
「ロープとLEDを融合させた、私たちを象徴するような商品だと思います」
同じ舞台だけで戦い続けていても成長は無い。一昨年7月に社長になった3代目の高木敏光さん(35)が目指すのは「今までに無かった商品を一つでも多く世の中に出していく」
祖父と父の姿を見て育った若き経営者の挑戦は始まったばかりだ。
2つの顔で新商品を開発

20年前の阪神淡路大震災をきっかけに開発した簡易式ヘリポートシステム「ボイジャー」だ。災害対策に熱心な自治体などからの引き合いが多く、東日本大震災でも使われた。「発光体はLEDで省電力化を可能にしました。携帯用バッテリーや車のバッテリーでも点灯できます」
高木綱業は昨年、創業60周年を迎えた老舗の繊維ロープメーカーだ。工場には直径1ミリから10センチを超えるものまで数百種類のロープが所狭しと並ぶ。しかしこの会社には、電子機器メーカーというもう一つの顔もある。
「ロープ事業と電子機器事業の割合は半々くらい。2本柱でやっています。それぞれ全く別の物ではなく、電子機器もロープのように軽くて扱いやすく外部環境にも強い。すべてロープ作りから生まれたものだというのが根底にあります」
ロープが関係していない商品もある。「渋滞緩和用ペースメーカー」は、高速道路のトンネルの入口や上り坂など、車のスピードが落ちて自然渋滞が起こりやすい場所にピンポイントに設置するシステムだ。
道路の両サイド数キロに渡って等間隔にLED発光体を取り付け、光が流れていくように順番に点灯させる。「車は光に合わせてスピードを落とさずに走ります。動く光につられる人間の習性に注目しました」。現在、東北自動車道や東京湾アクアラインなどに導入されていて、10キロ程度渋滞が解消されたという報告もある。「トラフィックカウンター(交通流計測システム)との連動や点灯させる光のスピードの遠隔制御など、このシステムをさらに発展させたやり方にも取り組んでいます」
新たなフィールドへ挑む

ロープ製造技術とLED技術を組み合わせた船舶用イルミネーション「スワンライト」=高木網業提供
青色の登場でLEDに赤、緑、青の光の三原色がそろい、あらゆる色が出せるようになった。「青色LEDの普及は非常にありがたいです。いろんな環境に対応できるようになりました」。例えば、魚が光に集まる性質を利用した集魚灯という釣り具がある。中でもイカは、青色の波長の光にだけ反応するという特性を持つ。青色LEDを用いて無駄な光を省いた「イカ釣り集魚灯」をすでに製品化している。
今回、ノーベル賞で話題になったことで、LED技術がさらにレベルアップするのではと高木さんは大きな期待を寄せている。「これまでかなり気を遣ってきたものの一つが放熱対策です。LEDの発光効率が上がれば電力のロスが減る。ロスした分は全て熱になっていたので、放熱するのに必要な機器をサイズダウンすることができます」
高木綱業の創業以来の主力商品は、船を港に係留するロープや水産養殖用のロープなどだ。繊維ロープは、チェーンやワイヤーといった金属系のロープに比べて柔らかく軽いうえ、破損した時の安全性など扱いやすいのが最大の特長だ。近年では、強度が高い、燃えにくい、静電気が発生しづらいなど高機能な繊維を用いた最先端のロープを次々と開発し他社をリードしてきた。
造船業の成長に合わせて業績は順調に伸びた。しかし、高度成長期が過ぎると船舶や漁業を取り巻く状況は大きく変わった。船の建造量は減り、船舶用品市場は縮小傾向にある。
「今使われている繊維ロープのフィールドだけで戦っていても、他のメーカーとの潰し合いになるだけで成長は見込めません」
LEDを組み合わせたイルミネーションや簡易ヘリポートなど視点を変えたロープ製品に加え、そこから派生したLED商品。これまでに無かった製品を作り出し、新たな市場を開拓し育てていく。高木さんが掲げる目標だ。
「面白そう」に反応する力
現在、海上の大規模施設には巨大で頑丈な金属チェーンが使われている。金属に匹敵する強度を持った繊維ロープに置き換えることができれば、コストやメンテナンスの手間を飛躍的に改善できる。高木さんはそうにらみ、耐久性を向上させた高機能ロープの研究開発を進めている。「まだ実用化までは行っていませんが、これまで使われていなかったところで使える繊維ロープができれば、ロープ業界の新しいマーケットを生み出すことにもつながるのではと思っています」
工事現場でよく見かける黒と黄色の標識ロープ。30年ほど前、夜間にも注意を促そうと赤い照明器具を組み合わせて点滅させた。父・満津雄さんのアイデアが画期的な商品を生み出した。「これが電子機器事業の元祖です。父はこの事業に特別熱心で、気がつけば新しい専門の部署ができていました」
父は、やると決めたらやり抜く強靭な意志と探求心の持ち主だった。祖父・豊さんは、行動力があり常に挑戦し続けていたという。3代目の高木さんは、今後目指していく経営者像についてこう語る。
「まだスタートラインに立ったばかり。社員と一緒に成長し、しっかり意思統一ができる組織にしていきたいと思っています。経営者の一番の役目は新しい仕事を作り出すこと。何事にも好奇心を持ち、少しでも『面白そう』と感じたらすぐ飛びつける瞬発力や決断力を磨いていきたいですね」
◆写真撮影 原田 一成
髙木 敏光 | たかぎ としみつ
- 1979年10月25日 高松市生まれ
2003年 慶應義塾大学経済学部 卒業
2006年 東京理科大学電気工学科 卒業
株式会社船井総合研究所 入社
2011年 高木綱業株式会社 入社
2013年 代表取締役社長
- 写真
髙木綱業株式会社
- 住所
- 高松市林町278−1
TEL:087-867-2701
FAX:087-865-9903 - 設立
- 1954年4月
- 資本金
- 2000万円
- 事業内容
- 各種繊維ロープ製造、各種電子機器製造 他
- 事業所
- 高松本社、東京、福岡
- 工場
- 本社工場、さぬき工場、協力工場
- 従業員
- 100名
- 確認日
- 2018.01.04
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