「電着塗装」武器に 100年目指しタクトを振る

四国塗装工業 社長 近澤 裕明 さん

Interview

2024.07.04

四国塗装工業の工場敷地内にある富士見園=丸亀市川西町北

四国塗装工業の工場敷地内にある富士見園=丸亀市川西町北

イオンの力で酸化を防ぐ

電力の受配電盤や産業機械などをつくる金属素材への塗装を手掛ける四国塗装工業。素材となる鉄板などを洗い、脂を取り、表面処理し、下地塗装などをしたのち、錆止めや耐熱などの機能を持つ様々な塗料を塗り、カラーリングして仕上げていく。

塗装だけでなく、板金や印刷、資材調達などをグループで行う一貫生産が特徴の一つだが、四国塗装工業最大の強みは、下地を塗装する際に行う「電着塗装」にある。
電着塗装ライン=四国塗装工業本社工場

電着塗装ライン=四国塗装工業本社工場

西日本最大級の電着塗装ラインを自社で所有。社長の近澤裕明さん(50)は「“電着しない”塗装と比べると、仕上がりはケタ違い」と自信を見せる。

電着塗装とは、塗料を入れた大型タンクに電気を流し、イオンの力で塗料を密着させる特殊な手法。塗装の最大の敵は“酸素”で、素材と塗料の間に酸素が入ると、酸化し、錆び、塗料が剥がれ落ちる要因となる。しかし、下地に電着塗装を施すと、「イオン分解した分子がまんべんなく広がり、ほぼ100%酸素がない状態で素材と塗料が密着する。さらに、その上から塗る別の塗料の“ノリ”も良くなります」

この“電着塗装ライン”。大掛かりな機械なので「地方や中小の塗装会社ではなかなかペイできず、持つところはほとんどない」が、2000年に「思い切って、自社設備として導入しました」
近澤さんの信条は「かゆいところに手が届く、求められる企業になる」

導入後は、ラインを持たない大手電機メーカーや同業者などからの引き合いが相次いでいる。

父を説得し「電気に特化」

以前は食品加工機や自動車などの塗装も行っていた。だが今は「ほとんど“電気関連設備”に絞っています」

近澤さんは「電気の持つ力」を信じて疑わない。「電気がなければ何もできない。昔は“一家に一つ”だったが、今は皆がスマホを持ち、“一人が一つ”モバイルバッテリーを持つ時代。毎日何回も充電する。電気に勝つもの、他に何かありますか?」

“電気に絞る”を巡っては、先代の父としばしば口論になった。「父は『一つに特化するのは好ましくない。リスクの分散が必要』というのが持論でした」
時代に求められ、“100年”続く会社のシステムをつくる

時代に求められ、“100年”続く会社のシステムをつくる

父が社長をしていた当時、売上の多くを占めていた得意先が倒産し、連鎖倒産の危機に瀕したことがあった。「以来、父は取り扱うアイテム数を増やしていきました」。“電気関連”は半分くらいで、いくら「電気に特化したい」と訴えても、「何を言っているんだ。私のようになってほしくないからリスク分散を助言しているのに、なぜ茨の道を選ぶんだ」と意見は対立。「いや、違う。一つのメーカーに依存するわけではない。“電気”という業界でやっていくんだ。アイテム数は減らすが、展開していく先は増やしていく。一つ一つの取引をしっかり太くしていくんだ……と、説得するのに10年くらいかかりましたね」

電気に絞り、33歳で社長を継いで間もなく20年。売上、利益率ともに順調に伸び、「成果が出て、父もようやく納得してくれました。あの時の見極めは間違っていませんでした」。覚悟を決め、会社の舵を切った当時を、近澤さんはしみじみと振り返る。

オーケストラの指揮者は社長と同じ

キャンディーズやピンク・レディーよりもクラシックが好きな子どもだった。「オーケストラがしたかったんですよね」
「愛媛ジュニアオーケストラ」を指揮する近澤さん

「愛媛ジュニアオーケストラ」を指揮する近澤さん

管弦楽部がある善通寺一高でオーケストラの虜になり、作陽音楽大学(現くらしき作陽大学)に進んだ。「ゾクゾクっとする瞬間があるんです。体が震えて鳥肌が立つ。どんな理由で、いつそうなるのかは分からない。それが面白くて、気持ちいいんです」

現在は、丸亀市の市民楽団「丸亀シティフィルハーモニックオーケストラ」をはじめとする、四国のアマチュア楽団の指揮や指導を行う。丸亀では、定期演奏会や子どもたちに音楽に親しんでもらう「0歳からのコンサート」など年間4つの大型公演を目標に活動を続けている。「楽団にも“経営”があります。行政や企業などと折衝して公演を開いたり、楽団員をまとめたりするのは、社長業と全く同じです」。社長業と同じなので……「楽しいこともありますが、一生懸命になり過ぎて、息抜きにならないこともあるんです」
愛車にまたがって

愛車にまたがって

そんな時はもう一つの趣味、バイクにまたがる。全てを忘れて、中四国の海沿いを走るのが何よりの気分転換だ。「一番好きなのは、学生時代を過ごした岡山・津山市の風景。吉井川に架かる今津屋橋から当時のキャンパスが見えるんです。疲れた時に見に行きたくなりますね」

自身が生まれた1973年に父が創業して50年余。一番の目標は「100年企業」に育てることだ。「会社を継続させるには、時代に対応し、時代に求められなければならない。100年続く会社のシステムをつくっていくのが、私の使命だと思っています」

篠原 正樹

近澤 裕明 | ちかざわ ひろあき

略歴
1973年 大阪府寝屋川市出身
1992年 善通寺第一高校 卒業
1996年 作陽音楽大学(現くらしき作陽大学)音楽学部 卒業
     株式会社愛媛銀行 入社
1999年 四国塗装工業株式会社 入社
2006年 代表取締役

四国塗装工業株式会社

住所
香川県丸亀市川西町北1698番地1
代表電話番号
0877-24-0294
設立
1973年12月13日
社員数
115人(グループ)
事業内容
電着塗装、焼付塗装、金属塗装、スクリーン印刷
グループ
竜王金属株式会社(薄板板金加工、各種溶接加工)
株式会社春日(電着塗装、海外調達)
協同組合エフォートかがわ(材料・資材の共同購入)
地図
URL
https://www.shikokutosou.co.jp/
確認日
2024.07.04

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