尊敬と信頼の幸せな出会い

桜製作所 代表取締役会長 永見 眞一さん

Interview

2008.09.04

ジョージ・ナカシマは、世界でもっとも高価な家具を作る作家の一人だ。高度な技術を要求するデザインが、用途を超えたきわどい「美」を生む。節や割れ目を生かした無垢の家具は、使い込むほど、より「美」を深める。
その家具は、米国のナカシマ工房と牟礼町の桜製作所で作られている。永見眞一さんは高松工芸高校で学んだ同級の高松顕さんとサクラ製作所(3年後、桜製作所)を創業、ナカシマの感性に敬愛を込めてデザイン、製作に携わってきた。

※(ジョージ・ナカシマ)
米国生まれの日系二世。20世紀を代表する家具デザイナーのひとり。建築家。1990年没。

讃岐民具連で物語が始まった

1958年に竣工した香川県庁は丹下健三の設計だ。その橋渡し役は洋画家、猪熊弦一郎で、当時の知事、金子正則はデザイン知事と呼ばれ、創造都市の概念を半世紀前に先取りしていた。イサム・ノグチは牟礼町に、流政之は庵治町にアトリエと住居を構えた。
「アメリカで活躍していた流先生の呼びかけで、職人さんが集まりました」。1964年、流の薦めで来日したナカシマは「讃岐民具連」に共鳴して、永見さんと交流が始まった。 1968年、新宿小田急ハルクで第1回「ジョージ・ナカシマ展」が開かれ、日本で初めて本格的にナカシマの家具が紹介された。「アメリカから木を運んで作りました。最初は半分売れ残り、その後少しずつ売れるようになりました」。展覧会は1991年の追悼展まで8回開催され、1993年の回顧展が全国4カ所の美術館を巡回した。
「ナカシマさんは建築家で、構造の強さのギリギリまで追及したデザインが面白いんです」。一昨年米国のオークションで、テーブルが83万ドルで落札された。十数年前、桜製作所が入手した両開きの戸棚も、いまは相当な値打ちだろう。

※(創造都市)
芸術家やデザイナー、建築家など、創造的仕事に携わる人材の力で市民の創造性を引き出し、地域の問題を解決していく都市。イギリスの研究者チャールズ・ランドリーが2000年に著した「創造都市」の概念。

※(讃岐民具連)
1963年設立、彫刻家の流政之が高松の木工、石工、漆、瓦などの職人に呼びかけた、大都市の影響を受けないで職人の手を生かしたプロダクトを作り出そうとする活動。

デザイン料はそんなにいりません

永見さんはナカシマの志と生き方に影響を受けた。「アメリカ、ニューホープの工房は敷地が5万坪もあります。お客さんを電気自動車で案内します。当時すでに自然環境に配慮していたんです。生活は質素で、子どもたちや奥さんとの家族生活を大切にされる方でした」。
流の呼びかけが、尊敬と信頼の幸せな出会いとなった。ナカシマは桜製作所の繊細で高度な職人の技術に目を見張り、家具つくりを任せた。合理化できる所は機械で、感性で作るところは職人の手が仕事をした。
評判になったが家具の売上は芳しくなかった。「そう売れる物でないから、デザイン料はそんなにいりません…。ナカシマさんに大変気を遣っていただきました」。
一方で桜製作所は80年代にセシール本社ビルの内装、90年代には東京・新国立劇場のカウンターやベンチ、海外では「グランド・ハイアット・シンガポールホテル」のロビーカウンターなどを受注し、木工造作の分野で業績を維持してきた。
いま永見さんは、仕事の集大成として創業60周年記念事業の「ミングレン ジョージ・ナカシマ記念館」(今年11月開館予定)の準備に追われている。

※(ニューホープ)
米国ペンシルヴェニア州ニューホープ

2代目社長の試練

「職人が一生懸命作った物を喜んで下さるお客様がいる・・・ナカシマブランドを守る私と、もっと売上を増やして利益を出したい社長の彼とはいつも言い争いになります」。
2代目社長の永見宏介さんは”父とナカシマ“に甘んじてはいない。「ナカシマさんはすばらしい。でも唯一無二ではないはずです。次を創り続けないとブランドは過去のものになります」。いろんな能力や感性をプロデュースして、職人仕事の付加価値をもっと高められるものを創りたい。”伝統を守り伝統を破る“。それは受け継ぐ者の永遠のテーマだ。

大富豪が尋ねてきた

昨年、ハイアットホテルのオーナーのトーマス・プリッカーさんがニューヨークから直接自家用ジェットで来られました。高松空港ではめったにないことで手続きに時間がかかったそうです。建設中の自邸用にと大きな楠木の板をご覧になって写真を撮って、それから庵治石を見に和泉屋さんにも行かれました。ハイアットホテルでも庵治石が使われていますから…」。

※(和泉屋)
和泉屋石材店。イサムノグチの作品制作を手がけた和泉正敏が仕事をする石材会社。

永見 眞一

株式会社桜製作所

住所
香川県高松市牟礼町大町1132-1
代表電話番号
087-845-2828
設立
1948年
事業内容
注文家具の製造・販売、店舗内装工事・設計・施工
設立
1948年
代表者
代表取締役 永見宏介
資本金
1000万円
売り上げ
2億2000万円(2011年8月期
従業員数
27人
事業所
本社・工場、桜ショップ銀座店、桜ショップ高松店
沿革
1948年 高松市番町2丁目で高松 顕(初代社長)と建築設計技師の永見眞一(現会長)の2人がサクラ製作所をモダンオリジナル家具の製造をする会社として創業
1951年 高松市花園町に移転、株式会社桜製作所の設立登記
1958年 香川県庁舎家具工事を手がける。彫刻家・流 政之氏に出会う
1963年 流氏が中心となった「讃岐民具連」に参加
1964年 ジョージ・ナカシマの指導のもと、木に接する姿勢、木工の理念を学ぶ。この頃、高松市丸亀町にショールーム、現在の牟礼町に工場を移転。ジョージ・ナカシマ家具のライセンス生産が始まる
1968年 東京小田急ハルクにて第1回ジョージナカシマ展開催、以降も計8回開催
讃岐民具連の名を冠した「ミングレンシリーズ」の家具を発表
1969年 東京国立近代美術館(竹橋)にミングレンIIテーブル、コノイドチェアを納める
1978年 イサム・ノグチ 草月会館1階ロビー作品の中の木の仕事を担当
1988年 高松市で株式会社セシール本社ビルの内装、家具工事を担当
1995年 東京都現代美術館のカウンター、ベンチなどを製作
2002年 香川・高松にショールームオープン
2004年 東京・銀座にショールーム「GINZA桜SHOP」オープン
2008年 創立60周年記念事業として、ジョージ・ナカシマ記念館オープン
地図
確認日
2018.01.04

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