ずっと大切にできる 家具を提案

c r a s(クラス) 代表取締役社長 溝渕 弘起 さん

Interview

2017.08.03

修行先の家具店から実家のミゾブチ家具に戻ったばかりのころ、お客さんに言われた言葉を溝渕弘起さん(52)は今でも覚えている。納品に行くと、ちょうど居合わせた友人に「ちょっとした整理タンスだから、近くのお店で買ったのよ」と言い訳のように話していた。「考えすぎかもしれませんが、その言葉の裏に『もっといい家具は別のお店で買う』という気持ちがあるように思えて。ショックでした」。お店がこんなふうに思われるのは残念だと強く思った。
祖父が創業して90年、ミゾブチ家具の名前で親しまれてきた。3代目として39歳で社長になった溝渕さんは2年ほど前、店名を「cras(クラス)」に変え、店舗もカフェと見間違えるほどおしゃれにリニューアルした。crasはラテン語で「明日への希望」という意味がある。「まずはイメージから。スタッフ自身がcrasで働いていることを自慢できるようなお店にしたかった」

いわゆる婚礼家具と呼ばれる商品が昔ほど売れなくなり、家具の通販も台頭。リニューアルは、時代の変化の中で生き残りをかけ模索した結果でもある。

扱う商品も時代とともに変わってきたが、ミゾブチ家具時代からの「いいものを長く使ってもらいたい」という理念は変わっていない。家具は、家族のように年月を重ねながら歴史を刻んでいくもの。たとえテーブルに傷がついたとしても、削り直してきれいにして使うことができる。何十年か経った時「この傷はあの時の・・・」と笑って話せるかもしれない。「家族の心地よい空間をつくる、そして持つことで満足感があるような家具をこれからも提案していきたい」
オリジナルの学習机

オリジナルの学習机

一番愛着があるのは「学習机」だと言う。昔から学習机の販売に力を入れていたこともあり、まずはこの分野で一番になろうと決意。素材から使い勝手、設計まで考えてオリジナル商品を作った。棚と机を自由に組み合わせることができる無垢材(※1)の学習机は、棚を上下2つに分けたり、置く位置を変えたりすることで、大人になるまでずっと使うことができる。一般的に学習机が壊れる場合、引き出しの金属レール部分の破損が原因であることが多い。そこで、この学習机は金属レールをなくして引き出しを下から支える棚受けをつけた。引き出し自体は婚礼家具で使われる「アリ組」(※2)の技術を生かして丈夫に仕上げた。

「子どものころにこれを使えば、本や身の回りのものを片付ける習慣がつくと思います。また、使ってくれた子どもたちの中に、ものを長く大切に使おうという気持ちが育ってくれたらいいですね」
展示会を開催予定の 「モロッコ絨毯(じゅうたん)」

展示会を開催予定の
「モロッコ絨毯(じゅうたん)」

自身が学習机のことを徹底的に勉強したように、ダイニングテーブルやベッド、いすなど、スタッフそれぞれに自分の得意分野ができれば、もっといい提案ができると考えている。「最終的には人。商品も大切ですが、この人の言うことなら、と信頼してもらえるようになってほしい」

本当の価値を分かって買った商品は大事にしてもらえる。そのため、家具をはじめインテリア小物の展示会やイベントも定期的に開催して、商品のよさを伝えている。「お客さんが『この家具はcrasで買ったんだ』と自慢できるようなお店にしたいですね」(石川恭子)

(※1)薄くスライスした突板や合成樹脂接着剤で成形した板を使ったものではなく、自然に育った天然の木を使った木材

(※2)木を組む方法の一つ。凸と凹の木を組み合わせる際、凸の先端部分が広くなるように台形に加工して凹の木と組み合わせる方法。引く力に対して強い

溝渕 弘起 | みぞぶち ひろき

1964年11月 高松市生まれ
1983年 3月 高松第一高校 卒業
1988年 3月 日本大学管理工学科 卒業
1988年 4月 堀江家具 入社
1992年 2月 ミゾブチ家具 入社
2003年 1月 代表取締役社長
写真
溝渕 弘起 | みぞぶち ひろき

cras(株式会社ミゾブチ家具)

所在地
高松市香川町浅野1306-5
TEL 087・879・7111
事業概要
リビング家具、ダイニング家具、学習机
キッチン・インテリア小物などの販売
ラグの輸入・販売
資本金
1000万円
従業員
5人
地図
URL
http://www.cras-m.jp/
確認日
2018.01.04

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