技術者目線で舵を取り、ロボットケーブルの未来を拓く

吉野川電線 社長 藤井 博さん

Interview

2021.11.04

吉野川電線のロボットケーブル工場=高松市小村町

吉野川電線のロボットケーブル工場=高松市小村町

成長市場で変化に対応

「市場はまだまだ伸びていくと思う。とても面白くなりそうで、ワクワクしています」。今年6月、吉野川電線の社長に就いた藤井博さん(56)は目を輝かせる。
吉野川電線が製造する各種ケーブル

吉野川電線が製造する各種ケーブル

吉野川電線の主力製品は、産業用ロボット向けのケーブル。スマートフォンのプリント基板に電子部品を組み込んだり、自動車を溶接したり塗装したり組み立てたりする産業用ロボットは、人間に代わって製品をつくる。労働力不足が叫ばれる今、活躍の場を拡大させている。

その産業用ロボットの可動部分に使われるケーブルは、ロボットにとっての「血管」や「神経」と表現される。吉野川電線では「強く、細く、しなやかに」を追求し、顧客それぞれの要望に個別対応する「オーダーメイド方式」を採用。年間数千種類のケーブルを開発・製造している。中でも独自技術を結集させて生み出した「モビロン タフケーブル」は、ひねったり高速で動いたりする「高可動部」のケーブル市場でトップシェアを誇り、国内外の様々なロボット開発現場を支えている。「今後は、これまでとは違ったタイプの産業用ロボットが増えてくると思います」。近年の産業用ロボットには、カメラや通信システムなどが新たに組み込まれ、例えばEV(電気自動車)は、バッテリーなどの構造が従来のものとは大きく変わってくる。「高齢者の介護支援など、ロボットが私たちの暮らしの中にも入りつつあります。時代や市場の変化に対応し、変えるべきところは変えていく。それが大きなカギになると思っています」

製販技を知る経営者

ケーブルの強度などを調べる「移動曲げ運動」

ケーブルの強度などを調べる「移動曲げ運動」

高校生の頃、バブル景気に沸いていた日本の製造業は伸び盛り。「技術立国日本」と謳われ、自動車や家電など次々と送り出す革新的な製品で世界を席巻していた。「日本の技術力への強い憧れがありました」

大学院まで進み、1990年、金属製錬や電子材料製造大手の三井金属鉱業に入社。志望通り、ものづくりの最前線に立ち、スマホなど身近な製品を支える事業に携わった。

生粋の技術者で、グループ会社の吉野川電線の社長就任に戸惑っているのかと思いきや、「迷いや不安は全くありません」

三井金属鉱業時代には8度転勤し、広島や山口など地方の事業所でも勤務した。「儲かる職場よりも、厳しい職場の方が多かったかもしれません」。小さな所帯では、製造、開発、営業、さらには事業所の運営まで、あらゆる業務をこなさなければならなかった。「売るモノがなく、事業の存続が危うくなることもありました」。営業を強化し、自ら全国各地のメーカーを営業して回った。このお客さんは何を必要としているのか、何が提案できるのか、開発するとなると我が社は技術的にクリアできるのか……。技術者と営業マン、両方の視点で事業所を切り盛りした。「新規開拓しないと先がない状況だった。でも、逆にやりがいも大きかった。営業での提案が採用された時は、技術者として新製品を開発したのと同じくらいうれしかった。いい経験になりました」

その後、本社の経営企画部で中期経営計画編成チームに所属し、経営のノウハウも学んだ。「製販技(製造・販売・技術)が分かる経営者、というのが私の強みの一つかもしれませんね」。藤井さんは頬を緩める。

「成長」し、従業員を守る

社長になり、まずは新たな部署「ソリューション本部」をつくった。技術者の推進課を柱に、設備、管理、業務部門を統括する。「分かりやすく言うと各部署を連携させる部門。製販技を横串で刺せるような役割です。社内で問題が生じた時は陣頭指揮を執り、中長期での課題解決を目指していきます」。営業や製造から技術までの横軸での連携。まさに自身のこれまでの経験を早速組織化した形だ。さらに現在は、従業員全員との面談中。「香川の県民性は『真面目だが、あまり変化を好まない』と聞いていたが、そんなことはない。みんな前向きで『もっと成長したい』『頑張っている自分をもっと評価してほしい』という熱い思いも受け取った。気づかされたことも多く、大きな希望を感じています」

藤井さんは「従業員を守るのが使命」と繰り返す。従業員を守るには会社を守らなければならない。「会社は、『現状維持』ではなく『成長』し続けなければ守れません。そのためには生ぬるい体質ではなく、厳しい会社であらねばならない、とも思っています」

好きな言葉は、江戸末期の蘭学者・渡辺崋山が遺した『眼前の繰廻シに百年の計を忘スル勿レ』。今現在のやり繰りにとらわれ、長期的な展望を忘れてはいけないという教えだ。「すぐに利益は出なくても、将来伸びる可能性があるのなら思い切ってやってみようじゃないかと。まずはどんどんチャレンジしていきたいですね」

篠原 正樹

藤井 博|ふじい ひろし

略歴
1965年 愛知県名古屋市生まれ
1983年 愛知県立旭丘高等学校 卒業
1990年 群馬大学大学院工学研究科修士課程 修了
     三井金属鉱業株式会社 入社
     広島、山口、岐阜の事業所で製造、開発、営業を経験
2007年 本社経営企画部
2011年 素材関連事業本部、セラミックス事業部 工場長、企画室室長
2016年 関連事業統括部 技術・企画 担当部長
2017年 九州精密機器株式会社出向 代表取締役社長
2021年 吉野川電線株式会社出向 代表取締役社長

吉野川電線株式会社

住所
高松市小村町331
代表電話番号
087-847-5161
事業内容
各種電線の製造・販売
設立
1948年7月31日
資本金
4億442万6150円
地図
URL
http://www.yoshinogawa-densen.jp
確認日
2021.11.04

記事一覧

おすすめ記事

メールマガジン登録
メールマガジン登録
ビジネス香川Facebookページ