“笑声”コミュニケーション管理職に新しい視点を提供

人間科学研究所 社長 池田 弘子さん

Interview

2013.01.17

日本企業が人を大切に育ててきた時代は遠い昔話になろうとしている。時間とお金をかけて取り組んだ企業内研修も過当なまでの価格競争とコスト削減の嵐のなかで下火になりつつある――そんな流れに棹(さお)差すような企業研修を提供している。仕事のスキルを教えるのではなく、人と人とのコミュニケーションを基本にした"人間学"とでも呼べそうなユニークな研修だ。

力を入れているのが、中間管理職研修だ。管理職研修といえば、通常は「有能なリーダーとは」「部下をその気にさせる管理術」……といった管理職論を1日か2日、座学で詰め込むプログラムが多い。

「場の調整トレーナー」

「腕力で組織を引っ張る指揮命令型リーダーは時代に合わなくなっています。人の話をよく聞ける管理職がいない企業は売り上げが減るし、企業活動にとってマイナスでしかありません」。自らを「場を調整するトレーナー」と定義し、「ダイナミックミーティング最強の対話術」と名付けた研修プログラムを提案する。課長研修を依頼してくる大手企業の経営トップは多い。

「自分で『研修を受けたい』と手を挙げた方を参加させてほしい」と依頼した企業に注文する。業務命令による参加では研修の実は上がらないからだ。「ダイナミックミーティング」とは日常的な部下との話し合いや会議で「異なる意見に対立しない」「自分の意見を筋道立てて話す」「相手の話の腰を折らない」「自分の感情をぶつけない」「場の空気を読む」……等々を基本にする職場コミュニケーションだ。

部下に対しては、自分と異なる意見を持つ人物を排除したり、大声で命令したり、逆に上司には、言わぬが花、と決め込んで物をはっきり言わず、気遣いだけはする。これが現代企業にとって「内なる敵」となり、ダメージを企業に与え、業容を衰退させていく遠因となる、と分析している。

相手の頭脳借りる

「話し下手な人は、それまでに『よい聞き手』に出会っていないだけ。話す相手が適切な質問をしてくれて初めて自分の考えが整理され、共感を得られるのです」。相手の頭脳を借りて自分の脳を活性化させる。こういう中間管理職が層になっている会社は市場環境の激変に対応でき、新商品開発にも柔軟になれる。

「中間管理職は上からはプレッシャーを受け、下からは突き上げられる。研修では、まず上司の悪口、部下に対する不満を聞くことから始めます。次に適切なコミュニケーションの取り方を学んでもらいます」。かつて企業にゆとりがあったころ、緑ゆたかな保養地のホテルなどに研修生を集め、ヨガやジャズダンス、スイミングで身体をほぐしたあと、グループ数人でドラマを制作したり、ラブストーリーを個々人が場面ごとにリレー方式で書いていったりする「感性を磨く」研修をしたことがある。人気があった。「本当は、閉塞感が充満した今の時代こそ、ああいうプログラムをもう一度、と思います」

数年前から「母性型経営」「母性型リーダー」という発想を持つようになった。対立的・攻撃的で優劣にこだわり情報に飢え地位に固執する「男性」に対し、「女性」は協調的・平和的、対等な立場で人間関係を処理し感情的だけど親しみを感じさせる。「女性のなかの母性力をうまく戦力にしていく環境を作れる企業が伸びる」と確信している。

対応力を重視

今治市の出身。20代、愛媛県の南海放送アナウンサーをしていてコミュニケーションに興味を持った。アナウンサーを辞めたあとも主婦をしながらフリーの司会業を続けた。当時の配偶者が高松に転勤して、そのまま高松に居ついた。RNC(西日本放送)ラジオ、FM香川で番組を持ったこともある。「ラジオでは『笑顔』ならぬ"笑声(えごえ)"という言葉があります」。「ダイナミックワークショップ」と名付けた対話力を重視する笑声コミュニケーションを身につける研修を高松から発信中だ。

池田 弘子 | いけだ ひろこ

略歴
1944年 愛媛県今治市生まれ
1966年3月 共立女子大学文芸学部劇芸術学科卒
1966年4月 南海放送入社、アナウンサーに
1986年 人間科学研究所の前身である
     イケダコミュニケーションズ設立
1988年 瀬戸大橋開通時のコンパニオン指導
1989年 全国植樹祭香川で香川県の女性職員に接遇指導
1991年 (株)人間科学研究所を設立
2002年~2007年 FM香川「いけだひろこの
         ちょっといいスタイル」MC
         現在 NHK文化教室「度胸&愛嬌が
         身につく話し方」講師

株式会社人間科学研究所

確認日
2013.01.17

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