技術革新を支える エキスパートを育成

四国職業能力開発大学校 校長 梶島 岳夫さん

Interview

2022.07.07

大学で機械工学を修め、2022年まで教授として母校の教壇に立った。専門は気体や液体が流れる現象を研究する流体力学。人体から宇宙に至るまで、まだ解明されていない流体現象がたくさんあるという。「中でも私の研究テーマは『乱流』にコンピュータでどこまで迫れるかの挑戦。世の中は予測不能な『非線形』であふれているから、それをシミュレーションで理解・再現・予測できれば、まったく新しいテクノロジーが生まれる可能性もあります」。

東京に行く際は必ず寄席の演目をチェックし、出囃子付きで最終講義に登壇したほどの江戸落語好き。「最悪の状況からでも何とかなる落語のストーリーは、研究姿勢にも通じると思っています」と語る。

スパコン全盛期に 飛躍した研究分野

日欧専門家会議で訪れたスイス・ツェルマットで(2015年)

日欧専門家会議で訪れたスイス・ツェルマットで(2015年)

大学院を修了した1980年代、日本のスーパーコンピュータが世界を席巻していた。「原子力事故や100年後の二酸化炭素濃度なんて、実験したくてもできませんよね。そういう実験不可能な事象をコンピュータで予測する研究方法が発展した時代です。私もプログラムを書いて実験以上の結果を出そうと目指してきました」。

91年、通産省工業技術院資源環境技術総合研究所に移り、気体・液体・個体のうち2つ以上が混ざり合った「混相」解析の分野を開拓。その解析方法は、ロケットエンジンの開発にも生かされた。研究所で深めた混相の知見を乱流のシミュレーションに取り入れて、大学に戻ってからの研究も新しいステージに入った。

技術発展の鍵を握る 能開大の教育と環境

現在、世界ランキング「TOP500」で日本のコンピュータはベスト10にわずか1台。科学・技術の発展も今や海外の方が勢いがある。そんな折、四国職業能力開発大学校に立ち寄って「日本が技術的先進国であり続けるために欠かせないユニークな教育機関だ」と感じたことを、定年が近づくにつれ思い出すようになった。

大学では教養→理論→実習と段階を踏む学びが一般的だが、職業能力開発大学校は1年次から実習と座学を同時進行で深める実践的なカリキュラムが特徴。最先端の情報や機器にすぐ触れられる環境が整い、学生だけでなく既に第一線を走るエンジニアたちが技量を磨き込む場でもある。
大阪大学での最終講義を終え研究室メンバーと(2022年3月)

大阪大学での最終講義を終え研究室メンバーと(2022年3月)

今春、縁のあった四国能開大の校長に就任。「ものづくりが『良い製品をつくれば売れる』から『技術を情報化して価値を高める』流れに向かうことも見据えつつ、カリキュラムを充実させていきたい」と意欲的。製造技術とプログラミング・情報化の両輪で、入学当初から分野横断的なチームを組み、さまざまな課題に取り組む学生たちが、大いに強みを発揮する時代になると期待している。

戸塚 愛野

梶島 岳夫 | かじしま たけお

略歴
1958年 愛知県生まれ
1981年 大阪大学工学部機械工学科卒
1986年 同大学院工学研究科機械工学専攻修了
    同大学工学部 助手
1991年 通産省工業技術院
    資源環境技術総合研究所 主任研究官
1995年 大阪大学工学部助教授
2003年 同大学院工学研究科教授
2022年 同大学名誉教授
    四国職業能力開発大学校校長

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