「たゆまず、とどける」 四国の電気を守り抜く

四国電力送配電 社長 横井 郁夫さん

Interview

2020.04.16

四国電力送配電が管理する送電線「西通線」=高松市峰山町

四国電力送配電が管理する送電線「西通線」=高松市峰山町

変えてはならないもの

4月1日に事業を始めた四国電力送配電。国が進めてきた電力小売の全面自由化をはじめとする「電力システム改革」の最終章、「送配電部門の法的分離」に伴い誕生した新会社だ。

一連の改革で「発電」と「小売」事業者の新規参入が進んだ。事業者が送配電網を公平に利用できるよう、電力会社が持つ送配電部門を切り離し別会社にしたものだが、「以前から透明性を掲げ公平中立にやってきたので、大きく変わることはありません。それに、事業形態が変わっても『変えてはならないもの』もあります」と、初代社長に就いた横井郁夫さん(62)は語る。
電気の流れをコントロールする中央給電指令所

電気の流れをコントロールする中央給電指令所

発電所でつくられた電気は送電線で変電所に送られる。そして、変電所などで使いやすい電圧に変換されたのち、配電線で家庭などに届く。四国電力送配電では、こうした設備やシステムを四国電力から引き継ぎ、維持・運用していく。「最大の使命は、四国エリアのお客様に良質な電気を安価かつ安定的に届けること。私たちにとって“変えてはならない”不変の価値観です」。“たゆまず、とどける”が新会社の合言葉だ。

送配電事業は、典型的な設備産業。電柱は四国に85万本、配電線の総延長は地球4周分に相当する17万kmにも及び、設備管理が業務の要になる。「節電志向や人口減少などで電力需要は減少傾向。こうした状況のなか、高品質な電気を保つために重要なのが、メンテナンスの“見極め”」と、横井さんは口元を引き締める。

鉄塔は、多くが昭和の時代に建設された。深い山林などヘリコプターも使いながら行う点検作業は容易ではない。電線を張り替えるとなると巨額の費用がかかるため、そのタイミングが難しい。「コストダウンに繋がる設備の寿命予測の技術を磨き、精度を上げていかなければなりません」

新会社は、四国電力の送配電部門にいた約2100人とともにスタートを切った。2年前から準備を進める中で横井さんが最も心を砕いてきたのが、転籍となる従業員のモチベーション。何度も現場に足を運び、様々な意見に耳を傾け、議論を繰り返してきた。「『四国の電気は我々が守り抜く』。この誇りを胸に、全員が心をひとつに一致団結して新しい歴史を創っていこう、と強く呼びかけました」。四国電力から独立することで、一人ひとりの存在も大きくなる。「やはり何よりも重要なのは『人』です。人間本位の会社にしたいと思っています」

大プロジェクトを経験

出身は徳島市。大学時代、ある出来事をきっかけに「大好きな四国のためになる企業で働きたい」という思いが芽生えた。「東京育ちの親友から『四国は田舎だ』と見下されたんです。正直少しカチンときまして、見返してやりたいって思ったんですよね」と苦笑する。

大学院を修了後、1982年に四国電力に入社。送電線の設計、建設、保守など「工務畑」を中心に歩んだ。「いろいろな経験をさせてもらった」と振り返るが、中でも印象深いのが87年から携わった、瀬戸大橋架橋工事に合わせた「本四連系線」の建設だ。

それまでは瀬戸内の島伝いに結ばれていた22万ボルトの架空送電線※から50万ボルトの送電ケーブルに増強し、瀬戸大橋に敷設する工事。中四国の電力環境を大きく改善させるビッグプロジェクトだった。「最先端の技術が結集した“ものすごい現場”で、瀬戸大橋が開通した時は感慨深くて涙が出ました」。苦楽を共にした当時の仲間と撮った記念写真は今も家に飾っている。「マリンライナーに乗ると、車窓からそのケーブルを支える台が見えるんです。記憶が一瞬にして蘇りますね。20代後半で経験したあの現場で、かなりたくましくなれたと思います」。横井さんは懐かしそうに語る。

※架空送電線…鉄塔から鉄塔へ空中に電線を張って電気を送る設備

魂を込め、DNAを次世代へ

高圧発電機車

高圧発電機車

「『和』を重んじ、チームワークを大切にしていきたい。この仕事はチーム力が全てで、仕事仲間は親兄弟と一緒です」

理想とするのは、上司・部下分け隔てなく何でも言い合える環境。そんな思いを抱いたのは30代の頃、送電・配電機材をつくる子会社に派遣された時の経験だ。

本社スタッフは社長と横井さんと事務の女性のわずか3人。生まれたての小さな会社で、従業員の採用や工場の立ち上げなど模索しながら会社の土台づくりに奔走した。「社長の人柄が素晴らしく、何でも話せる人だった。口論になることもあったが、伸び伸びといろんなことに挑戦させていただき、本当に充実した日々だった。節目節目で魅力的な上司や仲間と巡り会えたことは、私の大きな財産です」

新たな会社を仲間たちと一緒に築いていく。コミュニケーションを大切にしていきたいと繰り返す。「私自身、これまでいろんな人に助けていただきながら、ここまで来ました。それらは全て、仲間たちの『四国の電気は我々が守り抜く』という“誇り”に助けられたように思うんです」。そして、こう続ける。「その誇りはまさに、四国電力で脈々と受け継がれてきたDNA。そのDNAを新しい会社へそのまま持ち込み、魂を込めて次世代へ遺していく。それが私の一番の務めだと思っています」
「心をひとつに一致団結。新しい歴史を創る」

「心をひとつに一致団結。新しい歴史を創る」

篠原 正樹

横井 郁夫|よこい いくお

略歴
1958年 徳島市生まれ
1976年 徳島県立城東高校 卒業
1980年 慶應義塾大学工学部 卒業
1982年 慶應義塾大学大学院工学研究科修士課程 修了
     四国電力株式会社 入社
1987年 電源開発株式会社 出向
1990年 テクノ・サクセス株式会社 派遣
2013年 四国電力 執行役員 東京支社長
2015年 常務取締役 電力輸送本部長
2018年 常務取締役 送配電カンパニー社長
2019年 取締役 副社長執行役員
2020年 四国電力送配電 取締役社長

四国電力送配電株式会社

住所
香川県高松市丸の内2番5号
代表電話番号
087-802-6350
社員数
約2,100人
事業内容
一般送配電事業 他
資本金
80億円(四国電力株式会社100%)
地図
URL
https://www.yonden.co.jp/nw
確認日
2020.04.13

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