自分の住む土地を知る 自然は先生

香川大学 創造工学部長 長谷川 修一さん

Interview

2018.06.07

「一つの分野を追求する、言われたことをコツコツやる―それだけでは、これからの技術者は世界で戦えません」。長谷川修一さん(62)は、学科を再編し4月に生まれ変わった香川大学創造工学部の学部長に就任した。

次の時代に必要なのは、将来こんな世の中にしたい、そのためにはどんなものが必要か考え、試行錯誤しながら新しい価値を生み出せる人材。「新しいものを創造するには、まず今あるものを“観察”する。それが、気づきにつながると思います」という言葉には、自身の専門である地質学での経験が反映されている。

「想定外」を減らす

ネパールでの地震調査時に

ネパールでの地震調査時に

石や自然が好きで、大学で地質学を専攻。人間の想像をはるかに超える自然の力に魅了された。卒業後は四国電力で、工事を行う際の地盤調査やアドバイスを行う業務に携わった。現在は香川大学で、大地が動くことで起こる地盤災害の予測方法を開発し、それを防災に生かす研究も進めている。


現在の地形を観察し、何百万年以上前から今までにその大地でどんなことが起こったかを解明する。当たり前のようにある山も、実は何キロも離れた山から地滑りしてできたと分かる。「土地の成り立ちを知ると、災害予測につながります。いつ、どこで、どんな規模で起こるかまでは分かりませんが、自分の住む土地を知ることで覚悟と準備ができる。『想定外』を減らすことができるんです」。災害に備えて私たちが何をすべきか、自然はそれを教えてくれる先生だと言う。

讃岐ジオサイトは生涯のテーマ

東かがわでの、公開講座「讃岐ジオガイド養成講座」

東かがわでの、公開講座「讃岐ジオガイド養成講座」

自分の住んでいる土地を知ることは究極の防災教育だと考え、「讃岐ジオサイト探訪」を定期的に開催している。集まった人達にはまず「小豆島はなぜオリーブの島になったのか」といったお題が出される。小豆島で昔、大きな土石流がありその場所はマサといわれる砂地になった。お米を育てられない荒地だが、水はけのいい土地がオリーブには合っていた。そんな話をしながら、現地を歩いて地形や地質を学ぶジオツーリズム(※)だ。

「災害は起こった直後は大変ですが、新たな土地が生まれることで、生活や生産の場ができます。土地の弱みを知り、それを強みに変える知恵を見つけることも活動の目的です」

高校で講義をすることもある。その時は、讃岐ジオサイトの話を通して香川の魅力を伝えるようにしている。「県外出身の私だから気づいた香川の良さを、高校生に知ってほしい。土地を知ることで地元に愛着と誇りがわくと思います」

今までの教育は、普遍的なことを教えていた。「グローバル企業には都合のいい人材かもしれませんが、それぞれの地方にある魅力やその価値を教えないから、勉強すればするほど大都市に行ってしまう。これからは地域の文化を大切にし、グローバル企業の攻勢から地域を守る人材を育てるのも、地方の大学の使命だと思っています」(石川 恭子)

※ジオツーリズム=地質、地形、石など自然を対象にした観光のこと

長谷川 修一 | はせがわ しゅういち

1955年 島根県生まれ
1974年 愛光高校 卒業
1978年 東京大学理学部地学科 卒業
1980年 東京大学大学院理学系研究科修士課程
    (地質学専門課程) 修了
    四国電力 入社
2000年 四国電力 退職
    香川大学工学部助教授
2002年 香川大学工学部教授
2017年 香川大学工学部長
2018年 香川大学創造工学部長

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