夢請負師が支える 家族の“家物語”

山倉建設 社長 山倉 康平さん

Interview

2021.05.20

3月にオープンした住宅展示場「ふたつやね」=高松市林町

3月にオープンした住宅展示場「ふたつやね」=高松市林町

家族が家族になる仕掛け

山倉康平さん(69)の名刺に「社長」の肩書はない。かわいらしい太陽のイラストに「ありがとー」の文字が添えられ、その横に「夢請負師・山倉康平」とある。多度津町に本社がある山倉建設は、注文住宅やリフォームなど中讃地域を中心に新築年間20~25棟、リフォーム200件を手掛ける住宅メーカー。だが、「家をつくっているというより、『家族の夢』をつくっている。そんな思いで仕事をしています」と山倉さんは話す。
古民家再生事業の様子=丸亀市・広島

古民家再生事業の様子=丸亀市・広島

山倉建設がつくる家は“家族”にこだわる。「家族が家族になるための仕掛けを随所に散りばめています」。子ども部屋にはカギはつけず、あまり広いスペースも設けない。「居心地が良すぎると、子どもが部屋から出てこなくなりますから」。2階建ての場合は、リビングを通って2階へ上がる「リビング階段」を薦める。「玄関から直接上がれるようにすると、日々の家族の顔色が見えません。リビングでできるだけ家族が集う雰囲気づくりを大切にしています」

3月、山倉建設は初めて高松市に拠点を構えた。おじいちゃんおばあちゃん向けの上品な雰囲気が漂う平屋と、子育て世代向けに機能的な動線などを取り入れた2階建ての、2棟から成るモデルハウス。「ふたつやね」という名前の通り、屋根が2つある二世帯住宅だ。建てた後の暮らしをイメージできるよう宿泊体験も可能。2棟それぞれは独立しながらも、スープの冷めない程よい距離感で、良好な親子関係、家族関係が築ける快適な空間を提案している。「家族はこれから、それぞれの“家物語”を綴っていきます。その手助けが少しでもできればと思っています」。山倉さん自身にも、決して忘れることのない様々な家物語がある。

「母親は超えられない」

小学5年生の時、父・信雄さんが突然切り出した。「家を建てるぞ」。父親が得意気に広げた設計図。「『うそ?やった~!』と座敷で跳び上がって喜びました」。当時暮らしていたのは隙間風が吹く古い家。「ずっとコンプレックスがあった」と打ち明ける。「『うちには建て替えるだけのお金はない』とあきらめていました。でも、父は家族のためにコツコツと貯めていてくれたんです」。地鎮祭も上棟式も、今でも鮮明に覚えている。学校から帰ると、毎日工事の様子を見に行き、「ここが僕の部屋だ」とほくそ笑んでいたそうだ。「家を建てる仕事への興味が芽生えたのもこの頃でしょうね」

母・チエ子さんとの思い出も印象深い。高校卒業後、大阪の建築設計事務所勤務などを経て30歳で独立し、「アパートの一室から建築業をスタートさせました」。しかし、いきなり半年後、資金難に陥った。当座をしのごうと、母親に50万円を借りにいった。「母には毎月仕送りもしていたので、すんなり貸してくれるだろうと高を括っていました」。だが、いくら頼み込んでも1円たりとも貸してはくれなかった。「『なんでや!』と頭にきて、カッカして帰ったのを覚えています。取引先に土下座して謝って……。つらい思いをしました」。半年後、50万円が入ったのし袋が母親から届いた。「『あの時、すぐに渡したら、お金のありがたみが分からないと思って我慢した』と……。本当につらい思いをしていたのは、私じゃなかったんです。あの瞬間、『ああ、母親は超えられないな』と思いましたね」。山倉さんは、かけがえのない家族との思い出を懐かしそうに語る。

“ふるさとづくり”で恩返し

熊本地震の被災地を慰問し、炊き出しを実施

熊本地震の被災地を慰問し、炊き出しを実施

会社を立ち上げてまもなく40年。「曲がりなりにも何とかここまでやって来られた。これからは、ささやかながら社会に恩返しをしていきたいと思っています」。地域コミュニティ施設の運営、移住促進、空き家の利活用、古民家再生など、日々忙しく駆け回る。東日本大震災や熊本地震の被災地への慰問も毎年行っている。「これからの私のミッションは“ふるさとづくり”。その中心は『家族』『地域のコミュニケーション』など。未来を背負う子どもたちが成人して故郷を離れても、また帰ってきたくなる心のよりどころであってほしい。そんなふるさとづくりの一つに”家づくり”があります」

もうすぐ70歳。来年、社長業を娘の夫に引き継ぐことにしている。だが、家づくりへの情熱はまだまだ止みそうにない。「家というのは十人十色。住む人によって考え方も違えば、できるものも違う。だから、むちゃくちゃ面白い」。そんな思いがなくなった時が、本当に引退する時だと山倉さんは話す。しかし、「いつまでたっても、ワクワクする気持ちがなくならないから、なかなか引退できないんですよね」

篠原 正樹

山倉 康平|やまくら こうへい

略歴
1951年 多度津町生まれ
1970年 多度津工業高校 卒業
大阪の建築設計事務所勤務などを経て
1985年 株式会社山倉建設 設立
     代表取締役社長

株式会社山倉建設

住所
香川県丸亀市中津町756-5
代表電話番号
0877-24-6600
事業内容
総合建築業(新築住宅・店舗の企画・設計・施工)
リフォーム(建替え・増改築・中古物件リノベーション)
不動産の売買・仲介及び管理 他
多度津事務所
多度津町南鴨4-3
TEL. 0877-32-6600
高松事務所
高松市林町6-35
TEL. 087-813-6628
地図
URL
https://www.arigato-yamakura.com/
確認日
2021.05.20

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