カーボンニュートラルのビジネスチャンスを切り拓く

サンテック 社長 青木 大海さん

Interview

2022.10.20

サンテックラーニングセンター2階のミーティングスぺース=綾川町羽床下

サンテックラーニングセンター2階のミーティングスぺース=綾川町羽床下

石炭→水素=CO2ゼロ

工業用ステンレス製タンクや上下水道用の熱交換器などを製造するサンテック。40歳の若きリーダー青木大海さんは常に世界を見つめ、今2つの大きなチャレンジの真っ只中にいる。

1つは、油温減圧式乾燥機「D-Cocotte(ディーココット)」の製造販売。飲食店やセントラルキッチンなどから排出されるフードロスを飼料(エコフィード)にリサイクルする装置で、「ファミレス、スーパー、コンビニなど多くの業界が注目してくれている。海外からの問い合わせも相次いでいます」。開発を繰り返し、ダウンサイジングした「D-Cocotte」が今月末に完成予定で、「アジアやアフリカなど発展途上国で深刻化する生ごみ問題の解決に繋がればと思っています。燃やすごみを大幅に減らせるので、CO2の削減にも貢献できます」

もう1つは、「水素還元型の熱交換器」製造。製鉄時にCO2を出さない「カーボンニュートラルに貢献する地球規模の大きなプロジェクトです」
昨年完成した本社工場「サンテックラーニングセンター」

昨年完成した本社工場「サンテックラーニングセンター」

製鉄には鉄鉱石と石炭が使われる。「石炭は炉の温度を上げるために必要で、大量のCO2を排出する。この石炭を『水素』に代えれば、CO2は一切出ません」。そこでサンテックが携わるのが、水素を高温にする装置。約20℃の水素を1100℃まで加熱する熱交換器だ。「どこもやったことのない世界初の試みです」。実現すれば、年間4億5000万㌧のCO2を削減。海外の製鉄メーカーなども注目している。

まもなく某メーカーと一緒につくり始める計画で、「本当にできるのかどうか、誰もつくったことがないから分からない。でも、うまくいけば楽しいでしょうね」。青木さんは目を輝かせる。

琴線に触れた一言

「国連で働きたいという漠然とした夢がありました」

溶接工だった父が立ち上げた家業を継ぐ気はなかった。高校時代にはアメリカへ留学。大学卒業後にアメリカ大使館で勤務したのち、リーマン・ブラザーズ証券へ。テンプル大学でも国際関係学を学んだ。「もう環境を犠牲にして経済をゴリ押しする時代じゃない。地球規模で環境問題に取り組み、環境と経済が両立する道を探る。そんな仕事に携わりたかったんです」

だがある日、父が言った。「お前の考えは机上の空論だ。ポリシーメーカーとして政策をつくってプレゼンを繰り返す。それの何が面白いんだ。アカデミックなことで世の中は変えられないぞ」。そして、父はこう続けた。

「俺たちがつくっているのは、れっきとした環境機器だ」

その一言が青木さんの琴線に触れた。「サンテックは熱をリサイクルする熱交換器や、水をきれいにする装置を実際につくっている。この技術があれば、自分のやりたいことができる。国連に行くより、むしろこっちの方がインパクトがある」
サンテックで働く外国人スタッフ

サンテックで働く外国人スタッフ

環境問題や世界へ思いを馳せる考え方は、「幼い頃からの母親の教えが染みついたんでしょうね」と振り返る。

「人は周りによって生かされているのよ」「あなたが着ているシャツには“メイド・イン・チャイナ”って書いてあるでしょう?」「あなたは世界市民のひとりなのよ」……。

青木さんは、従業員にチュニジアやコンゴ、スーダンなど海外からの人材を積極的に受け入れている。その中には難民認定を受けたシリア人もいる。「難民を減らしたいというのが私の目標の1つ。『よっしゃ、1人減らしたぞ』っていう思いです。いつか、世界中の仲間と環境問題を各国で議論する国際会議を開きたい。その“世界平和の民営化”こそ、私の夢なんです」

きょうより1㍉でも前へ

サンテックには40を超える国々から人が訪ねてくる。昨年完成した新社屋のコンセプトは「ホーム」。高い技術力を持つ従業員やその家族、世界中から集まってくるお客さん……あらゆる人が気持ちよく集える場所にしたいという思いを込めた。
本社工場を子どもたちに開放して開催する「サンテックキッズクラブ」

本社工場を子どもたちに開放して開催する「サンテックキッズクラブ」

1階の食堂は「リビング」と名付け、2階にはカフェカウンターもある。およそ“鉄工所”とは思えない、おしゃれで開放的な空間が広がるが、「今は良いものさえつくっていれば客が集まる時代ではない。ブランディングとして、働く場所の見せ方にもこだわりました。雰囲気も商品の一部。同じ空間で価値を共有し、『こんなところでつくっているんだ』と全部を見て買ってほしいんです」

父が病に倒れたため、31歳の若さで社長になった。まもなく10年。厳しかった父の“イズム”を受け継ぎながらも新たな血を注ぎ込み、全力で駆け抜けてきた。「会社を見る周りの目もかなり変わったと思う。良いことばかりじゃなく、いろいろありました。でも、年配のベテラン社員が変わらず一緒にいてくれている。これが全て、ですかね」
今年5月には、“次世代に残すべき素晴らしい企業”を認定する「ホワイト企業認定 ゴールド」に四国で初めて選ばれた。社員には、昨日ときょう、きょうと明日を比べて1㍉でも前に進んでほしいと呼びかける。「もし私が別の道に進んでいたとしても、また違った人生があったでしょう。でも、決してこんなにもイキイキとはしていないと思うんです」。青木さんは笑顔で続ける。「だって、社員やお客さん……香川で出会った素敵な人たち、むちゃくちゃ多いんですから」

篠原 正樹

青木 大海 | あおき ひろみ

1982年 岡山県総社市生まれ
1992年 米アーカンソー州・ホールハイスクール 卒業
2003年 関西外国語大学 卒業
2005年 アメリカ大使館商務部 勤務
2007年 リーマン・ブラザーズ証券株式会社 勤務
2007年 米フィラデルフィア・テンプル大学(日本キャンパス)卒業
2008年 株式会社サンテック 入社
2013年 代表取締役社長 CEO 就任
写真
青木 大海 | あおき ひろみ

株式会社サンテック

住所
香川県綾歌郡綾川町羽床下2137-1
代表電話番号
087-876-1600
設立
1991年
社員数
70人
事業内容
プラント設備機器(熱交換器、真空機器装置、ステンレス製タンクなど)設計・製造
油温減圧式乾燥機「D-Cocotte」製造・販売 他
地図
URL
https://suntech.link/
確認日
2022.10.20

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