競争力は目利き融資 ~企業の価値を見抜き、助ける力~

香川銀行 頭取 下村 正治さん

Interview

2013.05.16

いくら頭を下げてお願いしても、貸し手がリスクを負わなければ、誰が借りてくれますか……」。不明な要素をできるだけ排除した上で、それでも残るリスクを他の銀行よりいかに引き受けられるか、その見極めが競争力だ。

地価が下がって不動産担保のリスクが顕在化した。安全最優先の融資システムは崩壊し始めた。銀行と企業の関係は、貸し手と借り手から融資という商品の売り手と買い手になった。

香川銀行は今年創立70年を迎えた。昨年6月、頭取に就任した下村正治さん(63)は、目利き能力を磨くことが生き残りの鍵だと考えている。

3つの戦略で攻める

かつて預金の着服や流用などの不祥事が起きたことから、内部管理態勢の強化を最優先してきた。会長で前頭取の遠山誠司さん(66)が、徳島銀行と経営統合してトモニホールディングスを設立。「コストと人の効率化」で強みを持つ態勢が整った。

「効率化により捻出した人材を、攻める戦略のために選択と集中で配置します」。戦略は3つだ。経済が成長する地域に出ていくこと。大きな拡大が見込めない県内はシェアを伸ばすこと。顧客の海外進出を支援して、ビジネスチャンスを見いだすこと。成長エリアの岡山、兵庫、大阪への進出は、徳島銀行と香川銀行の営業ネットワークを連携して展開中だ。

鮮魚から商標権まで担保にする

売掛債権182兆円、棚卸資産102兆円(財務省法人企業統計調査:2010年度)。これを活用すれば不動産や保証人がない企業も資金調達が出来る。

銀行は評価と換金が簡単な不動産担保に極端にかたよって、リスクを取らない融資をしてきた。しかし、バブル崩壊後の土地の値下がりで、売上金や在庫などの動産を担保にするケースも出てきた。

動産担保融資(英:Asset-based Lending 略称ABL)は、売掛債権と棚卸資産を担保に融資する手法だ。動産は工業製品だけでなく、魚介類や農産物、商標や特許などの知的財産権も含まれる。いざという時、換金も容易ではないから評価が難しい。

そこでABLの総合支援会社の「簡易評価サービス」を活用する動産担保の取り扱いを昨年2月から県内で始めた。同社への業務委託で在庫処分も出来る。

ABLは企業の在庫や売上をモニタリングすることが前提だから、商売の状況がリアルタイムで分かり、早期にいろんな手が打てる。

護送船団方式や規制に守られていた銀行も、分析能力や経営指導力を高めないと存続できない時代が来た。

真価問われる県外勤務

県外勤務が長かった。銀行に入って最初の勤務地は岡山だった。それから大阪に転勤して岡山へ戻りまた大阪へ。48歳で部長になるまで合わせて4回岡山で勤務した。

馴染みの少ない所で仕事がうまくいかなくて当たり前。「苦手」の多数と「面白い」の少数に分かれる。行員には全員、県外で活躍できる人材に育ってほしい。

融資の核心、成長の種

「顧客の本質を冷静に見極める力は、若い時より持っていると思います」。融資は顧客をよく知ったうえでの冷静な判断がベストだ。

若い行員は、顧客の元に飛び込んで素直に親しくなる。どうしても合理性に情緒が混じる。しかし判断を間違うとは言えない。データだけで顧客の本質は分からない。親しいからこそ数字で見えない融資の核心、成長の種を確信出来る。

リスクテイクしなければ傷も負わないが実績も上がらない。安全第一の守り一辺倒でキャリアの階段は上がれない。

致命傷を負わない仕事の流儀

若いころ数々の失敗をした。ある支店の融資係の時、銀行を辞めなくてはと思うほどの瀬戸際もあったが、融資担当役員が「判断ミスではない」と守ってくれた。

新米行員の時、支店長に仕事の基本を仕込まれ、その物差しにかなうよう努力した。その役員が当時の支店長だった。

失敗は糧となった。向こう傷を負っても致命傷にしない仕事の流儀を教えてくれた。

サラリーマンが修羅場をくぐって経営者へ

創立70周年を記念して設置された時計塔。 動力には太陽電池を採用=高松市亀井町の 香川銀行本店

創立70周年を記念して設置された時計塔。
動力には太陽電池を採用=高松市亀井町の
香川銀行本店

人事は微妙で不思議だ。さまざまな巡り合わせの結果だ。本部機能を強化するために新設された総合企画部の部長を務め、幹部コースの本店営業部長を経験しないまま役員になり、そこから思わぬ経営者への道を歩み始めた。

「地域金融機関の頭取は地元経営者とのつながりが大事ですが、県外勤務が長いうえに、本店営業部長もしていないので、これから懇親を深めないといけません」   

ナンバー1の頭取とナンバー2の専務の差はわずか一つだが、天と地ほどの開きがある。香川銀行のすべてがトップの双肩にかかる。心構えはしていたつもりだがストレスは大きい。

頭取に就任して約1年、向こう傷を恐れないサラリーマンから経営者になって、右か左か、白か黒かの決断の苦悩にまだ直面していない。

競争は、強い者が勝つ優勝劣敗の法則があたり前だ。修羅場をくぐって初めて経営者になれると思っている。

◆写真撮影 フォトグラファー 太田 亮

下村 正治 | しもむら まさはる

1949年 玉野市生まれ
1972年 香川大学卒業
    香川相互銀行(現香川銀行)入行
1988年 三木支店長
2003年 取締役総合企画部長
2006年 代表取締役専務
    (総合企画部・経営戦略部・総務部・事務システム部担当)
2012年 取締役頭取(現職)
写真
下村 正治 | しもむら まさはる

株式会社 香川銀行

所在地
高松市亀井町6番地1
創立
1943年
資本金
120億円
総資産
1兆3578億円
預金
1兆2522億円
貸出金
9362億円
自己資本比率
10.43%
従業員数
1107人
店舗数
85カ所(本支店79、出張所6)
主要株主
トモニホールディングス株式会社
沿革
1943年 丸亀無尽、七宝無尽、香川第一無尽、讃岐無尽、旭無尽の5社が合併し、香川無尽株式会社として設立
1951年 相互銀行法の施行により、株式会社香川相互銀行に商号変更
1988年 東京・大阪証券取引所市場第二部に上場
1989年 普通銀行への一斉転換に伴い、株式 会社香川銀行に商号変更
1991年 東京・大阪証券取引所市場第一部銘柄に指定
2010年 株式移転により、徳島銀行と共同持株会社トモニホールディングスを設立
完全子会社となる(東京証券取引所上場廃止)
2011年 大阪北支店開設
確認日
2018.01.04

トモニホールディングス株式会社

住所
香川県高松市亀井町7番地1
代表電話番号
087-812-0102
設立
2010年4月1日
社員数
100人(銀行子会社兼任者80人含む。2019年3月31日現在)
事業内容
銀行その他銀行法により子会社とすることができる会社の経営管理及びこれに付帯関連する一切の業務
代表者
代表取締役会長:遠山 誠司
代表取締役社長兼CEO(最高経営責任者):中村 武
資本金
250億円
地図
URL
http://www.tomony-hd.co.jp
確認日
2019.07.01

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