「山」の不作で「里」に出てくる野生動物
農作物被害額のうち約半数はイノシシによる被害で、香川県環境森林部みどり保全課によれば令和2年度末時点における県内のイノシシの生息頭数は42,438頭と推定されている。5年に一度行われている個体数調査の結果や農作物被害額などを踏まえて捕獲目標頭数が毎年定められており、令和7年度の県全体での年間捕獲目標は12,000頭以上となっている。
対策は総合的に、地域ぐるみで継続することが重要
そもそも、今から60年ほど前までイノシシの被害はほとんどなかったと矢木さんは言う。昭和中期以降、高度経済成長による人口流出や、薪から石油へ転換するエネルギー革命によって人間の営みが変わり、中山間地域が野生動物の生息しやすい環境へと変化。さらに山ではマツクイムシの被害が広がり、松が枯れたところに落葉広葉樹や竹が生えたことでドングリやタケノコといったイノシシのエサが豊富になった。こうした里と山の環境の変化が背景となってイノシシが急速に数を増やし、農作物被害が増加したと考えられている。
「3つの対策の重要性は多くの農家さんが理解してくださっていますが、中山間地域では人口減少や高齢化でその対策の実行・維持が困難になっています」と前出の山岡さん。定期的に草を刈って山と農地の間に緩衝帯を作ったり、農地の周りに柵を設置したりする作業は、高齢の農業者にとっては大きな負担となる。このため、仕掛けたわな周辺へのセンサーカメラの設置、スマホによる電気柵の電圧のチェックなどICTを活用し、農業者や捕獲者の負担を減らす取り組みも進められている。
地域ごとに最適な共生の形を探る
飯村さんは10年前に北海道から五名に移住。自らも狩猟免許を持ち、解体も五名の先輩に教わった。「狩猟や解体は動物の命をとることなので、心にも負担がかかります。だから狩猟者はみなそれぞれに、『田んぼを荒らされると自分たちが生活できないから』とか、自分なりの理由を持っていると思います」。捕獲した動物の命をできるだけ無駄にしないという思いから、肉だけでなく革も加工して家具や雑貨を作り、地域の宿泊施設で使用するほか受注生産も行っている。
「中山間地域で、農業だけでなく薪作りや観光業など人間がさまざまな活動をすることで野生動物も山から出てきにくくなる。五名はそれがうまくいっている一つの例」と、農作物野生鳥獣被害対策アドバイザーの矢木さん。そのうえで、市街地に住む人にも野生動物に対する正しい知識をもってほしいと話す。「野生動物が人間の生活域に出てくるには理由があります。ただ単に、人里に出てきたから役場に連絡して駆除してもらう、それだけでは何の解決にもなりません。まずは正しい知識を持って、正しい野生鳥獣との付き合い方を、若いうちから身に付けてほしいと思います」。
産直カフェ「五名ふるさとの家」ではイノシシ肉を使ったジビエ料理を提供
WSワークショップ
●野生動物による農作物被害を身近に見聞きしたことはありますか。
●農業以外の野生動物被害にはどんなものがありますか。
●反対に、人間が野生動物に及ぼす影響にはどんなものがあると思いますか。
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