紙と活版印刷に魅せられて

かみをり 飯田 博さん

Interview

2014.07.17

カラフルな商品の間にディスプレーされている、見慣れない道具たち。「活版印刷や写真植字に使われていたもので、廃業した印章店から譲り受けたんです」と、飯田博さん(44)。高松市の田町商店街にある「かみをり」は、紙の雑貨の販売と、活版印刷をはじめ、あらゆる印刷のオーダー受け付けを行っている。「紙が居る場所」との意味を込めて、漢字では「紙居」と書く。
飯田さんは、東京で6年ほど出版の仕事に携わり、香川に帰郷後、印刷会社に就職。13年間勤め、印刷に関する知識を身に付けた。そして退職後、2013年4月に「かみをり」をオープン。「いろいろな人と出会い、お客様とじっくり向き合って仕事がしたいと考えました。窓口として事務所でなく店を構えたのは、その方が足を運んでもらいやすいからです」

印刷そのものや印刷物が好きなのだという。学生のころからレコードジャケットや切手など美しい印刷物を集めていた。自分が好きなものを扱う店にしようと、全国各地や海外からレターセットやコースターなど紙の雑貨を仕入れている。興味を持った商品や作家を訪ねて、東京や京都など各地へ足を運ぶこともしばしば。「皆さんが欲しいと思っているものや、まだ見たことがないようなものを集めたい」

店では活版印刷のオーダーも受け付ける。顧客は30〜40歳代が中心で、県外からも注文が入る。名刺やショップカード、パーティーの招待状などの注文が多く、名刺であれば、100枚8000円程度から。「出来上がった印刷物には、独特の味わいがあると思います。活版印刷を知らない若い世代には新しいものとして、年配の人には懐かしいものとして受けているのでは」

現在、印刷の主流となっているのはオフセット印刷と呼ばれる方法。それ以前、長く主流を占めていたのが活版印刷だ。活字を組み合わせて作った活版や、亜鉛で作った金属板など凹凸のある版を紙に押し当てるため、文字や絵柄のある箇所がくぼんだようになる。

活版の製造と印刷は、市内の印刷所に依頼。飯田さんは印刷物のデザイン作成や、印刷作業に立ち会って仕上がりの調整を行う。「活版を作るには職人の技術が必要。ほんのわずかな隙間があるだけで、印刷できないんです。伝統ある技術を残すことに貢献できれば」

かつては、活版印刷だと分からないように押すのが、職人の腕の見せ所だったそうだ。今は、あえて活版と分かるように押してもらう。「手触りも楽しいし、インクのかすれやムラも味わい深いですね」

店を構える一方で、飯田さんはデザイナーとしても活躍。企業のロゴやキャラクター、広告のデザインを手掛けている。約8坪の店内はショップであり、飯田さんの作業場でもある。

オープンから1年あまり。「こんなものが作れないか」という相談も受けるようになり、だんだんと「かみをり」の存在が知られてきたと感じている。商店街に店を設けたことも良い作用があるようだ。

店の入り口にさりげなく生けられたテッセン。花をきっかけに、足を止めてくれる人もいる。自分に足りないものを補いたいと思い、通い始めた生け花は、6年ほど続けている。

「ゆくゆくは、店内で活版印刷を体験できるようにしたい。活版や印刷物の魅力を感じてもらえたら。ほかではできないことを提供する、プロフェッショナルでありたいですね」

飯田 博 | いいだ ひろし

1970年1月 高松市生まれ
1988年3月 高松工芸高校 卒業
      ジュエリーのデザイン・制作会社に3年間勤務後、出版社を経て、印刷会社に勤務
2013年4月 「かみをり」オープン
写真
飯田 博 | いいだ ひろし

かみをり

所在地
高松市田町7−1
TEL
087-861-0875
事業の概要
デザイン・各種印刷(名刺・ハガキ・招待状・大判ポスターなど)、雑貨販売
確認日
2018.01.04

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