しかし、講義を進める中で大きなショックを受けたと言う。「税理士と公認会計士がどう違うのかという質問はよくあります。でも、社労士や銀行員との違いについて聞いてくる生徒もいました。やっぱり会計士って『無名』なんだと痛感しました」

決算書を基に、大手から中小まで企業の経営者とじっくり話をする。会社を今後どのようにしていきたいのか、どういったところが会社のリスクなのかなど、経営戦略を一緒に練ることもある。「組織のトップであっても完璧に自分の判断に自信を持っている人ばかりではありません。外からどう見えているのか、率直に意見してほしいという経営者も増えています」

会計士が監査した決算書は、世界中の投資家や債権者も利用する。大きな責任と影響力があり、「経営者が間違った判断をしないよう、横から口出しするのが私たちの仕事かな」。石川さんは笑顔で話す。

女性会計士を増やしたい

日本公認会計士協会の関根愛子会長と=10月、東京

日本公認会計士協会の関根愛子会長と=10月、東京

「女の子は手に職をつけなければならない」。幼い頃から母親にそう教えられて育った。公認会計士だった父がとても楽しそうに仕事をしているのを見て、進む道が定まった。

大学卒業後、東京の監査法人に入り、10年程前に父の事務所の法人化に参加した。県内の大手企業や非営利団体の監査役の他、香川県や高松市の包括外部監査も務めた。「会社の成長を見つめながら一緒に歩んでいける。それが大きな喜びですね」

公認会計士は女性に向く仕事だと話す。しかし、四国では女性は1割程度。石川さんが駆け出しの頃はもっと少なかった。200人余りいる同期の中で10人にも満たなかったそうだ。「珍しがられて得をしたこともありますが、苦労したことの方が多かったです」

会計士の仕事はヒアリングから始まる。しかし、女性相手だと満足に話をしてくれない経営者も多かった。「これ、おかしくないですか?」と指摘すると、「女に言われた」とか「女のくせに」と瞬時に態度が変わる人もいた。女性を監査チームに入れない老舗の大手企業もあった。

協会四国会で香川県部会長や副会長を務めたのち、会長に選出された。時を同じくして東京にある協会本部の会長も、初めて女性の関根愛子さんが選ばれた。「世の中、変わったなあと思いました。会計士協会は風通しの良い組織だなと」

女性だから、という意識はあまりないと話すが、それでもやはり「女性会計士を増やすこと」が大きな目標だ。「アメリカは会計士の半数が女性で、男女の差がほとんどありません。会長が男性の時に『女性を増やしたい』と言うより、私が言った方がおそらく効果があると思うので、積極的に働きかけていこうと思っています」

地元企業を見つめ続けて

昨年、東芝が2000億円を超える利益を水増しした不正会計が発覚した。歴代3社長の辞任など社会を揺るがす大問題となったが、この事件で東芝を担当していた監査法人と公認会計士も、金融庁から業務改善命令や課徴金納付などの厳しい行政処分を受けた。

「本当に悪いのは悪意のあった企業サイドですが、決算書の作成は、経営者と第三者の立場で監査する会計士の二重責任です。言い訳はできません」。そして、こう加える。「おかしいと思うことをおかしいと言える。それが公認会計士の大事な資質だと思います」

協会本部の関根さんは会長就任時、「公認会計士監査の信頼回復」を第一の目標に掲げた。「女同士がんばろうね、というのは私にも関根さんにもありませんが、本部の取組みを四国からしっかり支えたいと思っています」

公認会計士になって今年でちょうど30年。香川の企業をずっと見つめ続けてきた。「話をしてくれる」経営者も増え、女性会計士の地位も少しずつ向上してきたと感じている。

一方で気になることもある。「私が仕事を始めた頃、香川にも一世を風靡していた優良企業がたくさんありましたが、そのうちの多くがなくなってしまいました。でも、それに取って代わる会社が育っていない。小さくてもユニークなベンチャーがこれから生まれてくれればうれしいですね」

会長を務める3年の任期中、どうしてもやりたいことがある。高校や大学で、模擬裁判ならぬ「模擬監査」をやってみたい。そして、小さな子どもやお母さんたちが気軽に会計を学べる場も作りたい。 「会計の知識というのは生活をする上でも必要で、とても役に立ちます。裾野を広げるために、いろんなことに挑戦していきたいですね」

編集長 篠原 正樹

石川 千晶 | いしかわ ちあき

1960年 高松市生まれ
1979年 高松高校卒業
1983年 一橋大学商学部経営学科
(管理会計岡本ゼミナール)卒業
監査法人中央会計事務所 入所
1986年 公認会計士登録
1987年 太田昭和監査法人 入所
2007年 税理士法人石川オフィス会計 設立
2016年 日本公認会計士協会四国会 会長
主な活動歴(現職含む)
社外監査役   穴吹興産、アムロン、セシール 他
監査委員    三豊総合病院企業団
包括外部監査人 香川県、高松市、坂出市、丸亀市、北海道伊達市

日本公認会計士協会四国会

所在地
高松市亀井町7-15 セントラル第1ビル9階
TTEL:087-863-6653/FAX:087-863-6654
会員数
〈会 員〉香川94、愛媛79、徳島32、高知15
〈準会員〉香川13、愛媛10、徳島2、高知3
地図
確認日
2018.01.04

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