5年後、仕事もこれからという時、子供もいたが離婚した。「何で、こんな目に遭うんだろう」・・・悔しい、つらい、苦しい。みじめな気持ちから抜け出せない自分と向き合い、2年が過ぎた。
誰かが与えてくれると思っていた居場所は、自分で創るものと悟った。自分と社員とお客さんの、より良い暮らしのための仕事、それが居場所だ。
昨年、香川の魚を使った総菜事業を立ち上げた安岐さんは、食品のおいしさを保つ「冷凍チルド」が、付加価値になることに気づいた。
総菜の、新しいビジネスモデルを目指す安岐さんを、出会った人たちが後押しする。
※直接輸出
商社などを経ないで輸出すること。
※冷凍チルド
冷凍で保管・輸送された食品を、凍結寸前の温度で販売すること。
直接輸出
豊さんは、三井物産と共同で、インドネシアでちりめんの製造に携わったことがある。その時一緒に仕事をしたインドネシア人が、1996年、30年ぶりに訪ねてきた。
「ジャカルタで日本人向けのスーパーをやっている。日本の食品や雑貨を輸入したい。紹介してほしい」という話だった。
輸出の経験はない。仕入れ先もわからなかったが、97年、直接輸出を始めた。
「父は反対しましたし、生まれたばかりの子供がいて、夫といろいろあって、気持ちがぐちゃぐちゃのときでした。いま振り返ると不思議です」
安岐水産の取引先、大阪中央卸売市場に紹介してもらい、手数料を払って、食料品を中心に日用雑貨、赤ちゃんのオムツまで仕入れた。
「コンテナに、何千個の品をパズルのように積み込むんです。最初15基輸出しました。1基いくらの運賃なのに、3分の1しか詰めないコンテナも送って、無駄もやりました」
雑貨や生鮮品以外の食品は船で、刺し身用の魚やヨーグルト、豆腐、牛乳などは飛行機で輸出した。
※イカ糸つくり
イカそうめんのこと。
小鍋で炊く惣菜事業
「知人に紹介されて、ある総菜会社の社長さんに相談したら、調理場に入れてもらえて、炊き方を教わりました」
業界では、大鍋で大量に煮炊きするのが常識だが、味の浸み込みがバラバラで、大味になりがちだ。
「採算が合わないと言われながら、社長は家庭で炊くような小鍋で調理する、総菜のビジネスモデルを成功させた人です」。安岐さんは、インドネシアへ行って、調理を指導した。
2008年、中国の「毒ミルク事件」で、インドネシア政府が食料の輸入規制を強化した。日本から食材の持ち込みが難しくなった。
「外国で苦労せんでも、日本でやりなさい。販売先も紹介する」。総菜を教えてくれた社長が、安岐さんの背中を押した。
※毒ミルク事件
中国の安徽省で、大手乳製品メーカーの粉ミルクや乳製品に有害物質のメラミンが混入、同省内だけで10人以上の乳児が死亡した事件。
惣菜の新ビジネスモデル
「もっと魚を食べてほしいのに、畜産業界に比べて、食べ方の提案が遅れていると思います。魚の調理が面倒な人に、手間のかからない製品化を考えました」
10年、安岐さんは、香川の魚を使い、地元の女性に働く場を提供する、総菜事業「真魚亭(まおてい)」を立ち上げた。県の食品産業総合支援事業に認定されて、助成金を受けた。
調理場は、親会社、安岐水産の敷地に新設した。「人手が足りないとき、隣から来てもらえますから、生産効率もいいんですが、まだ採算はとれていません」
真魚亭の商品は、煮魚や焼き魚、南蛮漬など、価格はワンパック198円から400円前後で、県内スーパーに出荷している。
スーパーの店頭では、総菜売り場だけでなく、鮮魚売り場にも、煮魚や焼き魚を置くところが増えたので、真魚亭の商品も、そこで売られるようになった。
安岐水産とキングフーズで、水産加工に20年以上携わってきた安岐さんは、冷凍は当たり前で、特別な技術だと思っていなかった。
「炊き方を教わった会社が、商品を毎日チルドで出荷しているのを見て、培ってきた冷凍技術で、総菜のおいしさを、もっと遠くへ届けることができると気づきました」
冷凍の総菜を、広い地域に流通させて、チルドで売る。総菜の新しいビジネスモデルは、その社長の紹介で、2カ所、愛媛と大阪からスタートした。
仕事が居場所
「必要な時、必要な人が助けてくれました。出会いがチャンスとヒントをくれ、自分の気持ちを気づかせてくれたんです」
直接輸出に打ち込んだ理由が、最初は分からなかった。
「海外で仕事をしたいと、就職試験で商社を目指しましたが全部落ちたんです。輸出を始めたときは、瀕死(ひんし)の状態でしたから、大学時代の夢が実現しているなんて、感じる余裕もありませんでした」
自分の居場所はどこかにあるものだと、思っていた。
「だけど、居場所を探すのではなく、自分の手で創りたいということに気付きました。自分と社員とお客さんの、より良い暮らしのための仕事を、やりぬく覚悟ができました」
キングフーズの一番若い女性社員は17歳だ。「面接で話を聞いて採用しました。何ができるか分かりませんが、高校に行かないで働くという彼女を、応援しようと思いました」
頑張る女性を励ます安岐さんは、明日はもっと前へ進む。まず日本で成功させて、インドネシアで日本食の総菜事業を目指す安岐さんの背中を、出会いの人たちが押す。
トラフグに負けない!
安岐水産は、日本で最初にイカ糸つくりを製品化した会社だ。大手業者が海外で製造した商品との競争が激しくなった。そこで外国では加工が難しいふぐ、讃岐でんぶく(香川県産ナシフグ)を製品化した。
「皮に、毒があるので、頭と内臓と皮を取り除いて、てっさ、一夜干し、から揚げ、なべ用セットなどにしました」。8年前からキングフーズが、販路を東京中心に開拓しているが苦戦が続く。
「認知度が低いのと、東京都の条例が厳しくて、ふぐの調理免許がないと調理済みでも店頭販売できないんです」
讃岐でんぶくに追い風が吹いた。キリンビールが、「今こそ!選ぼうニッポンのうまい!2011」で、全国にキャンペーンした。(9月12日から11月30日まで)
また讃岐でんぶくを味わえる飲食店や、ホテル、旅館をタウン誌と旅行情報誌に掲載、キリンビールと協賛した百貨店、スーパーで試食会や料理イベントを開催している。(12月末まで)
キングフーズは、キャンペーン応募者に当たる、讃岐でんぶく製品1000セットを提供する。「ジャニーズの嵐が、丸テーブルを囲んでいる、キリンビールのテレビCMに、一瞬だけ、讃岐でんぶくの刺し盛セットが写っているんです。撮影用に送ったんです」
讃岐でんぶくは、うまみと甘みがしっかりあって、トラフグに味は負けない。値段も安い。
※でんぶく
漁師が使うナシフグの愛称。
安岐 麗子 | あき れいこ
- 1965年 小豆郡土庄町豊島生まれ
1987年 神戸女子大学卒業
(株)新神戸開発(新神戸オリエンタルホテル)入社
1993年 (株)安岐水産入社
(株)キングフーズ設立
現在に至る
- 写真
株式会社キングフーズ
- 所在地
- さぬき市津田町津田1402-23
TEL 0879-42-5624/FAX 0879-42-2595 - 設立
- 1993年
- 資本金
- 1000万円
- 代表者
- 代表取締役 安岐麗子
- 社員数
- 5人
- 売り上げ
- 2億9000万円(2010年度)
- 沿革
- 1993年 (株)安岐水産の水産製品の委託加工でスタート
1997年 インドネシアにある日本人向けスーパーマーケットへ輸出業務を始める
1998年 (株)安岐水産の委託加工を止め、同社の加工材料の輸入業務を始める
2003年 通販部門を立ち上げ、水産物の通販事業を始める
2010年 香川産の魚を使った総菜事業「真魚亭」を始める
- URL
- http://www.king-foods.com/
- 確認日
- 2018.01.04
株式会社安岐水産
- 住所
- 香川県さぬき市津田町津田1402-23
- 代表電話番号
- 0879-42-3037
- 設立
- 1965年
- 社員数
- 41人
- 事業内容
- 食品製造・加工業
- 資本金
- 1500万円
- グループ企業
- 株式会社キングフーズ
- 地図
- URL
- http://www.aki-mp.co.jp/
- 確認日
- 2021.09.27
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