こうした中、漆器 山富は2006年、新しいブランド「JAPAN山富」を立ち上げた。漆器のある生活をコーディネートして、漆器は家庭の中で普通に使えるもの、身近なものだと知ってもらう事が狙いだ。老舗漆器店の新しい試みが始まっている。
原点は、日本食堂の「お膳」
漆器山富3代目、常務取締役の山下芳伸さん(52)は、「漆器を使って家庭の中にこの雰囲気をコーディネートしていくことが新しいブランド・JAPAN山富の形です」と話す。
山富の歴史は古い。創業は1918(大正7)年。山下さんの祖父富三郎さんが職人10人程で起こした。職人でもあった富三郎さん、商売の方はもっぱら妻のシカさんが受け持った。
「お膳」を担いで汽車に揺られて全国を巡り売り歩く日々。
その後、シカさんの努力が実って富三郎さんのお膳は旧国鉄の駅構内などにあった「日本食堂」で使われ始める。そして、商売が軌道にのった。食堂という日常の中で使われる「漆器」。山富の原点である。
時代の流れと危機、そして新たな挑戦
香川漆器を取り巻く環境の劇的な変化を山下さんはこう話す。根本にあるのは生活の洋式化。「旅館」が「ホテル」になり、「座卓」は「ダイニングテーブル」になった。それでも緩やかだった変化が加速を始めたのが「昭和」から「平成」に変わった時だ。家族で「外食」やコンビニ弁当が普通になったバブルの時代。漆器は、「扱いづらい」「手入れの大変」な食器になっていた。いつの間にか漆器を専門に扱う代理店は姿を消し、百貨店の一部でしか売られなくなった。それが10年前。ビジネスとしての危機が「一気」にやってきたのだ。
「今までにはない商品を作らなければ」
山下さんは、3年前、グラフィックデザイナーの藤本誠さんやインテリアスタイリストの三好里香さんの協力を得ながら、新しいブランド「JAPAN山富」を立ち上げる。
ブランド作りで最初に取り組んだのは職人や社員の意識を変えること。伝統を守るだけでなく「今」にあった漆器とは何かを全員で考える。その為に、売れた商品の傾向や客の意見を全員で共有した。結果、従来の後藤塗に新たなアレンジを加えた「新後藤塗」が誕生した。
そしてブランドの本質は、「知ってもらうこと」。現在の家庭の中で、漆器をどう使えばいいのか、どう見せればお洒落なのか。それは伝統工芸品という固定観念を打ち破り、日常生活の中の食器としての「漆器」を知ってもらうことだ。その一つの形が冒頭のショールームの見せ方だ。
勝負は「3歩」で決まる
結果は、一日に100社、期間中400社以上の企業関係者が山富のブースを訪れた。しかも、その業種は建設、輸出、呉服店まで多岐に渡った。新ブランド「JAPAN山富」が動き出した瞬間だ。
これだけ多くの企業を引きつけたもの。それは最も伝統的な作品「蒟醤(きんま)」の重箱だった。ブースの一番奥でありながら目の高さに飾られた「蒟醤」が3歩の間に人の目を引きつけたのだ。「JAPAN山富」が目指す「見せ方」の勝利だ。
「古い伝統のものでも現代に合うものもあるんです。それに香川の漆器は普段の生活の中で使える漆器です」。この事を、首都圏など県外のできるだけ多くの人にあらゆる手段で知ってもらいたい。そのためにウェブショップの展開も行っている。
伝統の中に生き続け、今の日常生活の中にも生きる漆器を提案する。「JAPAN山富」という新ブランドは、創業当時の山富の原点でもあった。
山下 芳伸
香川漆器 山富
- 住所
- 香川県木田郡三木町下高岡17
- 代表電話番号
- 087-898-0285
- 設立
- 1918年
- 事業内容
- 木製漆器、家具の製造卸
- 沿革
- 1918年1月2日 故山下富三郎氏により創業
1990年11月 栗林ショールーム完成
2001年 2月 三木第二ショールーム完成
2006年 9月 新ブランド「JAPAN山富」立ち上げ - 地図
- URL
- http://www22.tok2.com/home/yamatomi/
- 確認日
- 2009.11.05
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