甘えをいましめる「至誠通天」

高松市の繁華街で美容院などを経営する両親のもとに生まれ、化粧品事業を取りまとめる祖父に最も影響を受けたという商家育ち。裕福ではないが家族と楽しい幼少期を過ごし、「しんどくても顔に出さず、貧しくても見栄を張れ」という祖父の教えは今も強く意識している。「幸せとは、金銭の問題ではないと思っています」

四国医療専門学校を卒業後、鍼灸接骨院に就職したが、「責任感のないふわふわした態度で迷惑をかけている」と気づいて2年ほどで自主退職。思い切って自分の力で挑戦しようと、2010年に鮎滝接骨院を開業した。

1日30人近い来院者に対応しつつ、空き時間でパソコン教室に通い、経営に関する本を読み漁る日々を2年ほど送ったのち、専門学校時代の友人をビジネスパートナーとして「株式会社アリスプラン」を設立。現場経験の反省を踏まえて週休二日制の徹底・評価と昇給の見える化・労務時間の厳守といった働きやすい環境づくりに力を入れるかたわら、鍼灸接骨院事業はいずれ友人に任せていくつもりで、WEB事業に着手する。「今ほどネット予約が普及しておらず、鍼灸院の顧客管理のためにいろんなシステムを導入してみましたが、どうも使いづらい。もっと使いやすい現場目線のシステムを、我々ならつくれるんじゃないかと思ったんです」

2015年、WEB事業部を正式に立ち上げ、16年には独自の予約・顧客管理システム「LOYTEM」をリリース。サービス業の現場目線で課題を的確にとらえ、実際の現場で検証を重ねた使いやすさが強みで、鍼灸院に限らず個人店舗のスタートアップを広く支えている。23年には無料で使える飲食店向けテイクアウトシステム「TANOMO」も発表。現在は中村さんが設定からサポートまですべて対応し、外部エンジニアとの連携で事業を進めているが、「いずれは内製化して、営業力も強化したい」と意欲的だ。

子どもの頃から「影響を受けやすく持続しにくい性格」と自己分析する。社是の『至誠通天』には、甘えた気持ちをいましめる思いも込めた。さらに「人として叩き直された」と振り返るのが、祖父が開設し、中村さんもボランティアで空手を教えていたスポーツ少年団だ。「団の存続を支えるのは自分だという覚悟と、子どもを預かる責任感を学びました。子どもたちに指導する立場なのに、自分が実践できていないのはダサいじゃないですか」