企画、縫製、営業 三位一体の強みで世界へ

スワニー 社長 板野 司さん

Interview

2014.07.03

「娘さんをください」「それやったら、うちの会社に入ってくれんかな」

手袋・鞄メーカーのスワニー社長(当時・現会長)三好鋭郎さんに、三女・優子(やすこ)さんとの結婚の挨拶に行った時、突然入社を勧められた。父親の苦労を知る優子さんには、その場で猛反対されたが、「すっかり気が動転して・・・・・・『はい』としか言えませんでした」。人生が大きく変わった。

勤めていた高松市の繊維商社を辞め、1993年、スワニーに入社。以来、常について回る「社長の娘婿」の肩書に悩まされた。

社長に就任し、丸5年が過ぎた。サラリーマン家庭に育った板野司さん(51)は、いつまでも社員と同じ気持ちでありたいと、自身を社長ではなく、「社員長」と呼ぶ。

オリジナルブランドの手袋は欧米へ、ヒット商品のバッグはアジアへ。社員長・板野さんは、世界のマーケットへ視線を向ける。

娘婿・・・・・・10年かかった社員との距離

社長のイスが約束されていたわけではなかった。一社員としてスワニーに入ったが、周りは、そうは見なかった。年上の社員でも、社長の娘婿を"さん付け"で呼び、敬語を使った。入社を歓迎されていないと感じた。でも、お客さん扱いに「いい気になっている」という自覚もあった。

何も知らなかった手袋のことを学ぶため、中国の縫製工場に出向もし、一から営業もやった。しかし、入社から10年が過ぎても、「社員との関係はうまくいかないまま。距離感がつかめなかったですね」

2003年、先輩の幹部社員3人と一緒に、自己啓発セミナーに参加した。講師が先輩社員に言った。「板野さんのことを思って、普段言えてないことを言ってください」。皆、遠慮がちだったが、講師がけしかけると、やがて本音が出てきた。「社長の娘婿だと思って、社員への対応が悪い」「言い方がきつい」「本音をまったく話していない」・・・・・・最初は腹が立った。しかし、次々と浴びせられる言葉に頭が混乱した。気がつくと、ぼろぼろに泣き崩れていた。

研修が終わると、ひとりの先輩社員が声をかけてきた。「言いたいことを言わせてもらったけど、これからは一緒に会社を引っ張っていこうよ」。また、涙が出てきた。

「その時、分かったんです。社長の娘婿ということで、彼らが僕に対して距離をとっていたんじゃなく、僕自身が距離をおいていたんだと。立場は変えられない。だから、気にせず自分を出していこうと思いました」

09年、社長に就任。「働きがいはあるか」「社員は幸せを感じているか」・・・・・・板野さんは、社員のことを第一に考えるES(Employee Satisfaction)経営を、まず最初に掲げた。

5年連続全米トップシェア

スワニーは、スキーなどのスポーツ用と、ファッション用の手袋を製造販売している。国内では、スキー手袋の国内トップシェアを誇るものの、OEM、ODMがベース。大手スポーツメーカーなどとの付き合いもあるため、スワニーブランドが表に出ることはまずない。しかし、米国では違う。

自社ブランドを前面に出したスキー手袋「SWANY」を販売。ブランド別売上シェアは17.5%(13年シーズン)で、5年連続全米トップを走る。その要因について板野さんは、企画、縫製、営業、三位一体の結集だと語る。

「中国に縫製工場を出して30年。中国人は手先が器用で、培った技術は相当なものです。それに加わるのが、日本人による企画や素材開発といったモノづくりの精神と、アメリカ人のマーケティング力。それぞれの国民性が生かされた商品力、これが我が社最大の強みです」。オリンピックのナショナルチームへも商品提供し、認知度もアップした。

自社ブランド商品は、文字通り自社で価格を設定できる。他社との価格競争が発生するOEM、ODMより利益率も高い。

「次に狙う市場はヨーロッパです。アルペンスキーの本場でブランド力を伸ばしていきたいですね」

OEM
Original Equipment Manufacturing。相手先のブランド名で製造すること。

ODM
Original Design Manufacturing。OEMをさらに進化させ、設計から製造まで手掛けること。

高齢化進むアジアに照準

ハンドルが内側に湾曲したスワニーバッグ。耐荷量100キロで、キャスターも360度滑らかに回転する

ハンドルが内側に湾曲したスワニーバッグ。耐荷量100キロで、キャスターも360度滑らかに回転する

スワニーには、もうひとつの強みがある。義父で現会長の三好鋭郎さんが、自身の足が不自由な目線で開発した、ハンドルとキャスター付きの「スワニーバッグ」だ。

旅行カバンで目にするキャリーバッグだが、ハンドルは押すだけではなく、杖代わりにもなる。100キロの重さまで支えられる湾曲したハンドルと、滑らかに回転するキャスターは特許も取得。国内で年間12万個を売り上げ、お年寄りや障害を持つ人にも優しいヒット商品となった。バッグ専門店のほか、百貨店の介護用品売り場でも取り扱われ、購入した女性から「バッグのおかげで、主人と楽しく外出できるようになった」といううれしい便りも届いた。

「荷物を運ぶバッグ」から「体を支えて一緒に歩いてくれるバッグ」へと、発想をがらりと変えたスワニーバッグは、今のところ他社の追随を許してはいない。

「外出時に欠かせないハンドバッグのような存在になれるよう、今は小型化を進めています」

今後は、日本と同じく高齢化が進み、一人当たりの所得も高い、シンガポールや香港など、アジアに照準を絞る。今年、上海の百貨店にも売り場が出来た。

「SWANY」で世界へ

2010年頃、大きな壁にぶつかった。中国人の人件費高騰だ。10年前の実に3倍。現在も、毎年15%ずつ上がり続けている。さらに、人材が大手の自動車や電機メーカーに流れ、ピーク時に1500人いた中国人工員は900人に。深刻な人手不足に陥った。

「こりゃいかんと、いろんな国を回りました。バングラデシュ、インドネシア、ベトナム、ラオス・・・・・・社長になって一番の大きな決断でした」。カンボジアに工場を出すことを決めた。「縫製業をやりたいと、人が集まってくれたんです。仏教徒で情愛の通じる民族ですし」

12年2月、工員400人のカンボジア工場が稼働。攻める体制が整った。

「中小企業はニッチトップを目指していかなければなりません。強みを生かし、大手が参入できない商品でブランドビジネスを展開する。これからは『SWANY』という名前がついた商品で、世界へ販路を広げていきます」

◆写真撮影 フォトグラファー 太田 亮

板野 司 | いたの つかさ

1963年3月12日 さぬき市生まれ
1985年3月 松山商科大学経済学部卒業
1985年4月 繊維商社入社
1993年6月 スワニー入社、中国スワニー出向
1994年4月 ファッション事業部営業担当
2005年3月 ファッション事業部部長
2007年3月 常務取締役
2009年3月 代表取締役社長就任
日本手袋工業組合副理事
写真
板野 司 | いたの つかさ

株式会社スワニー

住所
香川県東かがわ市松原981
代表電話番号
0879-25-4101
事業内容
グローブ(ファッション、カジュアル、ドレス、スポーツ等)および、ラゲッジ(鞄類)の生産販売および輸出入事業
資本金
9000万円
代表取締役会長
三好鋭郎
代表取締役社長
板野 司
沿革
1937年 前会長三好冨夫が白鳥町にて個人創業
1950年 三好繊維工業(株)設立
1972年 (株)スワニーに社名変更
1980年 米ニューヨーク市にSwany USA Corp.設立
1984年 中国江蘇省昆山市に中国スワニー(有)設立
1987年 米Elmer Little & Sons, Inc.社を買収
1995年 新規事業のバッグ事業部発足
米2社をSwany America Corp.に統合
2005年 中国安徽省青陽県に中国スワニー分工場設立
2007年 第2回ニッポン新事業創出大賞
(アントレプレナー対象部門)最優秀賞受賞
2011年 カンボジアにSwany Cambodia Corp.設立
2013年 四国でいちばん大切にしたい会社大賞
中小機構四国本部長賞受賞
地図
URL
http://www.swany.co.jp/
確認日
2018.01.04

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