うしろめたさの人類学

著者 松村 圭一郎/ミシマ社

column

2018.06.07

著者は奥付によると岡山大学文学部の先生で、専門は文化人類学です。学生時代からエチオピアと日本を行き来しています。

「世の中どこかおかしい。なんだか窮屈だ」で始まるこの本は、構築人類学(レヴィ=ストロースの構造人類学ではありません)の考え方で、私たちの生きる世界がどう成り立っているのかを見ていきます。

構築主義という考え方は、何事も最初から本質的な性質を備えているわけではなく、さまざまな作用のなかで社会的に構築されてきたという考え方だと言います。

エチオピアといいますと、私たちの世代は即座にマラソンのアベベのことを思います。また音楽のレゲエが好きな人はハイレ・セラシエ1世のことが頭に浮かぶかも知れません。

著者は日本とエチオピアの違いをこう書きます。「(エチオピアでは)腹の底から笑ったり、激しく憤慨したり、幸福感に浸ったり、毎日が喜怒哀楽に満ちた時間だった。つねにいろんな表情を浮かべていた気がする。そんな生活を終えて日本に戻った時、不思議な感覚に陥った。関西国際空港に着くと、すべてがすんなりすすんでいく。なんの不自由も、憤りや戸惑いも感じる必要がない。・・・人との関わりのなかで生じる厄介で面倒なことが注意深く取り除かれ、できるだけストレスを感じないで済むシステムがつくられていた」

エチオピアにいた時に比べて、自分がもとの感情の起伏に乏しい「自分」に戻っていることに気がつきます。このズレはいったい何なのでしょう。著者は経済、感情、関係、国家、市場、公平等をキーワードに、このズレの意味を考え読み解いていきます。刺激的な本です。

宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん

坂出市出身。約40年書籍の販売に携わってきた、
宮脇書店グループの中で誰よりも本を知るカリスマ店長が
珠玉の一冊をご紹介します。
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宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん

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