変わるべきものと、変えてはいけないものがある。普遍的なものを大切にしたい。

菅組 代表取締役社長 菅 徹夫さん

Interview

2009.11.19

古来、日本には全ての物は長い年月を経て神になるという「九十九神(つくもがみ)」信仰がある。
そこには「ものを大切に使うように」という教訓と物や自然に対する愛着と感謝という人の気持ちが込められていた。「エコ」という言葉がもてはやされるずっと以前から「物を大切にする」という考え方があったのだ。そして今、「九十九神」の1つ「鎮守の森」を作ろうとしている建設会社が三豊市仁尾町にある。100年以上も地元仁尾町で営業を続ける「菅組」だ。地域の木材で家を建てたり、古木材や古道具を再利用する試みを行っている。それは日本人が昔から大切にしていたものを守り続けようとする菅組の変わらない姿勢であった。

本物の森と変わらないもの

三豊市仁尾町は三方を山に囲まれ、一方は燧灘に面し瀬戸内の島々を望む事ができる。夏ともなれば遠浅の父母が浜や蔦島は大勢の海水浴客でにぎわう。そんなのどかな街に菅組はある。瀟洒な社屋の中央は吹き抜け、アトリウムになっていて、これを囲むようにガラス張りのオフィスがあり、社員の皆さんが忙しく動き回っている姿を見ることができる。そして何より目を引くのは社屋の周辺に植えられた2000本以上の緑鮮やかな若木だ。

「将来、ここは鎮守の森になるんですよ」。 菅組代表取締役社長菅徹夫さん(48)は話す。創業100周年の今年、社員や地元の人たちと植えた。シイ、タブノキ、カシなどの常緑広葉樹だ。日本に元々あった本物の森をここに作ろうというのだ。

仁尾町は戦国時代から明治、大正、昭和初期まで海上交通の要所として、また塩の生産地として栄えた。いまでも細い路地に入るとナマコ壁や漆喰が見事な入母屋作りの家々を見ることができる。これに伴って寺社の数も町の規模の割には多い。菅組の前身はこの寺社の宮大工としてスタートしている。ペリー来航の5年前、今から160年以上前の1848(弘化5)年の仏閣の建築図が残されている。そして現在の菅組が創業を始めたのがちょうど100年前、香川県の大工職の鑑札を受けた1909(明治42)年だ。高度経済成長期、バブル期など幾多の激動の時期を経ても菅組は原点である宮大工の伝統を「自社専属職人」という形で残し、本社も仁尾町にあり続けた。

本物の住宅、建築を求めて

「大学の建築教育の中で木造についての講義はほとんどないんです。建築を学ぶ入り口からそうなってるんです」
大学の建築学科で学んだ菅さんは当時を振り返り話す。建築といえば鉄とコンクリートが主役だった。

「日本の伝統文化でもある木造はなぜかあまり重要視されず、鉄筋コンクリート造や鉄骨造ばかりが注目されてきたように思います」
建築の現状に違和感を持った菅さんは「木造」について改めて考え始めた。そして2001年、当時OMソーラー協会理事長の小池一三さんの「近くの山の木で家をつくる運動宣言」に参加する。近くの山の木を使えば輸送のためのエネルギーは使わないし、なによりその土地の風土で育った木だから、その土地に合った丈夫な住宅ができるというものだ。そして菅さんは、香川県でただ一人の専業林家の豊田均さんを訪ねる。

「山に生えている原木を見ずに木造の設計や施工をしていることに、何か違うなと思ったんです」
そこで初めて菅さんは、自分たちの建てる住宅の柱になる「木」が切り出される瞬間を目の当たりにして感動したという。

そしてこの感動を味わってもらい、その地域で育った木材を使う意味を知ってもらうために02年から家を建てる人たち(施主)と家族を山に招待し、大黒柱となる木の伐採を体験してもらっている。子どもたちは目を輝かせ、大人は大黒柱が単なる家を作る材料ではなく、自然の中で育まれた木から作りだされることを改めて実感し感激する。そこに、我が家に対する愛着が生まれてくる。

変わってはいけないものと新たな試み

菅組は2年前に「木とともに」をキャッチフレーズの一つに加えた。社業として木を使うだけでなく、木を育てることをはじめた。その一環で行ったのが冒頭で紹介した会社周辺の植樹である。これは横浜国立大学名誉教授の宮脇 昭さんが提唱する「混植・密植型植樹」が基になっている。土地本来の潜在自然植生の木群を中心に多種類の木を混ぜて植樹するもので、これこそが「鎮守の森」であり、日本の「本物の森」である。また、「もったいない! かわいそう!」をスローガンに建築解体で出た古木材や建具、古道具を集め再利用も始めた。

こうした会社の姿勢は、年間5〜6回行われる全社会議や技術研修会を通して社員に浸透していった。
そして今では、「病院や事務所などの大規模な建築物が鉄筋コンクリート造・鉄骨造でなければいけない理由はない。法律上可能な限り木造でやってみよう」という新たな取り組みが始まっている。

ただ、最後に「最近、住宅を長持ちさせるために耐震性能とか断熱性能とかを、数値化しようという動きが出てきていますが、住宅の長寿命化に一番重要なのは住んでいる人の家に対する愛着だと思うんです。そこに一番価値があると考えています」と、菅さんは話す。「ものを大事にする」の根本には「愛着」という人の気持ちがある。これを大切にしていきたいという菅組の姿勢は時代が変わっても変わらない。

菅 徹夫|すが てつお

略歴
1961年 三豊市出身
1979年 観音寺第一高校 卒業
1983年 神戸大学工学部建築学科 卒業
1985年 神戸大学大学院修士課程(西洋建築史専攻)修了
     東京の中堅ゼネコン設計部での勤務を経て
1990年 株式会社菅組 入社
2008年 代表取締役社長

株式会社 菅組

住所
香川県三豊市仁尾町仁尾辛15-1
代表電話番号
0875-82-2441
設立
1909年10月5日創業
社員数
150人(技能者30名含む)
事業内容
建築工事、土木工事・一級建築士事務所
不動産事業・古材事業
資本金
7500万円
地図
URL
http://www.suga-ac.co.jp/
確認日
2021.10.04

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