最先端センサ技術で観音寺から世界へ挑む

ヴィーネックス 社長 津村 学 さん

Interview

2024.06.06

田園風景が広がる観音寺市吉岡町のヴィーネックス本社屋上から。 右後方に見えるのは七宝山。自社開発した「CIS型ラインカメラ」を手に

田園風景が広がる観音寺市吉岡町のヴィーネックス本社屋上から。
右後方に見えるのは七宝山。自社開発した「CIS型ラインカメラ」を手に

世界中の金融機関支える「CIS」

来月、新紙幣が発行される。紙幣のデザインが変わるのは2004年以来20年ぶりで、1万円札には渋沢栄一、5千円札には津田梅子、千円札には北里柴三郎の肖像が描かれる。

銀行のATM(現金自動預払機)などで出し入れする紙幣。本物か偽物かを瞬時に判別する超高性能なセンサを製造している会社が香川にある。観音寺市に本社を構えるヴィーネックスだ。

2009年、親会社で大手総合化学メーカーのカネカからセンサ事業を継承し、高松に本社を置き、観音寺に工場を持つアオイ電子の出資も受けて創業。以来、日本だけに留まらず、世界各国のATMに取り付けられている「紙幣鑑別用センサ」を製造・販売している。「紙幣がある国のほとんどで私たちが手掛けたセンサが使われています」。カネカの技術者などを経て、昨年4月から会社を率いる津村学さん(57)は力強く語る。
製造工程で使用するロボット

製造工程で使用するロボット

ATMに搭載されている紙幣鑑別用コンタクトイメージセンサ(CIS)。カネカが持つセンサ技術とアオイ電子の実装技術を応用し、電気回路や光学レンズをヴィーネックスが独自開発した。文字通りレンズに紙幣をコンタクト(密着・接写)させ、赤外線や紫外線など様々な光によって対象物を歪みなく正確に読み取っていく。CISはまさにATMの心臓部だ。

「紙幣の真贋を見極める精度はもちろん、1秒間に数十枚を読み取る高速性にも長けています。私たちの技術力が世界中の金融機関で現金取引の安心と安全を支えている、と自信を持っています」

“コンタクトしない”技術で活路

しかし、時代は変わりつつある。「キャッシュレス化」だ。「将来的に紙幣は減り、ATMもどんどん減っていくと見られています」

このままだと事業が縮小していくのは目に見えている。だが、ただ手をこまねいているわけにはいかない。ヴィーネックスではキャッシュレス化の流れを事業の転換期と捉え、2018年頃から新たな技術開発をスタートさせた。「これまでのCISはレンズから対象物までの距離、WD(ワーキングディスタンス)が数ミリ程度。“コンタクト”することで正確に読み取れますが、それゆえに対象物が厚みのない紙幣などに限られていました」

そこで着目したのが“コンタクトしない”CISだ。「コンタクトしなくても読み取ることができれば、対象物は格段に広がります」。だが、そこには大きな壁が立ちはだかった。WDが長くなればなるほど、ピントがずれたり、対象物の端の方に歪みが出たりする。「これが最大の課題でした」

紙幣鑑別用CISで培った技術やノウハウを注ぎ込み、何度も失敗を繰り返し、実に4年がかりでWDを5センチまで広げることに成功。新製品「CIS型ラインカメラ」が誕生した。
会議の様子

会議の様子

WDが広がったことで、凹凸のあるプリント基板など紙以外でも隅々まで歪みなく読み取れるようになった。5センチあれば手指も入り、メンテナンスも容易になった。またコンパクトなため、現場の省スペース化も期待できる。2022年の発売以降、工場の製造ラインでの検査機材などとして引き合いが相次いでいる。

「食品工場やEV関連、半導体材料の検査など、いろいろな活用法をいま考えているところです。これまで人がやっていたことをカメラでできるようになり、人手不足の解消にも貢献できる。時代の流れをチャンスに変えていきたいと思っています」

「プロフェッショナル集団」目指して

東北大学大学院理学研究科を修了後、1993年に入社したカネカ(当時は鐘淵化学工業)でちょうど30年を過ごした。

最初の10年は材料開発の技術者として。将来の新材料について研究する通産省(当時)主導のナショナルプロジェクトにも参加し、「有機ケイ素化合物で、LEDの発光体を保護する『封止材』にも使用される耐熱耐光透明樹脂を開発。新たな材料をゼロからつくり出すのは、大きなやりがいでした」

その後は、新材料の製品化、販路を開拓する営業やマーケティング、新規事業開発などに携わった。「中国赴任時には、新製品のLED用封止材を現地メーカーに売り込みましたが……中国では実績のない新しいものはなかなか受け入れてもらえず、打ちのめされました」と苦笑する。
紙幣鑑別技術を応用。時代の流れをチャンスに変える

紙幣鑑別技術を応用。時代の流れをチャンスに変える

確固たる技術力のもとで生み出された新しい製品を、市場を切り拓きながら世の中に出していく。カネカでの経験がそのままヴィーネックスでも生きていると津村さんは話す。「技術と営業、どちらの気持ちも分かる私だからこそできることはたくさんあると思う。CISの唯一無二の技術力で、事業をどんどん大きくしていきたいですね」

これまで香川に縁はなかった。でも、穏やかな風土や人柄に触れ、1年余りですっかり魅了されたと話す。「目指すは、お客様に頼られるプロフェッショナル集団。観音寺の70人ほどの小さな会社が世界へ向けて最先端技術を発信していく。その面白さにとてもワクワクしているんです」

津村 学 | つむら まなぶ

略歴
1967年 奈良県五條市出身
1985年 奈良県立畝傍高校 卒業
1993年 東北大学大学院理学研究科化学専攻 修了
     鐘淵化学工業株式会社(現株式会社カネカ)入社
     新規材料の研究開発、新規事業開発などを経て
2023年 株式会社ヴィーネックス 出向
     代表取締役社長 就任

株式会社ヴィーネックス

住所
香川県観音寺市吉岡町262番地(アオイ電子観音寺工場内)
代表電話番号
0875-57-5301
設立
2009年10月1日
社員数
69人
事業内容
紙幣鑑別および産業用CIS(コンタクトイメージセンサ)の開発・研究・製造・販売
資本金
3億1000万円(出資比率:カネカ66%、アオイ電子34%)
地図
URL
https://www.vienex.co.jp/
確認日
2024.06.06

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