
高松市の繊維製品総合卸 中商事(株)は、地方に点在する小売店を大切に、つながりを守って生き残った。無用論は、経営のかじ取り次第だったのだ。
どんなに量販店やチェーンストアの寡占化が進み、通信・ネット販売が普及しても、消費者の多様なニーズに応える小売店は無くならない・・・・・・2代目社長の中 博史さん(58)は、小売店と共に前進する。
※(問屋無用論)
1962年に東京大学の林周二教授が著書「流通革命」の中で唱えた。
※(地方問屋)
東京、名古屋、関西を除くエリアの卸業者。
※(全国有力問屋&アパレル売上)
2009年度1位 中商事 105億6900万円。日本繊維新聞2009年11月27日発行による。
経営のかじ取り
競争の激化で、大手量販店は本部の一括仕入れに変わった。メーカーが直接取引を始めた。多くの地方問屋が、倒産したり業務縮小を余儀なくされた。
量販店と共に成長してきた中商事も波をかぶった。一時期売り上げが160億円を超えたが、2009年度には105億7千万円まで減少した。
先代社長の父、與一(よいち)=現ナカグループ会長(91)=は、急成長した量販店を重視しましたが、一方で小売店にも軸足を置いて、バランスをとっていました。小売店の大切さを知っていたんです」
売り上げの半分以上を占める小売店が、流通業界激変の衝撃の中で、中商事を支えてくれたと中さんは感謝を込めて言う。
お客様はミセス

店の働き手は奥さんで、60代、70代まで続けられますし、お客様はミセスですので、接客もうまく行きます。それに10軒のうち、3、4軒は後継者があります」。店を継ごうと、子どもたちが帰ってくるケースもあるし、新規の開店もあると指摘する。
高齢化はますます加速するが、女性は年齢に関係なくファッションに敏感だ。需要は減るどころかむしろ増える、と中さんは考えている。
理由はシンプルだ。「おしゃれをするときに、お客さんは親身のアドバイスが欲しいんです。量販店の接客サービスには限界があります」
通販やネット販売が普及しても、小売店の強みは変わらない。顧客との密接なつながりは、それ以上のサービスなのだ。
取引先は、香川県内だけでも400店を超える。「繁華街の店はあまりありません、郡部の小さな店がほとんどです」。香西、国分寺、長尾、塩江、多度津、栗熊、琴平、小豆島・・・・・・取引先名簿には、中心市部周辺、郡部の店の名前がずらりと並ぶ。
高級品は完全密着型で
「3月の展示会では3日間で数億円売れました。リピーターが6、7割あって、一人当たりの購入平均額は10万円を超えます」
デザイナーがお客さん一人ひとりに合うように手直しする完全密着型の接客で、20万円、30万円の高級婦人服が売れるという。
「お客さんはいいものを欲しいのに、それを売るお店が減ってきているんです」。大規模店の寡占化が進んでも、商業施設に店が100店舗ならんでいても、ミセスのニーズには十分応えられていない…小売店を大切にしてきた中さんの確信だ。
デフレに飽きた?
予想しない好調に中さんも驚いている。「他社の展示会の数が減ったこともあります。でも、これだけ伸びたのは、消費者がデフレに飽きたのが原因ではないでしょうか」
攻めの強化
一つは直営小売店とインターネット販売だ。「取引先の小売店に迷惑のかからない地域に直営店を展開する計画で、いま岡山、高松、松山に10店舗を出しています」。ネット販売は個人向けの他に、去年から卸売りの販売も開始した。
二つ目は地元スーパーへの営業強化だ。「売れ筋商品をタイムリーに供給する調達力を高めて、お得意先の在庫ロスを軽減します」
三つ目は中商事の強み、「企画から製造まで管理する」メーカー機能だ。「例えば国産のオリジナルブランド布団も作っています。タイアップ商品の開発や、主にはOEMですがブランドの開発も順調で、全国規模で市場に出しています」
軸足のバランスを保つために、新しい事業にチャレンジするのも、中さんが受け継いだDNAだ。
※(OEM)
他社ブランドの製品を製造すること。英語 Original Equipment Manufacturingの略
今が最大のピンチ
「ヨットも強風の時より、凪(な)いだ時の方が、風をとらえるのが難しいんです」。31フィートのクルージングヨットで競技に出る中さんにとって、今こそがどちらから風が来るか判らない「凪」だという。今年は創業60年目、経営をゼロから見直す『チャレンジ60』の年だ。地方の小売店と共に中さんは、凪の舵取りに挑む。
おしゃれとメタボと外食事業
「サンマルクを4店舗出店しましたが太田店を除いて、生パスタの店『アルボーレ』にしました。また今年1月、カフェの形態で、高松の塩屋町に『カフェパスタ・アルボーレ』という店も作りました。両方ともお客さんの8割以上が女性です」
焼き立てのパンとサラダにビザもある。おしゃれな店づくりが女性に好評だという。
家庭料理の店『まいどおおきに食堂』も、2006年にフランチャイズで始めた。「岡山市の原尾島と新倉敷に2店舗と、高松は塩屋町の本社の跡地に開店しました。塩屋町店は全国でもトップクラスの売り上げです」。おかずを2品とご飯にみそ汁で750円ほど。こちらは、おしゃれより財布とメタボが気になる中高年男性に好評だそうだ。
中 博史 | なか ひろし
- 略歴
- 1952年 高松市生まれ
1974年 法政大学経営学部卒業
瀧定(株)入社
1978年 中商事入社 取締役社長室長に就任
1983年 中商事 専務取締役に就任
1990年 中商事 代表取締役副社長に就任
1991年 中商事 代表取締役社長に就任
2009年 麗魅飛商貿(上海)有限公司 薫事長に就任
公職
高松商工会議所 副会頭
四国経済連合会 理事
香川県防衛協会 副会長
香川県繊維製品卸商業組合 理事長
(社)高松法人会 副会長
四国生産性本部 理事
香川県ヨット連盟 副会長
中商事 株式会社
- 住所
- 香川県高松市福岡町2-24-1
- 代表電話番号
- 087-821-1211
- 設立
- 1949年
- 社員数
- 242人
- 事業内容
- 紳士服・婦人服・高級婦人服・呉服・和装製品・服地・寝装品・インテリア・ギフト用品・肌着全般・ベビー用品・子ども服の卸・宝石・貴金属類全般の卸・衣料用資材の卸・インテリア内装工事全般・土地建物販売
- 沿革
- 1923年 木田郡庵治町に呉服小売業として創業
1945年 高松市中新町に進出、卸売業を兼ねる
1951年 株式会社中商店を設立
1958年 本社ビル新築、岡山県にも販売エリア拡大
1961年 中商事株式会社に社名変更
1963年 高松市塩上町に工場竣工。縫製加工を開始し
メーカーへの進出
1971年 本社ビル増築(高松市塩屋町・建物面積
9966m2)
アパレルのナカニット(株)を設立、
全国への販売開始
1972年 寝装品生産工場を太田に新設
1981年 中商事・ナカニット大阪営業所、開設
1983年 松山支店、開設
1984年 岡山支店、開設
東京営業所、開設
1991年 中 與一社長、ナカグループの会長就任
中 博史副社長、社長昇格。
ベーカリーレストラン『サンマルク今里店』開店
1996年 カジュアルショップ『ビズビズ』開店
1997年 婦人小売店『おしゃれ広場 綺羅区 屋島店』開店
2005年 楽天市場にテキスタイル専門店『fabric bird』
開店
2006年 パスタ工房 アルボーレ 松山中央店 開店
和食業態の『まいどおおきに新倉敷食堂』
オープン
高松グループ会社所在地集約
第3ビル(朝日町)を改装 ナカニット移動
第2ビル(福岡町)を改装 本社移転
ナカニット 中国三東省煙台市イオン煙台
ショッピングモール内に婦人服小売店『ロアゾ
ブルー』開店
2009年 自社卸サイトを開店 ネットでの卸販売を開始
中国上海に『麗魅飛商貿(上海)有限公司』
を設立
- 資本金
- 6700万円
- 地図
- URL
- http://www.naka.co.jp
- 確認日
- 2010.05.20
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