「庶民」「雨傘」「町医者」「人」で、香川銀行が生まれ変わる

香川銀行 頭取 山田 径男さん

Interview

2020.10.01

高松市亀井町の香川銀行本店ビル

高松市亀井町の香川銀行本店ビル

“New KAGAWA BANK”へ

「庶民金融」「雨傘」「町医者」「人づくり」。今年6月、香川銀行10代目の頭取に就任した山田径男さん(62)が掲げる4つのキーワードだ。「大企業や資産家中心ではなく、主に中小零細企業や個人事業主を支えていく。それが100余年の歴史をもつ香川銀行創業の精神です」。企業経営には“晴れ”もあれば“雨”もある。雨の日には傘を差し出し、フットワーク軽く往診を厭わない町医者のように親身に寄り添う。そして、顧客からの感謝を活力に努力を続ける行員を育てる。「この4つを追い求めれば、今後の100年もやっていける。そう信じています」

早速、次々と策を講じている。M&Aや事業承継など、以前から注目していたコンサルティング業務をさらに強化するため7月、「法人コンサルティング推進部」を立ち上げた。現在全国では年間4万件以上の中小企業が休廃業・解散している。だが、「このうちの6割が黒字企業とされ、業績好調ながら後継者難で事業を断念するケースが増えています」。経営者の相談に乗り、外部の専門家を紹介し、一緒に解決策を導いていく。この半年で2件のM&Aを成立させ、10件ほどの案件が進行中だ。「ただお金を出すだけではない。貴重な経営資源を次世代へつないでいくことも銀行の大切な仕事です」

今月には、東京で3店舗目となる新宿支店が開設する。「今の時期になぜ東京に?と思われるかもしれない。でも常に成長戦略を描かないと未来は開けない。都市圏への出店は、販路拡大など地元香川の顧客の利益にもつながります」

さらに「支店長の決裁権限拡大」にも着手。支店が扱う企業融資は、一定額を超えると本部に“おうかがい”を立てなければならないが、「権限が広がれば各支店の責任感が高まり、モチベーションもアップする。何より、すぐにでも資金が必要なお客さんを待たせずにすみます」

長引く超低金利や人口減少など、金融機関を取り巻く環境は厳しいと叫ばれて久しい。香川銀行が取り組む経営計画のスローガンは“Reborn The New KAGAWA BANK”。「変えるべきところを変えるのが私の使命」と山田さんは言い切る。「ちまちました変化だと“リニューアル”にすぎない。目指すは“リボーン”、生まれ変わることですから」

「ありがとう」の言葉

趣味はマラソン。行員らと香川丸亀国際ハーフマラソン大会に参加

趣味はマラソン。行員らと香川丸亀国際ハーフマラソン大会に参加

昨年11月に新しくなった10階建ての本店ビル。「この建物にふさわしい銀行や行員にならなければいけない。毎日出社するたびにひしひしと感じます」

1980年、どの会社よりもいち早く内定を出してくれた香川相互銀行(現・香川銀行)に入行した。バンカーのやりがいを教えてくれたのは、2カ所目に配属された琴浦支店(倉敷市)の上司だった。「いろんなことに自由にチャレンジさせてもらえた。3年かけて融資のイロハを叩き込まれました」

企業分析はどうやるのか、どんな目線が必要なのか……「決算書からだけでは分からない。“数字と人”をしっかり見つめないといけません」。山田さんは企業を何度も訪問するため、「どんな話題を出すか、どう話を終えれば『また来なさい』と言ってもらえるか、シミュレーションを重ねて臨んでいました」。足繁く通い、経営実態を自分なりに解釈すると「聞きたいこと」が次々と出てくる。売上が伸びた理由、課題や本音……その答えから経営者の情熱が伝わってくる。そうすると、「『力になりたい』という感情が湧き上がってくるんです」。時には「今の経営状態では融資できない」「もっと頑張ってもらわないと……」と、相手が嫌がることも言った。反発され、追い返されることもあった。でも、信頼してもらえれば同時に「顧客のニーズに合った提案が見えてきました」。その先にあったのは、経営者からの「ありがとう」の言葉だった。

正念場はこれから

コロナ禍に翻弄される経営者がいる。行員らは、無担保・無保証融資などに奔走するが、「まだ“止血”したに過ぎません」。どしゃぶりの今こそ、雨傘を差し出し、町医者のように寄り添う時。販路拡大、仕入れ先の多様化、経費削減……利益が上がる“健康体”に戻すため、「私たちがやるべきことをやっていく。正念場はこれから」と山田さんは口元を引き締める。

「行員らには、時にはお客さんに怒られても、『ありがとう』の積み重ねに喜びを感じながら、日々成長していってほしい。その環境を整えていくのが私の役目です」

取材を終えて

香川大学の瀬戸雅也さん(経済学部4年)と南條太志さん(農学部3年)も取材に同行。山田頭取に、地銀再編の動きや菅新内閣の発足などについて質問しました。山田頭取は就活中の2人に「学生のうちに、自分で問題を解決できる能力とコミュニケーション能力を身につけておいてほしい」とエールを送っていました。
山田頭取に質問する瀬戸雅也さん(中央)と南條太志さん(右)

山田頭取に質問する瀬戸雅也さん(中央)と南條太志さん(右)

篠原 正樹

山田 径男|やまだ みちお

略歴
1957年 坂出市生まれ
1976年 善通寺第一高校 卒業
1980年 関西大学経済学部 卒業
     香川相互銀行(現・香川銀行)入行
2000年 川之江支店長
2002年 善通寺支店長
2004年 丸亀支店長兼丸亀西支店長
2006年 取締役
2008年 常務取締役
2017年 常務取締役(代表取締役)
2020年 取締役頭取(代表取締役)

株式会社香川銀行

住所
香川県高松市亀井町6番地1
代表電話番号
087・861・3121
設立
1943年2月1日(香川無尽株式会社)
資本金
120億円
総資産
1兆7549億円
自己資本比率
9.21%
店舗数
88店舗(本支店82、出張所6)
地図
URL
http://www.kagawabank.co.jp/
確認日
2020.09.24

トモニホールディングス株式会社

住所
香川県高松市亀井町7番地1
代表電話番号
087-812-0102
設立
2010年4月1日
社員数
100人(銀行子会社兼任者80人含む。2019年3月31日現在)
事業内容
銀行その他銀行法により子会社とすることができる会社の経営管理及びこれに付帯関連する一切の業務
代表者
代表取締役社長兼CEO(最高経営責任者) 中村 武
代表取締役副社長 山田 径男
         板東 豊彦
資本金
250億円
地図
URL
http://www.tomony-hd.co.jp
確認日
2020.10.01

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