食は命の源 安全安心を守りたい

公益社団法人香川県食品衛生協会 会長 徳永孝明さん

Interview

2019.08.01

料亭 二蝶(高松市百間町)にて

料亭 二蝶(高松市百間町)にて

安心安全を「見える化」する

私たちが口にする食品が原因で、健康被害が発生するのを防止するため、1948年に施行された「食品衛生法」。その法律の趣旨に沿って自主的な衛生管理を徹底するため、行政と食品関係事業者が連携して「日本食品衛生協会」が設立され、全国にその支部がつくられた。
 
香川県食品協会(現・香川県食品衛生協会)が設立されたのは56年。徳永孝明さんは今年5月、7代目会長に就任した。高松の名料亭「二蝶」の会長でもある徳永さんは、「会長職は大変だと思いましたが、長年“食”にまつわる仕事をしてきた身として、これは運命かもしれない」と思い、引き受けた。香川での協会会員数は約8000で、最近は減少傾向にある。
組織の長として会員増加につながるよう、いろいろな人の力を借りながら手を打っていきたいという。
五つ星事業のチェック項目

五つ星事業のチェック項目

協会が今、力を入れているのが「食の安心・安全五つ星事業」だ。従業員の健康診断の受診を徹底する、食品衛生管理記録を毎日つける、食品衛生の講習会を受講する、食中毒事故が発生した時に迅速に対応できる保険に加入、年2回以上害虫駆除を行う、という5つの項目を設け、達成している店舗には認定プレートに星のシールを貼付し、店舗内に掲示してもらう。「飲食店や食品製造メーカー、旅館など、食品を提供する事業者が衛生管理を徹底するなんて、当たり前のことだと思うでしょう?でも、あえて当たり前をお客様に“見える化”することで、事業者も改めて自覚できるし、お客様がお店を選ぶ基準にもなると思うんです」

この事業以外にも事業者向けの講習会を開催するほか、消費者の意識を高めるため、食品製造の現場を実際に見てもらう「食品衛生教室」も実施。徳永さんも教室に参加し、啓発に努めている。

「喜んでもらえる」ことが生きがいに

人との縁を大切にしたい

人との縁を大切にしたい

46年に旅館として創業した「二蝶」を継いだのは27歳の時。「当時は経営が厳しい時代で、とにかく必死でした」。新たな料理長を迎え、仲居さんたちも入れ替え、料理旅館から料亭へ業態変更した。「反発もあったかもしれません。今思えば、数字を追いかけるばかりで、余裕がありませんでした」

しかし、ある勉強会の教えで「苦難は幸福につながる」という言葉が価値観を変えた。「苦しい時は頭を引っ込めて流れが変わるのを待つだけだと思っていました。でも、苦難から逃げずに対応することで人間として成長する。心が変わると行動も、出会いも変わると教えられました」

数字がすべてではない。料理を心から嬉しそうに食べるお客さんの顔を見るうち、「人に喜んでもらうことが仕事のやりがい、自分の喜びになるんだと思うようになりました」。やがて、高度成長時代ということもあり、経営も軌道にのり始めた。また、「卓球が縁で知り合った妻の存在も大きかった」という。大女将は、65年の世界卓球選手権大会女子シングルスで優勝した経歴をもつ。「世界を制した」人の貴重な経験を聞きたいというお客さんも多かった。

「人との出会いも物も、自分に必要な時に必要なものが与えられる『要物必与』という言葉を大事にしています。いろいろな人に出会うことで、人として何が大事かを教えてもらい、変わることができた。人との縁は大事にしたいですね」

食の衛生管理もグローバル化

HACCP型五つ星プレート

HACCP型五つ星プレート

2020東京オリンピック・パラリンピックも見据えて、食品衛生法の一部が改正され、すべての食品事業者に、衛生管理の国際的な基準「HACCP(ハサップ)」に沿った衛生管理が義務化された。HACCPとは、食品の安全性をさらに向上させるため、原材料の入荷から調理・加工、出荷にいたるすべての工程で、食中毒や異物混入などの危害発生要因を把握し、それらを除去、低減するためには何が重要なのかを認識した上で各工程・作業を管理し、その結果を記録する手法のこと。世界各国でこの手法が採用されており、日本ではHACCPを基礎とした食品管理の方法もあったが、法律で義務化されたのは初めて。

「香川でもインバウンドが増えている中で、食を取り巻く環境の変化に合わせて、私たちもグローバル化していかないといけない。協会の役割も大きいと思います」。まずは「五つ星事業」で衛生管理の基本をしっかり再認識し、現状を“見える化”する意識を高めながら、改正法の施行に備えたいという。また、HACCPの考え方自体がまだ広く知られていないため、行政と協力しながら事業者や消費者に向けて理解を深めてもらう取り組みも進める予定だ。

自身も、食べることが好きだという。食は文化であり、コミュニケーションの手段にもなり、人々の気持ちを豊かにする。それらはすべて、ベースに「食の安全」があってこそ。「食は人間にとって命の源です。それを肝に銘じて、お客さんに喜んでもらえるよう、食に向き合っていきたいと思います」

石川恭子

徳永 孝明 | とくなが たかあき

略歴
1942年 高松市生まれ
 61年 香川県立高松高校 卒業
 65年 慶應義塾大学法学部 卒業
    伊藤忠自動車 入社
 69年 伊藤忠自動車 退社
    二蝶 入社
 79年 代表取締役社長
2009年 取締役会長
2019年 香川県食品衛生協会会長

公益社団法人 香川県食品衛生協会

住所
香川県高松市番町4-1-10香川県生活衛生課内
代表電話番号
087-831-1388
設立
1956年
事業内容
食品衛生の普及啓発、食品衛生責任者に関する講習会、食品衛生指導員による各種活動、食品衛生に関する情報収集・提供など
確認日
2019.08.01

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