木と人つなぐ コーディネーター

山一木材 KITOKURAS ディレクター 熊谷 有記さん

Interview

2016.11.17

丸亀市綾歌町のKITOKURAScafeのテラスで。カフェでは木々を眺めながら、コーヒーやランチを楽しめる

丸亀市綾歌町のKITOKURAScafeのテラスで。カフェでは木々を眺めながら、コーヒーやランチを楽しめる

「二間の三五角を10本送っていた」。尺貫法で木材を注文する大工さんの言葉は、何かの呪文みたいだった。山一木材(丸亀市)の3代目・熊谷有記さん(38)は子どもの頃、そんなふうに思っていた。三五角は10.5センチ角の木材を指す。「難しそうだし、重いものを運ぶ木材屋は男性の仕事。私にできることはないんだと決めつけていました」

山一木材は、創業から住宅用木材の製材と販売を手掛けてきた。3姉妹の長女で、家業のことは気になりながらも違う道へ進んだ。大学で商店街の活性化を研究するうちに、物や空間のデザインに興味を持った。大学卒業後にデザイン学校で学び、家具の製造・販売会社に就職。その後、デザイン事務所に転職し、製品デザインや商業施設のコンセプトづくりに携わった。

2008年、初めて指名で受けた仕事が、偶然にも木を使った商品の開発だった。山の魅力、木の面白さを伝えるには何が良いだろうと考え、気軽に身に付けてもらえそうなブローチを提案した。サンプルづくりは山一木材に依頼した。

父の國次さんから、マツ、スギ、クルミなど様々な木のブローチが東京の事務所に届けられた。箱を開けた時の感動は今も覚えている。「香りがもあっと立ち上って、木ってこんなに癒やされるんだと思いました」

松ヤニをたっぷり含んだ肥松は光にかざすとべっ甲のように透け、ブラッシング加工を施したスギは木目の美しさが際立っていた。木を丸くくり抜いたシンプルなブローチだったが、一つ一つ木目が異なり面白みがあった。

木の良さと、実家ではこんなに素晴らしいものを扱っていたんだということを再認識。それが香川へ帰って来るきっかけになった。「私にも何かできるかも」。いろんな仕事を経験したことで、少し自信も生まれていた。
日用品の販売スペース

日用品の販売スペース

09年から準備を始め、10年にカフェと日用品店、ギャラリーを併設した「KITOKURAS(キトクラス)」を山一木材の工場向かいにオープンした。誰もが気軽に来られるようにと考えた。名前はそのまま「木と暮らす」という意味だ。

祖父と父が目利きして国内外から集めた木材を販売する山一木材は、言わば木のセレクトショップ。自然乾燥させた無垢材にこだわる。時が経つほどに味わいが増し、美しくなる。しかし集成材や合板の普及で、無垢材の需要は多いとは言えない。キトクラスを続けることで需要を喚起していきたい。

男性が多い業界の中で、良くも悪くも注目される。「女性だからと注目されるのは最初だけ。実力が伴っている人にならないと」。目標とするのは父の國次さんだ。「木材屋の姉ちゃんが何かしよる」。それが好意的に見られないこともある。だが「仕事をする上で、厳しいことやつらいこと、忙しさは全然苦にならない」と話す。
本をゆっくり読めるギャラリー

本をゆっくり読めるギャラリー

来年、山一木材が70周年、キトクラスが7周年を迎える。カフェの増築、ギャラリーの充実、工場の見学ツアーを考えているが、有記さんのアイデアはまだまだ尽きない。「居心地の良い森に育ったので、多くの人に使ってほしい。映画祭や結婚式もいいですね」

無垢材を使って、地元の大工さんや工務店と一緒に作る「木と暮らす家」の提案に力を入れる。これまでに15棟を手掛けたが、来年にはショールームを作り、さらに広めていきたい。山一木材が手掛けた家が立ち並ぶ「木と暮らす団地」も構想にある。

「今だけじゃない。未来にも、いいものを」。キトクラスのキャッチコピーには、木材屋として生きる有記さんの誇りが込められている。

副編集長 鎌田 佳子

熊谷 有記 | くまがい ゆうき

1978年10月 丸亀市生まれ
2002年 3月 立命館大学産業社会学部 卒業
2004年 3月 スペースデザインカレッジ 卒業
2004年 4月 オークヴィレッジ 入社
2005年 4月 レーベル 入社
2010年 1月 山一木材 入社
写真
熊谷 有記 | くまがい ゆうき

山一木材株式会社

住所
丸亀市綾歌町栗熊東3600-5
TEL:0877-86-5331
事業の概要
製材、建材木材の販売等
地図
URL
http://www.yamaichi-mokuzai.com/
確認日
2018.01.04

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