縁の下で支える 中小企業の応援団

かがわ産業支援財団 理事長 大津 佳裕さん

Interview

2017.02.02

高松市林町のかがわ産業支援財団

高松市林町のかがわ産業支援財団

香川で生まれ、「夢の糖」「奇跡の糖」とも呼ばれる希少糖。研究開発した香川大学と企業を繋いでシロップやスイーツの商品化を実現させ、希少糖を全国区へと導くコーディネート役を果たしたのが、かがわ産業支援財団だ。

昨年4月に理事長になった大津佳裕さん(60)は、「あくまで主役は商品をつくる企業や研究機関。それを全力で支えるのが私たちの使命」と繰り返す。「今風な言葉で言うと『企業ファースト』です」

起業支援、知的財産権に関する相談、助成や融資に人材育成・・・・・・守備範囲は広く、それぞれの分野の専門家が知識と経験を駆使して中小企業経営者をサポートする。

合言葉は「夢をカタチに」。かがわ産業支援財団のスペシャリストたちが、縁の下から香川のものづくりを支えていく。

「ウィンウィン」を目指して

「資金繰りが厳しい」「商品が売れない」「後継ぎがいない」・・・・・・。経営者たちの悩みは多い。

経営に関する様々な相談に無料で応えるかがわ産業支援財団の「よろず支援拠点」には、県内の中小企業の経営者から毎月170件を超える相談が寄せられる。「経営者の方に頼りにされているとうれしく思う反面、責任の重大さを強く感じています」

昨年、香川発の新商品が生まれた。「さぬきマルベリーティー」。桑(mulberry:マルベリー)の葉でつくるお茶だ。

ペットボトルのお茶に押され、売り上げが伸び悩んでいた高松市の老舗日本茶メーカーに、支援財団の事業の一つ「農商工連携ファンド」の活用を提案した。中小企業と農林漁業者の連携を橋渡しし、商品開発、PR、ブランディングや販路開拓など総合的にバックアップするもので、さぬき市のJA香川県四国大川女性部には桑茶の生産拡大を働きかけた。「さぬき市では以前から良質の桑がつくられていましたが、ここ数年は畑が猿に荒らされ、大量栽培が難しい状態になっていました」
農商工連携ファンド事業で生まれた 「さぬきマルベリーティー」

農商工連携ファンド事業で生まれた
「さぬきマルベリーティー」

JA女性部が桑畑を管理して栽培を拡大。桑茶は、老舗メーカーならではの色と香りを最大限生かした日本茶製法で仕上げた。支援財団の研究員による「風味を損なわないレモンの乾燥方法」の技術指導も入り、新感覚の「レモン風味桑茶」も誕生。完成した3種類の商品は女性誌などで取り上げられ、「面白いお茶がある」「おいしい」と全国的にも注目された。JA女性部の実在するスタッフをデザインしたユニークなパッケージも話題になり、「さぬきマルベリーティー」は瞬く間にヒット商品になった。

「連携事業は、相手が見つからなかったり目指す方向が違ったりと難しい点が多々あります。大切なのは企業が持つ技術やニーズを的確に見極めること。今回のようなウィンウィンの結果に繋がった時は大きなやりがいを感じますね」

税金を扱う責任

旧津田町で生まれ育ち、広島大学を卒業後、香川県庁に入った。商工労働部、政策部、健康福祉部と様々な部署を経験したが、「あの時の苦労は決して忘れることはありません」

2010年4月、県病院局長に就任した。最大の任務は、老朽化した県立中央病院の新築移転の指揮だった。

中央病院は防災面や利便性を巡り、移転先をどこにするかでもめにもめた。最終的には海沿いの埋め立て地だった今の高松市朝日町に決まり、11年3月5日、着工した。しかし6日後、東日本大震災が発生。「あの海際で本当に大丈夫か、別の場所にすべきだ、と議論が再び振り出しに戻りました」

大津さんは工事を一時中断し、専門家を集めてさらに防災対策を練った。地盤のかさ上げ、液状化防止範囲の拡大などを計画に加え、約半年後に工事を再開、総事業費250億円をかけた新病院は14年3月に開院した。「香川大学病院や高松赤十字病院など主要病院の位置関係のバランスから見て、私はあの場所が絶対に良いと思っていました。本当に大変でしたが、安全対策を強化できたことも結果的には良かったと思っています」

小泉内閣の三位一体改革で地方交付税が削減された頃は、予算調整室長として県が行う事業の見直しや打ち切り、職員の給与カットに頭を悩まされた。

長く県職員を務める中で常に感じていたのは税金を扱うことの責任だ。公益財団法人であるかがわ産業支援財団も独自の事業収入はほとんどなく、運営費は国や県からの補助金や基金の運用益、企業からの寄付などで賄われている。「だからこそ私たちは、香川の産業が少しでも成長できるように全力を尽くさなければなりません」

支援財団へ行けば何とかしてもらえる。そんな企業から信頼される存在になりたいと大津さんは力を込める。

新たなチャレンジを応援

国内最大規模の商談展示会 「スーパーマーケット・トレードショー」 に香川県ブースを出展 =昨年2月、東京ビッグサイト

国内最大規模の商談展示会
「スーパーマーケット・トレードショー」
に香川県ブースを出展
=昨年2月、東京ビッグサイト

支援財団の主要な事業に「プロフェッショナル人材戦略拠点」がある。民間の人材派遣会社などと連携し、人を求める企業と仕事を求める人とをマッチングさせるもので、「昨年1年間で約30人の採用に繋がりました。このうちの7割が県外在住者でした」

大津さんが今後力を入れていきたいのが、この人材支援だ。香川の有効求人倍率は1.71倍(昨年11月時点。全国平均は1.41倍)で、人手不足に悩む企業は少なくない。「人口減もありますが、若者が県外へ出ていって、なかなか帰ってきてくれません」

そこで計画しているのが、香川大学や香川高専の学生向けの企業見学会や、経営者による出前授業だ。「地元にも優れた企業がたくさんあるのに、若者たちにあまり知られていないのが現状です。学生のうちに知ってもらうことで、企業の人材確保や人材育成に繋がるのではと思っています」

県職員になって最初に配属された経済労働部商工課(当時)。企業への融資が主な仕事で、社員数人の小さな会社から中堅企業まで、多くの経営者を訪ねて回った。「社会に出たばかりで分からないことだらけでしたが、こんな私でも社長さんが経営について熱心に話してくれるのがとてもうれしかったですね」。バイタリティーやスピード感があって、先を見通し、考え方が絶対にぶれない。元気な会社の経営者には共通点が多かったと振り返る。
国内最大規模の商談展示会「スーパーマーケット・トレードショー」に香川県ブースを出展=昨年2月、東京ビッグサイト国内最大規模の商談展示会
「スーパーマーケット・トレードショー」
に香川県ブースを出展
=昨年2月、東京ビッグサイト
創業、新商品の開発、新分野への進出や海外展開、新事業の立ち上げ・・・・・・新しいことへのチャレンジを応援するのが支援財団のモットーだ。かつて出会った経営者たちの姿から学び取ったことがある。

「新しいことを目の前にするとどうしても、難しいとか無理じゃないかとか、『できない理由』を考えてしまう。でも、それでは先に進めない。できない理由を考える前に、『どうすればできるか』と前向きに考えなければならない」。大津さんはこの教えを今、職員たちに繰り返し呼び掛けている。

編集長 篠原 正樹

大津 佳裕 | おおつ よしひろ

1956年 さぬき市生まれ
1979年 広島大学政経学部(当時)卒業
    香川県 採用
経済労働部商工課(当時)配属
2008年 政策部次長
2010年 病院局長
2012年 商工労働部長
2013年 健康福祉部長
2015年 総務部長
2016年~2021年 かがわ産業支援財団 理事長
2022年 6月 セカンドハンド理事長

公益財団法人 かがわ産業支援財団

住所
香川県高松市林町2217-15 香川産業頭脳化センタービル2F
代表電話番号
087-840-0348
設立
1984年
社員数
95人
事業内容
1.新産業創出及び地域産業革新の支援

2.地域企業の経営基盤強化の支援

3.産業技術の高度化の支援

4.科学技術の振興の支援

5.下請中小企業の振興の支援

6.創業支援、ベンチャー企業育成及び産業の高度化等のための施設の運営

7.香川県知事の指定を受けて行う県有施設の管理及び運営

8.その他この法人の目的を達成するために必要な事業
地図
URL
http://www.kagawa-isf.jp/
確認日
2022.06.16

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