
坂の上の雲を求めて
銀行に勤めて3年目。25歳のとき、小腸腫瘍が破裂して16人分の輸血を受けた。C型肝炎になった。30年で肝癌になると言われた。
「そのとおり、一度ならず死んだ。針の穴を潜るような可能性しかないピンチの連続でした。でも幸運に恵まれました。なにかをするために生かされていると感じました。だから、出来ることなら何でもお引き受けするのが私の使命です」。煩わしいことも、苦労をするのも、むしろ嬉しいとさえ思える。仕事を苦痛だと思ったことが無い。木村さんの慎ましやかな言葉には”生かされている命“への感謝がこめられている。
行員から自動車ディーラーに

「でも、25歳で一度死に損なっていますから、生かされている自分の役割かなと割り切りました」。5年後、38歳でビスタ店の販売権を得た。カローラ香川のリリーフ役からトヨタビスタの経営者にひとりだちしたのだ。
私が担保です…
バブルが弾けた。売り上げが下がった。収益が出ない上に担保価値も下落。「土地さえ持っときゃね、損益が厳しくなっても銀行は貸してくれると思っていました」。
ある地銀から担保の追加を求められた。土地は全部担保に入っている。「私が担保です、と言ったのですが、あなたではダメです。資金を引き上げますと言われた…(笑)」。幸い、別の地銀が資金を融通してくれた。
「私は駄目でも、トヨタの販売店だから、大丈夫だと判断したのでしょう。たまたまその銀行の取引先の、二世経営者の会をお世話していたこともありました。今だったら会社は残っても、私はいなかったでしょう」。強烈な試練も、今は印象深い記憶のひとつだ。
神様の贈り物?それとも、悪魔のささやき?
「3千万円ぐらいしか儲けてない会社ですよ。その収益をそのまま突っ込まないかん物が、たまたまポッと出てきた」。それがいまの中古車販売拠点の『カーランド空港通り』だ。100台くらいしか新車が売れない。そのうち50%は車を下取りする。その下取りの50%はスクラップになる。だから30台分で十分だと幹部社員から反対された。神様の贈り物か、それとも悪魔のささやきか…。お客さんを作るには中古車がいちばん重要だという。車検の需要もある。中古車が強くなると下取り価格で無理が出来るようになる。結果、新車の販売競争に勝てる。
「俺、一生懸命やるから、頼むからやらせてくれって、押し切りました。幸運でした」。中古車でお客を増やす戦略が的中した。新車の市場が落ち込んだ時、この展示場が会社を支えた。予定の5倍の事業に挑んだ経営判断でカーランドは『神様の贈り物』になった。
社長も洗車 お客様感謝デー
「ディーラーの競争力は人材で差がつくと思います。いま車の買い換えは平均7年ですから、この7年の間お客さんの信頼を得られる人材がいるかどうかが勝負です」。3年前にトヨタのディーラー政策が変わった。香川県下のネッツ店は2社が競い合う形になった。 「うちはサービスを中心にやっていますから、買い換えや車検の顧客防衛率は全国のネッツの中で9位ぐらい。顧客満足度は香川県でトップです。少ないお客さんだからしっかり守るんです」。胸を張っても良い成果を木村さんは訥々と表現する。
坂道を上り続ける

「社員高齢化の人件費コストや余剰人員は初めて直面する問題です。これ以上人を増やさないことで乗り切れるかどうか・・・」。市場が小さくなれば、新たな顧客を創るか、それが出来なければ従業員の満足度を一時的に下げるような改革も余儀なくされるかもしれない。人間尊重の姿勢を守る。お客さまと向き合い、従業員と向き合う。目の前に、また坂道がある。上り坂だから辛いし、苦しい。木村さんは、坂の上に浮かぶ雲を目指して急な坂道を上り続ける。
木村 大三郎 | きむら だいざぶろう
- 略歴
- 1941年 1月 大分県大分市生まれ
1964年 3月 慶應義塾大学卒業
同 年 4月 日本不動産銀行(現あおぞら銀行)
1974年 5月 トヨタカローラ香川常務
(1993年まで社長、会長)
1980年 2月 トヨタビスタ香川(株)創業
取締役社長に就任 現在に至る
1980年 2月 高松信用金庫理事
現在に至る - 公職及び褒章等
- 2004年 4月 藍綬褒章 受章
2005年 5月 香川経済同友会代表幹事
(2007年5月から特別幹事)
ネッツトヨタ高松株式会社
- 住所
- 香川県高松市香西南町404-1
- 代表電話番号
- 087-882-7121
- 設立
- 1980年
- 社員数
- 128人
- 事業内容
- 新車販売
各種中古車販売
車検・点検・板金修理全般
各種損害保険・生命保険代理業務
KDDI・携帯電話・PHS取扱
JAF取扱
- 資本金
- 7500万円
- 地図
- 確認日
- 2007.10.04
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