イトマン事件の捜査を経験
司法試験に合格したのは23歳の時。弁護士か検事か迷ったが、修習生の時に指導してくれた検事が尊敬できる人だったこともあり、検事の道へ。神戸地検に赴任した1991年、大阪地検特捜部からの応援要請を受け、約100日間イトマン事件の捜査に関わった。
戦後最大の経済事件といわれたイトマン事件は、大阪の商社を舞台に起こった特別背任事件。約30人の検事に加えて、事務官たちがチームになり捜査を行った。家宅捜索で押収した大量の書類を手分けして調べていくうち、ただの紙切れだったものが事件のカギを握る重要な証拠になることもある。「私は、検事4年目の若手で、捜査の中心的な役割を果たしたわけではありません。でも、『○月○日の何時何分にA社からB社に送られたファクス』といった書類や関係者の証言などの証拠を一つひとつ積み重ね、事件のストーリーを組み立てて真相に迫っていくことが本当に面白かった」
検察が独自に捜査する手法や、取り調べの仕方など、多くのことを学んだと言う。検事として仕事にやりがいを感じ始めていた。だが、母親の病気もあり、高松に戻って父の弁護士事務所に入った。「検事退職を慰留され迷いもありました。一方で、弁護士は刑事だけではなく民事もあるから、また新しい経験ができるとも思いました」
どんな経験も無駄にはならない
最初は離婚しないと主張していた依頼者が、話をする中で考え方が変わる。最終的に離婚となったが、子どもとの時間も持てて前より関係がよくなった。「依頼者の主張をそのまま相手にぶつけるだけで、本当に仕事をしたといえるのか。何かを譲ったかもしれないけれど納得できた、小早川先生に頼んでよかったと言われると、少しは人のために動けたのかなあと思います」
刑事事件の弁護では「あんなひどいことをしたヤツに、弁護なんて必要ないじゃないか」と言われることもある。しかし、なぜこんなことをしたのか、本人や家族の話を深く聞いていくとそれぞれが抱える事情が見えてくる。「心から反省して被害者に謝罪する。その上で、再犯しない環境をつくるにはどうしたらいいのか・・・。頼まれたからにはあらゆることを考え、できる限りのことをしたい」
地域の体育協会会長や、おやじ会会長、高松市PTA連絡協議会顧問も引き受け、子どもが卒業した今も活動を続けている。「飲み会で『ニュースで見たあの事件はどういうことですか』と聞かれて説明することもあります。それが、裁判員裁判で裁判員を務める一般の人に、弁護士の立場を分かりやすく説明する時の練習になりました。どんな経験も無駄にはならないと思います」
新たに託された大きな仕事
実は、検事になりたての頃、経験を積んで法務省でバリバリやってみたいと思っていた。だから、中央と関わりを持つような仕事も弁護士人生の中で1年ぐらいあってもいいんじゃないか、と決意した。「大変だと思いますが、新しい世界が見られると思うから」
理事長として取り組みたいことの一つに「災害」がある。南海トラフ地震が発生したら、まずは生き延びることが最優先となるが、時間がたつと法律的な問題が次々発生する。例えば、隣家が倒れて自宅敷地内にあるが自分が撤去しないといけないのか、行方不明者の相続はどうなるのか。「そういう状況の中で、我々弁護士は何ができるのか。弁護士自身が被害に遭ったとしても、助けが必要な人はいる。それに応えるため四国、中国、近畿など近県の弁護士たちとも連携を進めていきたい」
人のためになることに弁護士の存在意義があると考えている。「弁護士にとって裁判は何度でもあることですが、依頼者にしたら一生に一度の出来事。だからこそ、その人にとって一番いい“正解”を考え続けたいと思います」
石川 恭子
小早川 龍司 | こばやかわ りゅうじ
- 1962年 高松市生まれ
1981年 香川県立高松高校 卒業
1985年 中央大学法学部法律学科 卒業
司法試験合格
1988年 東京地方検察庁検事
1989年 高知地方検察庁検事
1991年 神戸地方検察庁検事
1993年 香川県弁護士会 登録
小早川法律事務所 入所
2010年 香川大学大学院香川大学・愛媛大学連合法務研究科
(四国ロースクール)教授
刑事訴訟実務、刑事裁判演習等担当(~2013年3月)
2013年 香川県弁護士会会長(~2014年3月)
日本弁護士連合会理事(~2014年3月)
2018年 四国弁護士会連合会理事長
四国弁護士会連合会
- 住所
- 高松市丸の内2-22 香川県弁護士会内
TEL:087-822-3693 - 地図
- URL
- http://www.shiben.org/
- 確認日
- 2018.06.07
小早川法律事務所
- 住所
- 高松市錦町2-3-16
TEL:087-851-3367 - 地図
- URL
- http://kobayakawalaw.com
- 確認日
- 2018.06.07
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