大胆に、慎重に「ていねいな生活」を売る!

小野 代表取締役 小野 兼資さん

Interview

2009.02.05

「口先だけで誰がついてくるか、人の2倍も3倍も働け」・・・・・・。100年近いのれんを継ぐ根性を父に仕込まれた。無借金経営で42店舗の手芸センター「ドリーム」を展開している小野(株) 社長の小野 兼資さんは、首都圏と関西圏に店を増やして75店舗体制にする計画だ。
数万点の品ぞろえがいる大型手芸店は専門性が高いので大手の参入が少ない。集客力が注目されて、主婦層を取り込みたい商業施設から出店要請が毎日のように来る。
「ニーズに応えられるかどうか、現場のやる気にかかっています」。大量消費から循環型社会へ。ハンドメードが見直されてきた。トレンドはエコロジーだ。天然素材を扱う事業も展開し始めた。
大胆に、慎重に・・・。小野さんは、現場に権限をもたせて事業をさらに拡大中だ。

1年で10店舗を出店

去年は異常だった。11月だけで3店舗、1年間に10店舗を出店した。「全部ショッピングセンターの中に出しました。視察に来た他の商業施設から引き合いが毎日のように来ます」
小売業は現金商売で貸し倒れはない。無借金経営を可能にする理由のひとつだ。「店舗数が増えると社員の意欲も上がります。仕入れコストも下がりオリジナル製品も開発できます」

小野さんは大胆で慎重だ。利益×店舗数だが、売れなければ負債×店舗数で、倒産のリスクも増えると肝に銘じている。「ドリーム」のモットーは堅実経営だ。
大胆な店舗拡大を弟の修一さんが支える。「細かいところにも目配りして、スタッフや店舗のフォローをしてくれます」

何でわかってくれないのか

今年度は新入社員を30人採用した。能力しだいで勤務年数にかかわらず、店の運営や商品戦略、販売企画などを任せる。
2003年に、関西1号店を堺市の商業施設に出店、入社3年目の女子社員を店長にした。「商売の厳しい関西です。ベテランより先入観のない人が良いと思いました」。経験より若さが勝ってよく売れた。

小売業は、日曜祝日が出勤日で、一日中の立ち仕事は辛い。「いくら商業施設から出店要請があっても、すべては現場で働く従業員の意欲にかかっています」
従業員の物心両面の幸せと共に会社は発展する。それをどう実現するか。しんどさを突き抜けたら仕事は面白くなる。苦労と自己成長の意味をどう伝えるか。「もう少し我慢をしてくれたら待遇を良くできるのに。『社長が頑張るのは自分のもうけになるから』と反発もありました」。何でわかってくれないのか。溜息をつくこともたびたびあった。

田んぼの真ん中に

1989年4月、手芸用品問屋の家業を継いだ。「小売屋さんは大きくなると、ユニクロさんのように自分自身がメーカーにもなります。小売りとメーカーの真ん中の問屋は先細りする一方です」。地方の問屋では先がないと見切りをつけていた。
同年9月、地元の小売店に遠慮して、誰も知らない岡山で、田んぼの真ん中に手芸センタードリームを立ち上げた。大きな投資だったが自己資金で賄った。「店舗は120坪で、駐車場付きの敷地300坪の郊外型です」

20年前、商業地は街中が中心で、わざわざ郊外の手芸店まで女性客は来ないと言われた。危機感がバネになった。「品ぞろえが少ない商店街の店では、カタログでしか商品を見られません。郊外でも品ぞろえが多いと、生地の色や毛糸の触り心地を現物で確認できます」
低価格。広い店舗と駐車場。年中無休。車で買い物をし始めた主婦層のニーズをつかんだ。

手芸店で起きるすべてを経験

「僕と社員が1人、あとは岡山で採用したパートさんです。盆、正月以外は年中無休で、朝7時から夜10時まで働きました」。掃除、仕入れ、チラシつくり。レジを打って、反物の生地を切って、クレーム処理をした。それをしながら半年後に、2号店を倉敷の水島にオープンした。
「不良品のクレームで、夜中にお客さんの家まで謝りに行ったり、土下座しろと怒られたり、手芸店で起きるすべてのことを経験しました。死んでも高松に帰れんという意気込みでした」。このときの経験が店舗展開の大きな力になった。

ニッチ多品種販売

手芸店は多品種の品ぞろえが大切だ。「セーターを編んでいて、袖の部分の毛糸が足りなくなったらどうなりますか。店にない毛糸を、たとえ一玉でも取り寄せてあげたら、お客さんは喜んでくれて、次は新しいお客さんも連れてきてくれます。一玉の毛糸が2倍3倍の売り上げになって返ってきます」。小野さんは商売のコツをお客さんの喜ぶ顔から教わった。

お客のニーズに応えて仕入れる。品ぞろえが多いから遠くからでも来てくれる。だからまた品を増やして数万点の在庫になる。経費は増えるが、ニッチ商品が大きな売り上げにつながる。
「お客さんの喜びを知っている現場に店舗を任せます。でも僕はすべてを熟知していますから、手抜きや甘えは通用しません」。小野さんが現場第一主義を貫く理由だ。現場力が「ドリーム」の強さだ。

ていねいな生活

高くても安心安全のクオリティーを買う。リサイクルやリユースがおしゃれになる。ロハスビジネスが注目され始めた。
「ドリーム」のキャッチフレーズは「ていねいな生活」だ。忙しく時間に追われる毎日を送る人たちに、ほんの少し心がホッとする生活を提案する新ブランド「ヌウハンドワークス」を立ち上げた。 
独自企画したオーガニックコットンのレースや100%麻素材の布など、価格は従来品より5〜10倍高い商品を扱う。去年9月から専用サイトでネット通販している。パイロット店も東京の自由が丘に出した。流行に敏感な客層の反応を見て、ドリーム店でも扱う。
「田舎で評価された品ぞろえやサービスが、関東や関西でも認められるために、頭をたたかれながら変わっていくでしょう」・・・・・・。大胆に慎重に、そして謙虚に。小野さんは顧客の喜ぶ顔に背中を押されて事業を拡大する。

※(ロハス)
健康と持続可能性を重視するライフスタイル。Lifestyles of Health And Sustainabilityの略。

小野 兼資さんは4代目の社長だ。会社の創業は1911年。のし贈答用品屋を営んでいたが、1951年ごろ、祖父の代に手芸品問屋を始めた。
男3人兄弟のやんちゃな次男で、祖母から商売に向いていると言われ家業を継ごうと思って育った。店の3階と4階に住んで、両親は食事の時も仕事の話ばかりで、幼いころの遊び場所は店の中だった。サラリーマンのような休暇や旅行はまったくない生活だったが、それが当たり前だと思っていた。
「70歳を超えた今も、朝から晩まで仕事をしている両親に絶対に勝てません。『本部に座って指示をするより、店に行け。現場を見て自分が動け。口だけで誰がついてくるか、人の2倍も3倍も働け』と昔の商売人の教えを叩き込まれました」
父の耕一さんが冠婚葬祭や資金のやりくりなど社長業をしてくれるので、小野さんは次々と開店する現場に、10日間も張りついて仕事が出来るという。

小野 兼資 | おの けんじ

1962年 高松市生まれ
1986年 明治大学経営学部卒業
1989年 小野(株)入社
2004年 代表取締役就任

《法人会青年部での経歴》
1996年 高松法人会 青年部会入会
1999年 高松法人会 青年部会 常任幹事
2007年 高松法人会 青年部会 部会長
    香川県法人会 青年部会 会長
2009年 四国法人会 青年部会 会長
2010年 全国法人会 青年部会 副会長
2011年 全国法人会 青年部会 会務担当 副会長
写真
小野 兼資 | おの けんじ

小野株式会社

所在地
高松市塩屋町14-5
TEL:087-851-2797
FAX:087-851-2797
創業
1911年
設立
1969年8月
資本金
3800万円
代表者
小野兼資
従業員数
770名(グループの正社員120名・パート650名)
売上高
55億円(2012年7月期、グループ計)
事業内容
大型手芸専門店「ドリーム」の関東・関西・中四国地区へのチェーン展開。
生地、手芸用品、毛糸、ミシン、ビーズ、手芸関連書籍等の販売。
URL
http://www.dream-ono.co.jp
確認日
2018.01.04

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