「試練と出会い」で気づいた付加価値 ~お惣菜の新ビジネスモデル~

キングフーズ代表取締役安岐麗子さん

Interview

2011.12.01

結婚と同時に夫と、水産加工の下請けを始めた。(株)キングフーズ社長 安岐麗子さん(46)は、父の縁故で、インドネシアのスーパーと、食品や雑貨の直接輸出を手がけた。

5年後、仕事もこれからという時、子供もいたが離婚した。「何で、こんな目に遭うんだろう」・・・悔しい、つらい、苦しい。みじめな気持ちから抜け出せない自分と向き合い、2年が過ぎた。

誰かが与えてくれると思っていた居場所は、自分で創るものと悟った。自分と社員とお客さんの、より良い暮らしのための仕事、それが居場所だ。

昨年、香川の魚を使った総菜事業を立ち上げた安岐さんは、食品のおいしさを保つ「冷凍チルド」が、付加価値になることに気づいた。

総菜の、新しいビジネスモデルを目指す安岐さんを、出会った人たちが後押しする。

※直接輸出
商社などを経ないで輸出すること。

※冷凍チルド
冷凍で保管・輸送された食品を、凍結寸前の温度で販売すること。

直接輸出

祖父は豊島の漁師だった。父の豊さん(73)は安岐さんが3歳のとき津田町に移り、イカやちりめん、エビの加工を始めた。安岐さんは、両親が加工場で働く姿を見ながら育った。キングフーズは、父の会社、安岐水産の下請けで、イカ糸つくりの製造が主な事業だった。

豊さんは、三井物産と共同で、インドネシアでちりめんの製造に携わったことがある。その時一緒に仕事をしたインドネシア人が、1996年、30年ぶりに訪ねてきた。

「ジャカルタで日本人向けのスーパーをやっている。日本の食品や雑貨を輸入したい。紹介してほしい」という話だった。

輸出の経験はない。仕入れ先もわからなかったが、97年、直接輸出を始めた。

「父は反対しましたし、生まれたばかりの子供がいて、夫といろいろあって、気持ちがぐちゃぐちゃのときでした。いま振り返ると不思議です」

安岐水産の取引先、大阪中央卸売市場に紹介してもらい、手数料を払って、食料品を中心に日用雑貨、赤ちゃんのオムツまで仕入れた。

「コンテナに、何千個の品をパズルのように積み込むんです。最初15基輸出しました。1基いくらの運賃なのに、3分の1しか詰めないコンテナも送って、無駄もやりました」 

雑貨や生鮮品以外の食品は船で、刺し身用の魚やヨーグルト、豆腐、牛乳などは飛行機で輸出した。

※イカ糸つくり
イカそうめんのこと。

小鍋で炊く惣菜事業

インドネシアのスーパーとの取引が、軌道に乗った。手間のかかる直接輸出が、次の事業につながった。現地で日本食の人気が高くなって、スーパーから、日本食の総菜コーナーを広げたいと頼まれた。

「知人に紹介されて、ある総菜会社の社長さんに相談したら、調理場に入れてもらえて、炊き方を教わりました」

業界では、大鍋で大量に煮炊きするのが常識だが、味の浸み込みがバラバラで、大味になりがちだ。

「採算が合わないと言われながら、社長は家庭で炊くような小鍋で調理する、総菜のビジネスモデルを成功させた人です」。安岐さんは、インドネシアへ行って、調理を指導した。

2008年、中国の「毒ミルク事件」で、インドネシア政府が食料の輸入規制を強化した。日本から食材の持ち込みが難しくなった。

「外国で苦労せんでも、日本でやりなさい。販売先も紹介する」。総菜を教えてくれた社長が、安岐さんの背中を押した。

※毒ミルク事件
中国の安徽省で、大手乳製品メーカーの粉ミルクや乳製品に有害物質のメラミンが混入、同省内だけで10人以上の乳児が死亡した事件。

惣菜の新ビジネスモデル

魚の消費が減っている。06年、魚が肉の摂取量を初めて下回った。09年度の1世帯当たりの生鮮魚介類の年間消費量は約35キロ、この10年で21%も減少した(総務省・家計調査報告)。

「もっと魚を食べてほしいのに、畜産業界に比べて、食べ方の提案が遅れていると思います。魚の調理が面倒な人に、手間のかからない製品化を考えました」

10年、安岐さんは、香川の魚を使い、地元の女性に働く場を提供する、総菜事業「真魚亭(まおてい)」を立ち上げた。県の食品産業総合支援事業に認定されて、助成金を受けた。 

調理場は、親会社、安岐水産の敷地に新設した。「人手が足りないとき、隣から来てもらえますから、生産効率もいいんですが、まだ採算はとれていません」

真魚亭の商品は、煮魚や焼き魚、南蛮漬など、価格はワンパック198円から400円前後で、県内スーパーに出荷している。

スーパーの店頭では、総菜売り場だけでなく、鮮魚売り場にも、煮魚や焼き魚を置くところが増えたので、真魚亭の商品も、そこで売られるようになった。  

安岐水産とキングフーズで、水産加工に20年以上携わってきた安岐さんは、冷凍は当たり前で、特別な技術だと思っていなかった。

「炊き方を教わった会社が、商品を毎日チルドで出荷しているのを見て、培ってきた冷凍技術で、総菜のおいしさを、もっと遠くへ届けることができると気づきました」

冷凍の総菜を、広い地域に流通させて、チルドで売る。総菜の新しいビジネスモデルは、その社長の紹介で、2カ所、愛媛と大阪からスタートした。

仕事が居場所

会社の立ち上げも、インドネシアへの輸出も、始めたとき夫と一緒だった安岐さんは、独りになって、仕事を軌道に乗せた。出会った人たちからエネルギーをもらったと感謝する。

「必要な時、必要な人が助けてくれました。出会いがチャンスとヒントをくれ、自分の気持ちを気づかせてくれたんです」

直接輸出に打ち込んだ理由が、最初は分からなかった。

「海外で仕事をしたいと、就職試験で商社を目指しましたが全部落ちたんです。輸出を始めたときは、瀕死(ひんし)の状態でしたから、大学時代の夢が実現しているなんて、感じる余裕もありませんでした」

自分の居場所はどこかにあるものだと、思っていた。

「だけど、居場所を探すのではなく、自分の手で創りたいということに気付きました。自分と社員とお客さんの、より良い暮らしのための仕事を、やりぬく覚悟ができました」

キングフーズの一番若い女性社員は17歳だ。「面接で話を聞いて採用しました。何ができるか分かりませんが、高校に行かないで働くという彼女を、応援しようと思いました」

頑張る女性を励ます安岐さんは、明日はもっと前へ進む。まず日本で成功させて、インドネシアで日本食の総菜事業を目指す安岐さんの背中を、出会いの人たちが押す。

トラフグに負けない!

韓国から輸入したナシフグで、死者が出た。93年、販売禁止になった。国に解禁を働きかけた香川、岡山、熊本、長崎の4県に、98年、発売が許可された。

安岐水産は、日本で最初にイカ糸つくりを製品化した会社だ。大手業者が海外で製造した商品との競争が激しくなった。そこで外国では加工が難しいふぐ、讃岐でんぶく(香川県産ナシフグ)を製品化した。

「皮に、毒があるので、頭と内臓と皮を取り除いて、てっさ、一夜干し、から揚げ、なべ用セットなどにしました」。8年前からキングフーズが、販路を東京中心に開拓しているが苦戦が続く。

「認知度が低いのと、東京都の条例が厳しくて、ふぐの調理免許がないと調理済みでも店頭販売できないんです」

讃岐でんぶくに追い風が吹いた。キリンビールが、「今こそ!選ぼうニッポンのうまい!2011」で、全国にキャンペーンした。(9月12日から11月30日まで)

また讃岐でんぶくを味わえる飲食店や、ホテル、旅館をタウン誌と旅行情報誌に掲載、キリンビールと協賛した百貨店、スーパーで試食会や料理イベントを開催している。(12月末まで)

キングフーズは、キャンペーン応募者に当たる、讃岐でんぶく製品1000セットを提供する。「ジャニーズの嵐が、丸テーブルを囲んでいる、キリンビールのテレビCMに、一瞬だけ、讃岐でんぶくの刺し盛セットが写っているんです。撮影用に送ったんです」

讃岐でんぶくは、うまみと甘みがしっかりあって、トラフグに味は負けない。値段も安い。

※でんぶく
漁師が使うナシフグの愛称。

安岐 麗子 | あき れいこ

1965年 小豆郡土庄町豊島生まれ
1987年 神戸女子大学卒業
(株)新神戸開発(新神戸オリエンタルホテル)入社
1993年 (株)安岐水産入社
(株)キングフーズ設立
現在に至る
写真
安岐 麗子 | あき れいこ

株式会社キングフーズ

所在地
さぬき市津田町津田1402-23
TEL 0879-42-5624/FAX 0879-42-2595
設立
1993年
資本金
1000万円
代表者
代表取締役 安岐麗子
社員数
5人
売り上げ
2億9000万円(2010年度)
沿革
1993年 (株)安岐水産の水産製品の委託加工でスタート
1997年 インドネシアにある日本人向けスーパーマーケットへ輸出業務を始める
1998年 (株)安岐水産の委託加工を止め、同社の加工材料の輸入業務を始める
2003年 通販部門を立ち上げ、水産物の通販事業を始める
2010年 香川産の魚を使った総菜事業「真魚亭」を始める
URL
http://www.king-foods.com/
確認日
2018.01.04

株式会社安岐水産

住所
香川県さぬき市津田町津田1402-23
代表電話番号
0879-42-3037
設立
1965年
社員数
41人
事業内容
食品製造・加工業
資本金
1500万円
グループ企業
株式会社キングフーズ
地図
URL
http://www.aki-mp.co.jp/
確認日
2021.09.27

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