「坂の上の雲」をつかむ!

ネッツトヨタ高松株式会社 代表取締役社長 木村 大三郎さん

Interview

2007.10.04

25歳の若さで大量輸血からC型肝炎に。慢性肝炎、肝硬変、肝癌へと病状は悪化した…。その中で、生かされている自分にはやるべきことがあると気付き、確信する。トヨタの最後発ディーラーを立ち上げ、激しい競争の中で人間尊重経営を貫いて会社を育て上げた。ひたすら「坂の上の雲」を目指して坂道を登り続けた。 決断した生体肝移植が成功して健康を取り戻した今、ネッツトヨタ高松(株)代表取締役社長 木村大三郎さんに、死と隣り合わせの”チャレンジ“を伺った。

坂の上の雲を求めて

「やっと少しは楽になったと思ったとたん、死に直面するまでの体になっていた。でも目の前に浮かぶ雲をどうにかして掴みたい。そう思って前向きにやってきた。私は楽天的だと思います」。自然体だ。静かに口を開いた。木村さんは自分の生き方を司馬遼太郎の著書『坂の上の雲』に重ねる。

銀行に勤めて3年目。25歳のとき、小腸腫瘍が破裂して16人分の輸血を受けた。C型肝炎になった。30年で肝癌になると言われた。
「そのとおり、一度ならず死んだ。針の穴を潜るような可能性しかないピンチの連続でした。でも幸運に恵まれました。なにかをするために生かされていると感じました。だから、出来ることなら何でもお引き受けするのが私の使命です」。煩わしいことも、苦労をするのも、むしろ嬉しいとさえ思える。仕事を苦痛だと思ったことが無い。木村さんの慎ましやかな言葉には”生かされている命“への感謝がこめられている。

行員から自動車ディーラーに

33歳で銀行からトヨタカローラ香川に転身した。奥さんの実家から、後継者が若いので手伝って欲しいと言われたからだ。リリーフ役だ。不安は大きかった。第一次オイルショックでガソリンの価格が急激に跳ね上がった。それだけではない。銀行勤務でいろんな企業の兄弟げんかや、息子と娘婿との争いを見聞きしていたからだ。 

「でも、25歳で一度死に損なっていますから、生かされている自分の役割かなと割り切りました」。5年後、38歳でビスタ店の販売権を得た。カローラ香川のリリーフ役からトヨタビスタの経営者にひとりだちしたのだ。

私が担保です…

「もともとビスタは成り立たないと言われてました。誰もやらなかったから販売権が取れたのだと思います」。ゼロからの出発で土地、建物は借金で購入した。公私とも資産=負債だった。

バブルが弾けた。売り上げが下がった。収益が出ない上に担保価値も下落。「土地さえ持っときゃね、損益が厳しくなっても銀行は貸してくれると思っていました」。
ある地銀から担保の追加を求められた。土地は全部担保に入っている。「私が担保です、と言ったのですが、あなたではダメです。資金を引き上げますと言われた…(笑)」。幸い、別の地銀が資金を融通してくれた。
「私は駄目でも、トヨタの販売店だから、大丈夫だと判断したのでしょう。たまたまその銀行の取引先の、二世経営者の会をお世話していたこともありました。今だったら会社は残っても、私はいなかったでしょう」。強烈な試練も、今は印象深い記憶のひとつだ。

神様の贈り物?それとも、悪魔のささやき?

2000年、59歳。C型肝炎が末期の状態になり、あと3年と宣告された。成功率80%といわれた生体肝移植を決断した。「30年生かされてきたから、もういいかなあとも思いました。でも一番上の姉から『あなたの人生の醍醐味はこれからなのに・・・』という手紙を貰って決めたんです。妻の肝臓を移植させてもらいました」。手術は無事終わった。しかし、弱気になっている自分にも気付いた。「周りは気を使ってくれる。自分も無理する必要がないと甘える。問題から逃げるかもしれない。だから、次のチャレンジが要ると思った」。そんな時、探していた中古車展示場が見つかった。予定していた5倍の150台も展示できる規模だった。

「3千万円ぐらいしか儲けてない会社ですよ。その収益をそのまま突っ込まないかん物が、たまたまポッと出てきた」。それがいまの中古車販売拠点の『カーランド空港通り』だ。100台くらいしか新車が売れない。そのうち50%は車を下取りする。その下取りの50%はスクラップになる。だから30台分で十分だと幹部社員から反対された。神様の贈り物か、それとも悪魔のささやきか…。お客さんを作るには中古車がいちばん重要だという。車検の需要もある。中古車が強くなると下取り価格で無理が出来るようになる。結果、新車の販売競争に勝てる。
「俺、一生懸命やるから、頼むからやらせてくれって、押し切りました。幸運でした」。中古車でお客を増やす戦略が的中した。新車の市場が落ち込んだ時、この展示場が会社を支えた。予定の5倍の事業に挑んだ経営判断でカーランドは『神様の贈り物』になった。

社長も洗車 お客様感謝デー

お客様感謝デーをつくった。毎月第二土、日、それに第三土曜日、お客さんに来てもらって、車を点検させてもらう。点検料やオイル交換も安くした。洗車は無料。木村さんや役員全員と事務職社員の担当だ。

「ディーラーの競争力は人材で差がつくと思います。いま車の買い換えは平均7年ですから、この7年の間お客さんの信頼を得られる人材がいるかどうかが勝負です」。3年前にトヨタのディーラー政策が変わった。香川県下のネッツ店は2社が競い合う形になった。 「うちはサービスを中心にやっていますから、買い換えや車検の顧客防衛率は全国のネッツの中で9位ぐらい。顧客満足度は香川県でトップです。少ないお客さんだからしっかり守るんです」。胸を張っても良い成果を木村さんは訥々と表現する。

坂道を上り続ける

自動車販売業界は、無駄な経費の改善や流通の質の向上が課題だ。新車販売の停滞や少子化などで、今後、保有台数の減少が懸念されているからだ。

「社員高齢化の人件費コストや余剰人員は初めて直面する問題です。これ以上人を増やさないことで乗り切れるかどうか・・・」。市場が小さくなれば、新たな顧客を創るか、それが出来なければ従業員の満足度を一時的に下げるような改革も余儀なくされるかもしれない。人間尊重の姿勢を守る。お客さまと向き合い、従業員と向き合う。目の前に、また坂道がある。上り坂だから辛いし、苦しい。木村さんは、坂の上に浮かぶ雲を目指して急な坂道を上り続ける。

木村 大三郎 | きむら だいざぶろう

略歴
1941年 1月 大分県大分市生まれ
1964年 3月 慶應義塾大学卒業
同  年 4月 日本不動産銀行(現あおぞら銀行)
1974年 5月 トヨタカローラ香川常務
(1993年まで社長、会長)
1980年 2月 トヨタビスタ香川(株)創業 
取締役社長に就任 現在に至る
1980年 2月 高松信用金庫理事 
現在に至る
公職及び褒章等
2004年 4月 藍綬褒章 受章
2005年 5月 香川経済同友会代表幹事
(2007年5月から特別幹事)

ネッツトヨタ高松株式会社

住所
香川県高松市香西南町404-1
代表電話番号
087-882-7121
設立
1980年
社員数
128人
事業内容
新車販売
各種中古車販売
車検・点検・板金修理全般
各種損害保険・生命保険代理業務
KDDI・携帯電話・PHS取扱
JAF取扱
資本金
7500万円
地図
確認日
2007.10.04

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