建築の力でつくる「風景」と「縁」

菅組 社長 菅 徹夫さん

Interview

2020.12.03

古民家を再生した一棟貸し宿「多喜屋(たきや)」=三豊市仁尾町仁尾丁312

古民家を再生した一棟貸し宿「多喜屋(たきや)」=三豊市仁尾町仁尾丁312

保存・再生し、後世へ

「多喜屋」2階の和室。元の梁を生かして再生

「多喜屋」2階の和室。元の梁を生かして再生

三豊市仁尾町。小道に面した一角に、趣深い2棟が並ぶ。一棟貸しの宿泊施設「多喜屋(たきや)」は古い住宅を改修して、多喜屋の宿泊を受け付ける窓口機能を持つ「表店(おもてだな)」には瓦などの古材が再利用されている。

地域に点在する空き家を再生し、命を吹き込む。地元建築会社の菅組が手掛けるこの取り組みに、社長の菅徹夫さん(59)は「仁尾縁(よすが)」と名付けた。「建築的に後世に遺したい建物を保存・再生したい。歴史を伝え、訪れる人と地元の人や町との“縁”を繋ぎたい。そんな思いを込めたプロジェクトです」

多喜屋は江戸時代末期の商家だった。「梁や柱など残せるものは残し、現代の建築と融合させました」。1階は居間と食堂。2階は、元々は狭い物置だったが、天井を低くした和風と洋風の寝室にしつらえた。むき出しの梁が、ずっと見つめ続けてきた歴史を語りかけてくるようにも感じる。「元の建物は特別な工法でつくられたものではなく、一般的な庶民の家だった。でも、瓦の形状、漆喰、なまこ壁、外観が町にどのように向き合っているか……普通の古民家にも価値がある。そういうことを知ってもらえればうれしいですね」

再生した古民家は当初、一戸建ての賃貸物件にしようかと考えていた。だが、「それだと、そこに住む人だけのものになってしまう。いろんな人に利用してほしいし、建築の魅力を感じてほしい。そんな思いから宿泊施設の形にしました」

同じ集落にはまだ数軒、遺したい古民家がある。賃貸ではなく、見学するような文化財としてでもなく、様々な人が行き交う「生きた建築物」として再生したい。「そうなれば、建物の本当の価値が出てくる。さらには町全体の魅力も増すと思うんです」

宝石のような町並み

目の前に父母ヶ浜が広がる一棟貸しゲストハウス「讃岐緑想」

目の前に父母ヶ浜が広がる一棟貸しゲストハウス「讃岐緑想」

宮大工をルーツとする菅組は創業110余年。5代目にあたる菅さんは「菅組ならではの物件を増やしていきたい」と、設計から施工までを一貫して行うやり方で、社寺をはじめ、住宅、工場、商業施設や医療福祉施設など、県内を中心に様々な建築物を手掛けてきた。

建築とは「町を構成する一つの要素」「名脇役であるべき」というのが菅さんの信条。「観光地化されるような主役である必要はない。地域に根づいた土着的な建築物に惹かれますね」

理想とする町の姿がある。イタリアで生まれた理念「アルベルゴ・ディフーゾ」。イタリア語で、アルベルゴは「宿」、ディフーゾは「分散した」という意味で、「旅人を歓迎して、もてなす。町全体が宿になっているという考え方です」

学生時代、友人と2人でヨーロッパを旅した。1カ月半ほどのバックパックでの卒業旅行。「名もない田舎町を中心に見て回りました」。イタリアで立ち寄った小さな町。眼前に広がる光景に全身がしびれた。「建物に統一感があって、暮らしに溶け込んでいる。『宝石のように美しい』と感じました。そんな町が無数にあるんです」。建物を眺めていると近所のおばちゃんが近づいてきて「この家はこんな造りだ。あの家はこうだ」と誇らしげに説明を始めた。集落の規模は日本の田舎町とほぼ同じ。だが、全然違ったと振り返る。「町の在り方の本質を見た気がした。今に通ずる、私の建築に対する価値基準を形成した衝撃的な出来事でしたね」

「建築は面白い」

菅組の仕事とは「美しい風景をつくる」ことだと菅さんは掲げる。話題のスポット「父母ヶ浜」の近くには、古い資材置き場を改修したギャラリー「古木里庫(こきりこ)」や、著名な建築家・堀部安嗣さんとタッグを組んだ新築の宿泊施設「讃岐緑想(さぬきりょくそう)」などがここ数年で誕生。菅組の手によって少しずつ仁尾の風景が変わりつつある。「まちおこしに貢献したい、などという大層な気持ちはありません。遺したい建物を一つ一つ遺していく。建築屋としてのミッションの一つかなと」。菅さんは謙遜する。

手掛けた建築物が完成し、足場をばらす瞬間、この上ない喜びを感じるそうだ。「初めて全貌が明らかになり、その場にいきなり出現した感覚に陥る。苦労が報われ、感動がこみ上げてきます」

生まれ育った家、学校の教室、故郷の町並み……人は誰しも建物や空間から何らかの影響を受けていて、「建築が持つ力は想像以上に大きい」と菅さんは力説する。「建築とは、町の中で否が応でも人目にさらされ評価される。だからこそ、緊張感もあって面白いと思うんです」。そう話しながらも一方で「最近は若者の建築離れが進み、我が社の社員にとっても、面白さより、しんどい面が先行しているのかもしれない……」と残念がる。「建築の面白さを見出せるような環境をつくっていくのが私の使命。これからも建築で美しい風景をつくり、“縁”へと繋げていければと思っています」

篠原 正樹

菅 徹夫|すが てつお

略歴
1961年 三豊市出身
1979年 観音寺第一高校 卒業
1983年 神戸大学工学部建築学科 卒業
1985年 神戸大学大学院修士課程(西洋建築史専攻)修了
     東京の中堅ゼネコン設計部での勤務を経て
1990年 株式会社菅組 入社
2008年 代表取締役社長

株式会社 菅組

住所
香川県三豊市仁尾町仁尾辛15-1
代表電話番号
0875-82-2441
設立
1909年10月5日創業
社員数
150人(技能者30名含む)
事業内容
建築工事、土木工事・一級建築士事務所
不動産事業・古材事業
資本金
7500万円
営業所
高松、丸亀、観音寺
関連企業
株式会社アクティスガ
地図
URL
http://www.suga-ac.co.jp/
確認日
2020.12.03

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