逆風が改革のエネルギー

松浦産業株式会社 代表取締役社長 松浦 公之さん

Interview

2007.09.06

原油が高騰した。原料暴騰の突風が吹いた。ニッチ産業にとっては、とてつもない逆風だ。同業者が廃業に追い込まれる中、松浦産業株式会社はこの危機を乗り越えた。さらに強くなった。 創意工夫で、どの分野の商品も後発ながら数年でトップメーカーになった。市場と顧客ニーズの変化を逃さず次々と業態をシフトさせた。独自商品を開発し続けた。
そのリーダー、代表取締役社長 松浦公之さんに、危機を乗り越えた知恵と工夫を伺った。勝ち残り、強靭になったのにはそれだけの理由がある。逆風をバネに社員全員が成長した、のだ。

細かいところから改革

原料(ポリプロピレン・ポリエチレン)コストが3年で2倍になった。営業本部の担当者は振り返る。
「守りをあまり考えない社長が変わり始めた。シルバー人材センターに頼んでいたトイレ掃除を各部署・各自でやり始めました。もちろん社長も。ものすごく細かいことから始めたのです」。独自商品は値上げできたが、ライバルが多い汎用品は値上げできない。
松浦社長はこう説明の口火を切った。「値上げできないものは、製品コストを減らすしかないじゃないですか。改善、改善、改善で何とかコストを下げる方法をみんなで取り組み、収益率をどんどん改善していきました」。それでも値上げが出来なかったり、収益が赤字になる商品は製造を止めた。

売れても「余分」は製造しない

攻めの松浦社長が発想を変えた。
「製造は見込み生産のところがあった。受注量より社員の数が多いとどうしても在庫は増加します。それを全部止めました」。在庫が増えると、原料高騰とのダブルパンチになる。そこで適正な在庫になるように前期より在庫を大幅に削減した。
「原料高騰は防ぎようがない。その分を在庫経費削減と収益改善で取り返す。そのために売れるものでも余分に持たない、作らない」。結論はシンプルだが実行には覚悟と知恵、勇気が必要だ。並大抵ではない。

働き方を変える

在庫を持たないで、得意先の様々な発注に即座に応えるためには、柔軟性とスピードが必要だ。しかし、商品は種類が多いうえ、それぞれ工程が違う。
「お客さまから注文が来たら、そのつど『君はこっち、あなたはそっち』とあらゆる状況に対応できる柔軟性が要る。朝と夜で工程や製品そのものを変えたりします」。思い切って業務と製造部門を統合して優秀な社員を少数、配置した。すばやく生産し、すばやく納品できるようにした。
「例えていえば、戦国時代の戦の陣形です。何処から攻められてもすぐ陣形を変化させて応戦できないとだめです」。そのためにはスペシャリストより何でも出来る有能な人材が必要だ。それまでのやり方を変えられない社員は改革についてこられない。きれいごとではない。

正社員は、この2年間で63人が48人になったが売り上げは増加した。みんな頑張った。残った者の働き方が変わった。 
「でも今は逆に、残った人が何でも出来るようになってきた。それに問題が起こるとすぐに皆で対応できる様になりました」。改善のため毎月一人一件ずつアイデアを出してくる。改良、改善も社員の力になる。やっと笑顔になった。
女性社員が、7000軒ものユーザーに送る輸送会社を、地域別に一番安く一番早い「運送会社比較表」を作って運送費を減らした。消耗品は使い古しのものと交換することにした。文具消耗品経費が大幅に減った。

もうかる新商品を

新しい商品開発も社員のアイデアだ。松浦社長は胸を張る。紙袋の把手のシェアは70%を占めている。ユーザーは一般的にコストばかり追及するが、景気の回復でほかに無い高級な把手を採用する会社も増加して来ている。
その中で、横綱のまわしをヒントに32歳の社員が高額商品を企画した。「商品を入れる紙袋は50〜60円が普通。この紐をつけた袋は100円で売れる。アパレル関係に採用されました」。売れるわけがないといわれた高級な組紐に、化粧品、宝石、ブランド品業界から注文が来た。 さらにレベルの高い企画にも挑戦している。

「いま、日本一のテーマパークに2週間に1回新しい企画を提案しています。一番大事なのは『速さ』なのです。デザイナーは作れるかどうか関係なしに描きますから、それを完成した商品に仕上げる過程が大変なのです。デザイナーの書いた平面の図面を、社内で立体的な3D画面に起こし、ユーザー様に提案できている。難易度の高い仕事をスピードアップで対応し、新しい受注を増やしている。テーマパークに行くと当社の商品でポップコーンを食べているかもしれませんよ」。笑顔から自社製品への自信と、絶えない開発成果への確信が伝わってくる。
人間の能力は鍛えれば鍛えるほど成長する・・・松浦社長の信念は、実は社員が教えてくれたものかも知れない。

工夫、改善でオンリーワン

「部外の方には、当社の工場内はお見せ出来ません。機械の工夫、改善が当社の宝です。簡単そうでも他がマネのできないことが”勝ち残り“を決めるのです」。
新しいロープマシンを購入する為にヨーロッパを訪れた。工場で松浦社長は自分の会社と同じ光景を見た。「工員が自社で全ての機械部品を作り、それを使い機械を仕上げていた。パーツを、うちと同じように、自分たちで作っていたのです」。
ヨーロッパの物づくりの伝統を見て確信した。みずから工夫して改善した機械なしには、独自の商品は生まれない。

「この1年間は今までにない改革に挑んだ。社員みんながひとつになって『何とかしよう』と困難に立ち向かってくれた」・・・松浦社長と進化した社員の改革に終わりは、無い。

松浦 公之 | まつうら ひろゆき

略歴
60歳、香川県善通寺市出身

1969年 立教大学卒業、長瀬産業入社
1973年 松浦産業入社
1980年 代表取締役専務
1988年 代表取締役社長

松浦産業株式会社

住所
香川県善通寺市上吉田町270-1
代表電話番号
087-762-2555
設立
1932年
社員数
48人(2007年6月時点)
事業内容
PP・PE延伸テープ及ロープ
PP・PE製の梱包用玉巻
紙袋・PE袋用把手、アクリル平紐、丸紐
インジェクション成型品 
資本金
8000万
地図
確認日
2007.09.06

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