四国を生かす。地域を生かす。会社を生かす。

四電エンジニアリング 代表取締役社長 藤岡 正直さん

Interview

2009.06.18

「利他の心」があれば、ものの道理とやるべきことが見えてくる・・・・・・。四国は山と田畑が多い。少子高齢化が進む農業を、林業を、地域をどう守るのか。
四国電力グループの四電エンジニアリングは、四国電力の電力設備の建設・保守を担う会社だ。社長の藤岡 正直さん(66)は、電力設備の工事で培った技術力を活用して、「四国を生かす」「地域を生かす」ため、新規事業に取り組んでいる。
四国の企業の省エネ、省コスト、省力化を支援する事業を2年前に立ち上げた。全国で29地点、183基の風力発電設備を建設、風力発電事業にも進出した。安全でおいしい水の宅配事業も好調だ。
日本で初めて、木や竹からバイオ液体燃料を作るモデル事業を、徳島県那賀町で今年度スタートさせる。

※(利他の心)
仏教の言葉。他人を思う気持ち、思いやりのこと。

企業の悩みを解決

規模の小さな企業は、自社製品を作る技術には詳しいが、生産設備を動かすエネルギーの専門家はいない。自動化や省力化も遅れがちだ。
「我々から見ると、熱や蒸気の使い方に無駄があります。ヒートポンプ技術などで省エネのお手伝いが出来ます」
去年の実績では調査依頼が千件を超えた。400件提案して230件受注した。

「我々の持っている電気、機械、通信、エネルギー、土木建築、環境保全などの技術で、問題の大半は解決できると思います。企業が発展すれば地域が良くなって、結果として我々もハッピーになります」。目標は、省エネ、省コスト、省力化にとどまることなく、経営から社員教育を含めた総合ソリューションサービス事業だ。

※(ヒートポンプ)
温度の低いところから温度の高いところへ熱を移動させる仕組み。

※(ソリューション)
顧客の要望に応じてハードウエア、ソフトウエア、人員などを組み合わせてシステムを構築し、これを提供すること。

四国を生かす

近い将来、石油は不足する。オイルショックで、穀物から作るバイオ燃料の採算が合うようになった。「当然、穀物の値段も上がります。そこには自国の石油を温存するアメリカの資源戦略があります」

四国には大きな課題がある。少子高齢化が進む農業をどう守るか。林業をどう守るか。「長期的な視点に立つと、山や田畑の多い四国を生かすために、バイオ燃料構想が浮かび上がります」
活用されていない森林資源から、バイオ液体燃料を生産するモデル事業が、経済産業省の公募事業で選ばれた。木や竹を蒸し焼きにして液体燃料にする。製造過程で発生するガスで発電。その排熱蒸気を農業施設の熱源に利用する。液体燃料の製造と発電と熱のトリジェネレーションだ。

※(トリジェネレーション)
熱と電気を同時に供給するコージェネレーションを発展させたエネルギー供給システム。熱、電気に加え、発生する二酸化炭素も温室栽培などで「3倍に」有効活用する。

「付加価値」を漫画で

売り上げを上げろというと、売り上げだけを考える。まじめで優秀な人たちの縦割り組織。部門を越えて一人ひとりが何をすべきか。藤岡さんの経営方針がなかなか伝わらなかった。トップの方針を伝えるのに難しい言葉はいらない。藤岡さんは「漫画」を思いついた。

人手が足りないから受注を断ることがあった。もし他部門から応援してもらうとどうなるか。自部門だけの判断でいいのか。会社の利益のために何を優先すべきか。
事業所で使用済みの電線がいっぱい出る。銅の値段が高い時、電線のまま売るとトン40万円。被覆をはいで銅線にするとトン80万円。人件費を掛けるともうけは出ない。しかし社員の手が空いたときにやれば人件費は要らない。

「付加価値を上げる仕事のやり方を『漫画』にして全員に配りました。みんなが付加価値に気付けば組織は変わります」。2003年度売り上げは409億、経常利益8億円。社長になって5年後、08年の売り上げは511億、経常利益も17億円に。漫画で伝えた付加価値教育の効果が出た。

風力発電事業とファイナンス

北海道から沖縄まで29地点、183基の風力発電設備の建設工事をした。「全国の風力発電会社から注文が来ます。1994年、四国電力の高知県室戸風力発電所の建設に参加して以来、ノウハウを蓄積してきました」
風力発電会社の電力は、電力会社が一定期間一定の値段で買い取ってくれる。「収入は確保されますから、風力発電は意外にリスクの少ない事業です」

問題は風だ。風の計算を間違わなければ収益が計算できる事業だ。「採算性のある風力発電事業にプロジェクトファイナンスをすることも事業の一つになります。現在、四国の風力発電事業に約40億円のファイナンスを実施しています」
自ら風力発電事業にも進出した。09年2月に徳島で1300kwの風車が15基、1万9500kwが稼働。10年には鹿児島で2000kwの風車が7基、1万4000kwの風力発電設備が動き出す。

※(プロジェクトファイナンス)
融資の一形態で、企業の信用力とは別にプロジェクト自体から生じるキャッシュフローをもとに融資に関する意思決定を行う。また、融資に対する返済の原資が当該プロジェクトから発生するキャッシュフローに限定されている。

「利他の心」

5、6歳の頃、父と五右衛門風呂に入った。父が言った。「人は、お湯を自分のほうへかき寄せる。お湯は腋から逃げていく。『いいお湯ですね、どうぞおあたりください』。お湯を他の人の方へ押しやると自分の腋から入ってくる」。藤岡さんは今もその言葉を忘れない。「『利他の心』で、ものの道理が見えてきます。欲があると見えなくなります」

水の宅配事業「アクアクララ」を始めるとき親会社は消極的だった。グループ会社も手を挙げなかった。「長い目で見ると食の安心、安全への関心はますます大きくなります」。事業をやるべきだと判断した。「うちは発電設備の建設・保守が中心の技術会社ですが、女性社員もかなりいます。女性だけで事業を立ち上げました。おかげさまで、売り上げが4億円になりました」

風力発電事業(大川原ウインドファーム・徳島県)が「新エネ百選」に選ばれた。地域特性を生かした先進的な取り組みが国から評価されたのだ。高さ60mの風車15基が回る大川原高原に、もうすぐ3万本のアジサイが咲く。
藤岡さんは「利他の心」で、四国を生かす。地域を生かす。そして会社を生かす。風力発電事業も、ソリューション事業も水の宅配事業も、10年先には大きく会社に貢献すると確信している。

※(新エネ百選)
経済産業省と新エネルギー・産業技術総合開発機構が、地方公共団体、事業者等により実施された新エネルギー等導入事業を公募し、全国各地における太陽光発電や風力発電など新エネルギー等利用の優れた取組みを今年5月に発表した。
藤岡さんは高校卒で四国電力に入った。「徳島支店に入ったときに留学制度ができたんです。仕事を休職して徳島大学へ入学しました。社内の第1号です」
大学の工学部を出たのに電気の仕事はしなかった。「企画や営業畑でいろんなことを経験して、面白い人生を歩かせてもらいました」

笑いが絶えないインタビューだったが、藤岡さんが真顔になった。「全社員の健康診断に、10万円を補助しています」
ある人に勧められて夫婦で「PET」の検査を受けたら、奥さんに膵臓がんが見つかった。早期発見で手術が成功して助かったのがきっかけだ。
「自分では健康だと思っている人の100人に2人の確率でがんが見つかると言われています。1000人以上の社員がいますから、20人見つかることになります。経費は1億円ほど掛かりますが、『社長に命を助けてもらった』という社員が何人かいますから、お金に換えられません」

※(PET)
がん細胞が正常細胞に比べ、3〜8倍のブドウ糖を取り込む性質を利用したがんの検査方法の一つ。保健医療としては認可されていない。

藤岡 正直 | ふじおか まさなお

略歴
1942年 徳島県阿南市生まれ
    最終学歴 徳島大学 工学部卒
1961年 四国電力株式会社 入社
1998年 同社 取締役営業部担当
2000年 同社 取締役事業企画部長
2001年 同社 常務取締役
2002年 同社 退任
    四電エンジニアリング株式会社
    代表取締役 専務取締役
2004年 同社 代表取締役社長

四電エンジニアリング株式会社

住所
香川県高松市上之町3-1-4
代表電話番号
087-867-1711
設立
1970年
社員数
1120人(2009年3月1日現在)
事業内容
1.電気、機械、原子力、通信、土木、建築、環境
 保全関係施設の調査、設計、製作、施工、保守
2.上記に関係するシステム設計、ソフトウエアー
 開発・販売
3.電気、機械、土木、建築その他の諸機械器具の
 販売および賃貸
4.環境保全施設・上下水道施設の設計、建設、
 運営ならびに当該施設等の設備の維持管理
 および運転
5.アクアクララ(清涼飲料水)の製造、販売
6.上記に付帯関連する事業
沿革
1970年 四電エンジニアリング(株)設立
    (1964年設立の四国企業株式会社工務部
    を吸収合併)
1982年 土木、建築コンサルタント部門を(株)四電
    コンサルタントに営業譲渡
1990年 東京支社開設(東京営業所より昇格)
1995年 池田、中村、宇和島支店開設(事業所より昇格、
    8支店体制となる)
1996年 技術開発センター開所
1999年 ISO9001取得
2007年 池田、中村、宇和島支店を事業所に変更
地図
URL
http://www.yon-e.co.jp
確認日
2009.06.18

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