経営者磨く ボランティア

全国法人会青年部会 会務担当副会長 小野 兼資さん

Interview

2013.01.17

青年会議所や経済同友会など社会的な活動に精を出す中小企業の経営者は多い。異業種の人たちとも出会えるし、特にボランティア活動が世間で認められるのは誇らしい。だがこの心理は、本業をおろそかにさせる要因にもなるから、優先順位のジレンマは悩ましい。

手芸センタードリームを全国展開している小野(株)社長の小野兼資さん(50)は3年前、創業100周年と関東圏進出という多忙のなか、全国法人会青年部会の会長に就任した松山法人会の武村秀行さんに頼まれて、ナンバー2として会長を補佐する会務担当副会長を引き受けた。

「本業が忙しいのに、儲けにならないことをやっている自分をほめたくなる。そんな不思議な気持ちになります」

子供のころ、時間が足りないとこぼしながら法人会やライオンズクラブへ出かける父の耕一さんを理解できなかったが、今は父以上に熱中して「父が首をかしげています」と笑う。

※法人会
中小企業や個人事業主を対象とした非営利団体組織で会員企業は約90万社。税務署の管轄地域毎に国税局が団体として認可する。公平で健全な税制実現のため、会員企業の声を立法府等に提言し、税知識の普及のための研修会や地域振興、ボランティアなど地域に密着した活動を行う。下部組織に女性部会と50歳定年制の青年部会がある。

時間と熱意に比例

ボランティア活動にかかわる悩みはみんな同じ。本業とのバランスをとるのが意外に難しい。

事業は何年かけてもうまくいかないこともあり、短期間で成功することもあって費やした時間の長さと成果は比例しない。しかし報酬を目的にしないボランティア組織の活動の評価は、かけた時間と燃やした熱意に比例する。

「あの人はいつも一生懸命やっている」と周りは認めてくれる。自分が成長していると実感できる。その快感でつい引き込まれていく。

意見違う人たちと

07年、(株)日本運輸機構社長で2代前の全国法人会青年部会長、田口典彦さんに出会い、現会長の武村さんたちとともに田口チルドレンと呼ばれるようになった。

「青年部会の地域社会への貢献活動は、一般的なボランティア運動をただ闇雲にするのではなく『税の啓発』を主体としたものが本来の目的」―国税局の担当者や法人会の幹部に、あるべき姿を主張するリーダーシップに深く感銘した。

意見の違う人たちと、懇親会で打ち解けて親しくなる田口さんの器の大きさ、陳腐な前例主義を変える手法と実行力を凄いと思った。

その一つが賞金付の「租税教育活動」コンテストだ。2000年頃から一部の地域では、子供たちに税の仕組みと大切さを教え、使われ方にも興味を持って国や地域社会を愛する気持ちを育てる「租税教育活動」が開催されていたが波及しなかった。

07年、田口さんが会長になった「全国青年の集い」長崎大会から、その年の優秀な活動をした地区を表彰する発表会をスタートし「租税教育活動」は全国に広がった。

友情・尊敬芽生え

普通の団体なら筆頭副会長である会務担当副会長の重要な役割は、東京の本部で年6回開催される役員会の議事の運営だ。全国から県連(県連合会)や局連(国税局管地域単位の連合会)の代表が集まる役員会の司会を務め、会長とともに取り仕切る。

前日から会長や事務局と議事のシナリオを練る。会議では限られた時間で議案を通すために気をつかうが、思うように議事は進行しない。

「なぜ言われるとおり従わないといけないのか」。ボランティア組織は、雇用関係の"力学"は通用しない。さまざまな意見をまとめるのは実に難しい。

「自分のふがいなさを痛感することもありますが、会議のあとの懇親会で補足説明したり、熱い議論を交わしたりで、友情や尊敬も芽生えます」

感動の涙を体験

毎年1回、全国の青年部会員が集まる「全国青年の集い」は、地域社会に対する活動や租税教育を中心テーマにした情報交換や研鑽(けんさん)の場だ。

毎年変わる開催地の青年部会が主催するが、講師の選定やホテル、人員を運ぶ手配、雨天時の対応などの2000名を超える受け入れ態勢や運営は、本部が指導する。

11年11月、伊勢市で開催した三重大会は、3月の東日本大震災の後で、伊勢市と津市、四日市市の青年部会の連携に手間取って実施が危ぶまれた。

やめるか縮小しようという意見が他の副会長から出て、本部の指導力が問われる羽目になった。三重県へ何回も足を運んで実行委員長や大会会長を説得した。

「これとこれを、必ずいついつまでにやること……」。上下関係の強い大学の体育会のような口調で言った。年下の実行委員長はそれに応えてくれた。大会が無事終わって、「小さな地方都市でよくやれたなー」と、みんなで泣きながら抱き合う感動を味わった。

手弁当で参加する会員の信頼を得るのは、熱意と人間力だけだ。利害関係のない人たちが集まる組織では、肩書きでは測れない裸の実力が試される。

楽しいこともある。年間に5~6カ所、北海道から九州まで各地で開催される青年部局連大会に、会長とともに招かれる。地域ごとの運営手法の違いや、租税教育活動への取り組みも参考になるし、ご当地料理も楽しみだ。

サービス業を宣言

▲昨年11月に開かれた法人会全国青年の集い宮崎大会の様子。左上の写真は、同大会で壇上に立つ小野兼資さん(左端)=いずれも高松法人会提供  ◆写真撮影 フォトグラファー 太田 亮

▲昨年11月に開かれた法人会全国青年の集い宮崎大会の様子。左上の写真は、同大会で壇上に立つ小野兼資さん(左端)=いずれも高松法人会提供

◆写真撮影 フォトグラファー 太田 亮

手芸センタードリームの店舗数は、今年75店舗を超える。都市部での競争相手は業界の大手ばかり。資本力でも仕入れ能力でもかなわないし、商品の差別化には限界がある。

創業100周年で、小売業からサービス業になると宣言した。そのためには人材の育成が不可欠だ。接客はもちろんイベントや講習会企画など、スタッフが自発的にやりがいを持って仕事が出来る環境づくりが重要だ。法人会で培った経験をそのために活かすのだ。

「100店舗程度を目指しますが、それ以上の規模の拡大や価格競争はやめます。もっと手芸の楽しさを提供していきます」。今年6月までの任期が終わったら、法人会青年部会を卒業して本業に専念する。

小野 兼資 | おの けんじ

1962年 高松市生まれ
1986年 明治大学経営学部卒業
1989年 小野(株)入社
2004年 代表取締役就任

《法人会青年部での経歴》
1996年 高松法人会 青年部会入会
1999年 高松法人会 青年部会 常任幹事
2007年 高松法人会 青年部会 部会長
    香川県法人会 青年部会 会長
2009年 四国法人会 青年部会 会長
2010年 全国法人会 青年部会 副会長
2011年 全国法人会 青年部会 会務担当 副会長
写真
小野 兼資 | おの けんじ

公益財団法人会総連合青年部会連絡協議会

所在地
東京都新宿区坂町13-4
TEL:03-3357-6681
FAX:03-3357-6682
確認日
2018.01.04

小野株式会社

所在地
高松市塩屋町14-5
TEL:087-851-2797
FAX:087-851-2797
創業
1911年
設立
1969年8月
資本金
3800万円
代表者
小野兼資
従業員数
770名(グループの正社員120名・パート650名)
売上高
55億円(2012年7月期、グループ計)
事業内容
大型手芸専門店「ドリーム」の関東・関西・中四国地区へのチェーン展開。
生地、手芸用品、毛糸、ミシン、ビーズ、手芸関連書籍等の販売。
URL
http://www.dream-ono.co.jp
確認日
2018.01.04

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