「当たり前」を積み重ね 中小企業を元気に

かがわ産業支援財団 理事長 近藤 清志さん

Interview

2022.06.16

高松市出身の現代美術作家・川島猛さんの作品「SPACE TRIP ’96 KAGAWA」の前で=高松市林町のかがわ産業支援財団入口ロビー

高松市出身の現代美術作家・川島猛さんの作品「SPACE TRIP ’96 KAGAWA」の前で=高松市林町のかがわ産業支援財団入口ロビー

“攻めの経営”を後押し

“かがわ産業支援財団”と聞くと、「補助金をくれるところ?」とイメージする人も多いかもしれない。だが、決してそれだけではない。

新たな産業の創出、経営基盤の強化、販路開拓、人材育成……かがわ産業支援財団はあらゆる角度から、県内の中小企業を支え、応援している。今年4月、理事長に就いた近藤清志さん(60)は、「中小企業が持つ“無限の可能性”をパートナーとしてサポートし、一緒に地域を元気にしたい」と力強く話す。

主な取り組みの一つに、「プロフェッショナル人材戦略拠点事業」がある。豊富な経験や専門的な知識を持つ人材と、企業とをマッチングし、“攻めの経営”をバックアップする。「中小企業では今も終身雇用の考え方が根強く、『中途採用は難しい』『うちにはどうせ来てくれない』と端から諦めている企業も少なくありません」。しかし、社会の動きは変わりつつある。「キャリアを重ねたのち、『これからは故郷のために働きたい』とか、『親の近くにいたい』と思う人も増えている。今は“副業”という考え方もあります」
専門家による経営相談の様子

専門家による経営相談の様子

東かがわ市の機械部品メーカーでは、近く代替わりが予定され、財務や総務、将来の成長戦略など、次期若手社長の右腕になれる人材を欲していた。財団に相談したところ、最適な“プロフェッショナル”が見つかった。「外資系企業に20年以上勤め、起業やシンクタンクでのコンサルタント経験もある50代の男性。東京から離れ、自然環境に恵まれた土地での暮らしを望んでいました」。企業側と男性、双方の事情や条件をじっくり聞き、マッチングが成立。販売戦略の立案、商標登録、地元大学との共同開発などに加え、若手従業員の悩み相談にものってくれるなど、早速、大活躍してくれている。「お互いのニーズをうまく繋げられたと、私たちもとても喜んでいます」

財団では、全国の人材紹介会社などと連携し、年間100件以上の“プロフェッショナル人材”のマッチングを実現している。近藤さんは「中途採用者の確保は、中小企業にとって生命線。給与などの待遇面だけではなく、働きがいや人間関係にも踏み込んだ“伴走型”の支援が私たちの強みです」と力を込める。

番の州臨海工業団地を完売

「香川のため、地域のため」を地で行く人だ。大学卒業後、香川県庁に入り、県営住宅の管理、生活保護のケースワーカー、広域エリアの観光キャンペーン、世の中がアナログからデジタルへと切り替わる頃には、県域ブロードバンド化への旗振り役を務め、希少糖の事業化も主導した。

信条は「当たり前のことを当たり前に」。商工労働部時代には企業誘致に力を入れた。「香川に来ることでどんなメリットがあるのか。周辺住民や地元自治体とうまくやっていけるのか」。関係者の信頼を得られるよう、企業や地元の実情を徹底的にリサーチし、「“誰かが得をして、誰かがその分損をする”のではなく、関わった人すべてが“プラスになる”ことを一番に心がけました」。大手から地元企業まで、まとめ上げた“縁談”は実に20社以上。売れ残りが目立っていた番の州臨海工業団地も完売にこぎつけた。

部長職を務めた2年間はコロナウイルス感染症関連の経済対策に追われたが、「何とか、困っている事業者に少しでも早い支援を」と、国が示す制約の中で工夫を重ねた。「完璧な制度はないので、不満やお叱りもたくさん受けた。でも、『支援金のおかげで店が潰れずに済んだ』といった喜ぶ声に救われました」と頬を緩める。

「それぞれの部署ごとに思い出深い。中には嫌われる仕事もあったが、お世話をした人やそのご家族から『ありがとうございました』『これから頑張ります』と言ってもらえた時には『頑張って良かったなあ』と。その一言が何よりのご褒美でしたね」。県庁マンとして駆け抜けた38年をしみじみと振り返る。

60点でも70点でもいい

「困った時には財団に行けばいい」。地元企業のなくてはならない存在になることが、新天地で再スタートを切った近藤さんの新たな目標だ。

職員たちに大切にしてほしいことが3つある。1つ目は「できることはスピーディーに」。例えば、企業から10の困りごとが寄せられた場合、10全てをきちんとそろえてから回答することがよくある。だが、「相手は1でも2でも、すぐに解決したいはず。いくら100点満点の回答をしても、提出期限が過ぎていれば0点です。60点でも70点でもいい。相手の立場に寄り添って考えなければなりません」
かがわ産業支援財団主催の「かがわビジネスモデル・チャレンジコンペ2021」の表彰式

かがわ産業支援財団主催の「かがわビジネスモデル・チャレンジコンペ2021」の表彰式

2つ目は「できないことは、『なぜできないのか』を丁寧に説明する」。そして3つ目は……「絶対にインチキはしない」

すべてに通ずるのは、「当たり前のことを当たり前に」の精神だ。「実は意外と難しいんですが、仲間たちとチームワーク良く、『当たり前』を日々コツコツと積み重ねていきたいですね」

篠原 正樹

近藤 清志 | こんどう きよし

略歴
1961年 善通寺市出身
1980年 丸亀高校 卒業
1984年 早稲田大学政治経済学部経済学科 卒業
     香川県庁 入庁
     住宅課、仲多度事務所、観光振興課、
     環境・土地政策課、情報政策課などを経て
2012年 商工労働部企業立地推進課 課長
2020年 商工労働部長
2022年 定年退職
     かがわ産業支援財団 理事長

公益財団法人 かがわ産業支援財団

住所
香川県高松市林町2217-15 香川産業頭脳化センタービル2F
代表電話番号
087-840-0348
設立
1984年
社員数
95人
事業内容
1.新産業創出及び地域産業革新の支援

2.地域企業の経営基盤強化の支援

3.産業技術の高度化の支援

4.科学技術の振興の支援

5.下請中小企業の振興の支援

6.創業支援、ベンチャー企業育成及び産業の高度化等のための施設の運営

7.香川県知事の指定を受けて行う県有施設の管理及び運営

8.その他この法人の目的を達成するために必要な事業
地図
URL
http://www.kagawa-isf.jp/
確認日
2022.06.16

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