顧客目線の多角化戦略　地域の暮らしをHAPPYに

ガソリンスタンド25店舗に加え、24時間型のフィットネスジムはFC展開を含め約200店舗、デイサービスの介護施設は50を超え、ファミリーレストランに美容サロンにカーメンテナンスにスイミングスクールなどなど、北海道から沖縄まで全国を舞台に、全事業合わせて392店舗を展開。その多角的な戦略を率いているのが44歳の若き社長、岡本将さんだ。

「私たちの合言葉は『MOVE TO HAPPY』。地域の生活応援企業として常に動き続け、新たな『ハッピー』を生み出したいと思っています」

岡本さんが社長に就いたのは2011年。当時30ほどだった店舗数は10年余りで10倍以上に増えた。岡本さんが取った手法とは？「例えばフィットネスジムでは、ガソリンスタンドのセルフ方式を応用しました」

ヤマウチのガソリンスタンドといえば“セルフ”。基本的には危険物取扱の資格を持つスタッフが1店舗を少人数でオペレートしている。そこに目をつけ、「店舗管理が1人でできる『トレーニング特化型ジム』にしました」

店舗によっては風呂やプールなど人手がかかるサービスをやめ、スタジオではトレーナーによるレッスン動画をモニターで放映。コストが抑えられた分、利用料を一般的なジムの半額程度まで下げることができ、会員数が飛躍的に伸びた。「ジムには『会費が高い』イメージがあり、企業側には『幽霊会員でもOK』という風潮もある。でも今はそんな時代ではありません」

高校卒業後アメリカに渡り、大学院で組織論やリーダー論を学んだ。アメリカ仕込みの経営理論で、「会費を払ってサービスを利用するサブスクビジネスは、価格を安くして利用率を高めるのが世界的に主流。『幽霊会員で稼ごう』なんて言っていたら笑われます。会員には“安く”“きちんと”ジムを使ってもらい、健康になってほしいですね」

同業者からは「そんなに料金を安くして、何を考えているんだ」という声も聞こえてくる。だが、確固たる信念がある。「企業目線の商売はもう通用しない。顧客目線を貫き、お客さんに刺さるような“尖った”企業を目指していきます」。岡本さんは力強く話す。

今後の目標は「今ある事業をさらに膨らませていくこと。そして、M&Aにもどんどん挑んでいこうと思っています」

ヤマウチは昨年6月、高松市でサービス付き高齢者住宅などを運営する「株式会社たんぽぽのわたげ」を子会社化した。後継ぎがおらず、事業を続けるかどうか悩んでいたオーナーに、岡本さんが理念や信条を伝えるとたちまち意気投合。円満にM&Aが成立した。「福祉に対し真っ直ぐに向き合っているオーナーさんでした。その志をしっかり受け継いでいきます」

そもそも「ヤマウチ」も、後継者不在の危機を乗り越え、M&Aによって生まれ変わった会社だ。

岡本さんの父が社長で、北海道を拠点にガソリンスタンドやフィットネスクラブを全国展開する「オカモトグループ」。2011年にヤマウチを子会社化し、父は息子にこう告げた。

「お前が社長をやれ。香川に行ってこい」

岡本さんは当時31歳。オカモトの副社長を務めてはいたが、老舗企業の舵取りを突然任され、「ピカピカの1年生社長ですから、そりゃあ大変でした。年配の役員からは『こんな兄ちゃんに経営なんてできるのか』と…」

役員や社員に信頼されるには、まずは現場に信頼されなければならない。岡本さんは各店舗に足繁く通い、スタッフの悩みや相談ごとに耳を傾け続けた。すると、「『あっ、この社長、話を聞いてくれるんだ』と。社員との関係を築くことで、私も少しずつ存在感を出せていけたのかなと」

“声を聞く”。これは今でも岡本さんが一番に心がけていることだ。社員からアルバイトまで分け隔てなく、「今日はこんな気づきがあった、出張先でこんなことがあった…と日報で発信し合っています。変な上下関係は取っ払って意見を交わす。そんな文化を社内でつくっていきます」

ヤマウチでは、香川ファイブアローズやカマタマーレ讃岐など地元プロスポーツの支援やSDGsにも力を入れる。「歴史ある会社を引き継いだからこそ、地元を大切にし、一緒に盛り上げていきたい。香川を豊かに、“ハッピー”にしていきたいと思っています」

運営店舗を全国展開しているため、これまで岡本さん自身の拠点は東京だった。だが今年、住まいを香川に移した。「これからもどんどん市場を開拓し、日本中をまたにかける香川発のすごい会社にしたい。そして多くの人に『香川や四国に行ってみたい』『住んでみたい』という気持ちになってほしいですね」