“非日常”を演出 郷土の誇り生む水族館へ

四国水族館開発 社長 流石 学さん

Interview

2020.03.19

瀬戸内海と一体化したような空間が楽しめる「海豚(イルカ)プール」。  夕日の時間帯にはさらに絶景が広がる=綾歌郡宇多津町の四国水族館

瀬戸内海と一体化したような空間が楽しめる「海豚(イルカ)プール」。

夕日の時間帯にはさらに絶景が広がる=綾歌郡宇多津町の四国水族館

ビール片手にイルカと夕日

オープンに向けて準備が進む宇多津町の四国水族館。「四国水景」をテーマに、海に囲まれた四国ならではの水中世界を表現する。運営する四国水族館開発を率いる流石学さん(41)は「この施設の誕生で、四国を訪れる観光客を今の3倍に増やしたい」と意気込む。

総事業費は70億円。約70基の水槽で、約400種1万4000の生物を展示する。巨大水槽で黒潮が流れる高知沖の太平洋をダイナミックに再現した「綿津見(わたつみ)の景」、アカシュモクザメの群れを見上げる「神無月の景」、鳴門の荒々しい渦潮を体感できる「渦潮の景」など、「訪れると実際に四国を巡ってみたくなる。そんな“四国の世界観”を出していきたいと思っています」

中でも流石さんが強く推すのが「海豚(イルカ)プール」。イルカが自由に遊ぶ様子を楽しめるプールは、海面との高低差を小さくしたことで、目の前に広がる瀬戸内海と一体化した感覚に陥る。夕日が沈む時間帯は「どこの水族館にも真似できないオンリーワンの『非日常』が味わえます」

四国水族館には「四国水景」に加え、もう一つのコンセプトがある。「大人の水族館」だ。「動物園とは違い、大人でも気軽に足を運べるのが水族館。知的好奇心を刺激する様々な仕掛けで『大人の非日常』を演出していきたい」

夕日に染まる瀬戸内海。初めて香川を訪れた時に見た、決して忘れることのない光景だ。「“イルカと夕日”は、ぜひともビールを片手に楽しんでほしいですね」

2つの“人生ミッション”

四国水族館

四国水族館

流石さんは異色の経歴を持つ。生まれは山梨県。四国や香川にゆかりはない。実家は薬局で、父は製薬メーカーのMR(医薬情報担当者)。自然と薬学の道を歩んだ。

転機は大学院生だった23歳の時。2つの社会の矛盾に直面したと話す。「1つは医療の世界。医師に比べ、あまりにも職能を発揮できていない。もっと発揮できれば、日本の薬物治療はより良くなるのではないか」。2つ目は、農業を営む地元山梨の幼馴染から「どんなに質の良い野菜をつくっても安く買いたたかれる」と相談され、「どうすれば地方で頑張っている若い人が報われるのか、地方に光が射すのか……」

この時、「『医療界をもっと良くしたい』『地方を元気にしたい』。私の2つの“人生ミッション”が明確に定まりました」

慶應義塾大のビジネススクールなどを経て、2014年、医療機関や中小企業を支援する経営コンサルティング会社「メデュアクト」を島根県で創業した。島根にもゆかりはなかったが、「あえて高齢化や過疎が深刻な地域を選んだ。この町を元気にし、地方創生の全国モデルにしたいと思ったんです」

医療コンサルティングや地域活性化事業を手掛ける中、町おこしに取り組む仲間うちでは「地方案件と言えば流石だ」とまで言われるようになった。そして、声がかかった。

「宇多津に水族館をつくりたい。手伝ってもらえないか」

迷うことなく飛び込んだ。「水族館で活性化。こんなに面白いことはないと思いました」

香川では過去に何度か「水族館構想」が持ち上がったことがある。いずれも実現しなかったが、「四国水族館」は構想から足かけ6年で形になった。「もうダメだ」と挫けそうになったことは数えきれないが、ここまでたどり着けたのは、自身が“よそもの”だったからではないか、と振り返る。「資金調達や行政、地元住民との交渉や調整……地縁血縁があると、正直身動きが取れなくなる。何のしがらみもない私だからこそ、時には地元の声に耳を塞いだりもしながら、実現へと邁進できたんだと思う」と感慨深そうに語る。

スペシャリストが集結

「神無月の景」はアカシュモクザメの特徴的なシルエットを見上げる展示スタイル

「神無月の景」はアカシュモクザメの特徴的なシルエットを見上げる展示スタイル

商圏は四国4県だけでなく、岡山、広島、関西圏なども想定。初年度の来館者数は120万人を見込む。「四国の他の水族館とも連携し、四国内の観光動線も変えていきたい」

観光施設として経済効果をもたらす役割に加え、教育施設としても貢献していきたいと力を込める。「水族館は生物の調達や飼育など“専門職”の集まり。宇多津という町にスペシャリストが集結する。これは非常に価値がある」。地域の海や川がどんな状態なのか、環境を改善するには何が必要なのか……「自然が発するメッセージを子どもたちに伝えていくことも、とても重要なことだと思っています」

メデュアクトの代表も兼務し、島根や東京や香川を行ったり来たりする日々が続く。地域の活性化に携わる中で、強く思うことがある。「地方の子どもたちは、多くが進学や就職で県外へ出てしまう。いつか戻ってきてほしい。でも、たとえ戻らなくても、故郷を誇らしく思う気持ちをずっと持っていてほしいんです」

私の故郷には自慢の水族館がある。そんな存在になれたら、と夢を語る。自分自身は地元山梨を離れてしまった。だが、「いつも心には故郷がある。故郷を思う気持ちは誰にも負けませんよ」と頬をゆるめる。

新型コロナウイルスの影響で当初予定していたオープン日は延期になった。しかし、流石さんは「四国の魅力満載の、郷土の誇りを生み出す水族館にしたいと思っています」と目を輝かせながら前を向く。
「知的好奇心を刺激し、四国の観光動線を変える」

「知的好奇心を刺激し、四国の観光動線を変える」

篠原 正樹

流石 学|さすが まなぶ

略歴
1978年 山梨県河口湖町(現富士河口湖町)生まれ
1997年 駿台甲府高校 卒業
2001年 東京薬科大学薬学部 卒業
2003年 東京薬科大学大学院薬学研究科修士課程 修了
     武田薬品工業株式会社 入社
2009年 慶應義塾大学大学院経営管理研究科修士課程(MBA)修了
2014年 株式会社メデュアクト(島根県)創業
2015年 株式会社四国水族館開発 代表取締役

株式会社四国水族館開発

住所
香川県綾歌郡宇多津町浜一番丁4
代表電話番号
0877-49-4590
社員数
従業員数 44人
事業内容
水族館に係る経営・運営受託、管理
付随関連する飲食・物販施設の運営、広告業務 他
地図
URL
https://shikoku-aquarium.jp/
確認日
2020.03.18

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