「幸せ」生み出す 昔ながらの木造住宅

大河内工務店 社長 大河内 孝さん

Interview

2022.04.21

高松市多肥上町の大河内工務店高松店「木工館Ⅱ」

高松市多肥上町の大河内工務店高松店「木工館Ⅱ」

香川育ちのヒノキが支える

最近は四角い箱型の住宅が増えている。しかし、大河内工務店が得意とするのは、屋根のある昔ながらの木造の家。そこには二代目社長、大河内孝さん(64)の譲れないこだわりがある。「屋根や軒が無いと、家が受けるダメージが大きくなります。雨で汚れますし、日差しも遮れませんから」

柱や土台には香川県産のヒノキを使う。「県産ヒノキと聞いてもピンとこないでしょう」と大河内さんは笑うが、「香川では、戦後すぐにヒノキが計画的に植林され、いま順調に育っています。感謝してもしきれません」。香川の山林は地形上、北向きで日当たりがあまり良くないため、南向きと比べて木がゆっくり育つという。「それが功を奏し、年輪の幅が狭くて美しく、構造的にも強くなるんです」

香川で育ったヒノキが、形を変えて香川で家になる。「温度や湿度など育った環境と同じなので、変色や変形しづらく、艶や香りを保ったまま家を支え続けてくれます」

工法も漆喰や瓦など自然素材を使った伝統的なやり方が信条。柱、梁、筋交いを組み合わせ、丈夫で増改築もしやすい「木造軸組工法」や、床材のねじれを抑えて強度をさらにアップさせる「根太レス工法」などを駆使し、「風の通り、木の色や香り、空気感を大切にしながらも、耐震や高気密・高断熱などクオリティを追求しています」

本社は三豊市山本町。これまでは年間50~60棟を、西讃や中讃を中心に手掛けてきたが、3年前、高松に進出した。「今後はエリアを全県へ広げていきたいと思っています」。ヒノキの香り漂う真新しい高松店「木工館Ⅱ」で大河内さんは目を輝かせる。

“伝説の棟梁”と同じ道へ

創業者の父・秀夫さんは地元三豊で“伝説の棟梁”と呼ばれる凄腕の大工だった。「仕事ぶりは速くて正確で丁寧。大ベテランの職人さんでさえ『お前の親父と話す時は緊張する』と言っていました」

大河内さんも幼い頃から建築に興味はあったが、「父は仕事一筋で家にほとんどおらず、一緒に遊んだ記憶もない。時々仕事を手伝わされるのが嫌で嫌で仕方ありませんでした」。父のようにはなれないと、志したのは設計士。だが、就職した高松や東京の設計事務所で担当するのは、コスト重視の公共施設が多かった。「使う人の気持ちや熱量が感じ取れなかった。私が求めるものとは違っていました」
三豊市山本町の「大工館」。本社事務所の他、 カルチャ―スクールやイベントの会場としても活用

三豊市山本町の「大工館」。本社事務所の他、
カルチャ―スクールやイベントの会場としても活用

お客さんの顔が見え、声が聞ける仕事をしたい。“伝説の棟梁”を継ぐ覚悟を決め、1989年、32歳の時に帰郷した。「帰った時、ある大工さんに言われました。『お前にできるんか?父親は“伝説の人”やぞ』と」。プレッシャーはとてつもなく大きかった。寝る間を惜しみ、死に物狂いで大工仕事を学んだ。でも、“家をつくる”というお客さんの体温が伝わってくる仕事は楽しかった。「土台を数センチ左右にずらそうかと、着工の前夜まで悩む人もいる。お客さんにとっては一生で一番の大きな買い物。こちらも同じ気持ちになって向き合わなければならない。父親がいつも家にいなかったのは、そういうことなんですよね」

2004年、父は棟梁としてちょうど1000棟目の住宅を手掛け、一線を退いた。「父から教わったのは、木を粗末に扱わないことと、職人さんを大切にすること。肝に銘じて頑張っていこうと思っています」

“幸せ”への転換点

社員に求めるのは「常に問題意識を持つこと」

月1回、業務改善に繋がる“気づき”の報告を全社員に課している。技術的なこと、事務的なこと、「施主さんともっとコミュニケーションを増やしたい」など、報告される内容は様々だ。「会社は学びの場でもあり、私の役目は社長として決断することと、社員を成長させることだと思う。社員たちには、日々を当たり前と思わず、気づき、考えることで成長していってほしいですね」
イベントの様子

イベントの様子

本社では、お月見会やバーベキュー、コンサートやカルチャースクールなどを定期的に開催。カフェやギャラリーもあり、「イベント会社と間違われることもあるんですよ」と苦笑する。

「家を建てる建てないに関係なく、知らない人同士が出会い、仲良くなれる空間をつくりたい。高松の『木工館Ⅱ』でも、人が集まれるような工夫をしたいと思っています」

目指すのは「日本一、気持ち良い工務店」。人にどう感じてもらうか、人とどう関わっていくかが何よりも大事だと話す。以前こんなことがあった。家を建てたお客さんが「洗濯機が壊れた。どうすればいい?」と担当した社員に連絡してきた。「暮らしの困りごとまで頼ってくれる。本当にうれしいことです」

家を建てること。それは人生の大きな転換点でもある。

「誰しもその先に、家族や子どもの『幸せ』を思い描きます。建てたあともしっかりとお付き合いを続け、お客さんの幸せに寄り添っていきたいですね」

篠原 正樹

大河内 孝 | おおこうち たかし

略歴
1957年 三豊市財田町出身
1976年 観音寺第一高校 卒業
1980年 広島工業大学工学部建築学科 卒業
     設計事務所(高松、東京)、大手ハウスメーカー勤務を経て
1989年 大河内工務店 入社
1997年 代表取締役

株式会社 大河内工務店

住所
香川県三豊市山本町辻604番地
代表電話番号
0875-63-4920
設立
1953年10月創業
社員数
24人
事業内容
新築注文住宅建設、リノベーション工事、リフォーム工事 他
地図
URL
https://www.okochi.co.jp/
確認日
2022.04.21

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