日本初、小麦の代替穀物を販売 ホワイトソルガムは安心の食材

中野産業 社長 中野 宏一さん

Interview

2013.02.07

1999年、米国でムギ、コメ、トウモロコシに続く「第4の穀物」といわれるホワイトソルガムに出合った。94年に先代が急逝(きゅうせい)し、米穀卸売や製粉事業と倉庫事業を継承した中野産業5代目社長の中野宏一さん(58)は日本で初めてホワイトソルガムを焼酎や菓子の原料として国内に持ち込んだ。

しかし、ほとんどのメーカーや流通業者は、興味は示したものの取り合わず、なじみのない新しい穀物を売る難しさを思い知らされた。2002年12月27日付の毎日新聞の家庭欄で「食物繊維がたっぷり、米、小麦アレルギーの人に安心」と紹介された。

アレルギー症に悩む人たちの問い合わせが全国から殺到した。食物アレルギー対応食品を開発、製造販売へ乗りだした。

イネ科、熱帯アフリカ原産

▲小麦アレルギーなどに対応できるホワイトソルガム

▲小麦アレルギーなどに対応できるホワイトソルガム

熱帯アフリカ原産のイネ科モロコシ属のソルガムは、日本ではタカキビ、中国ではコーリャンと呼ばれる雑穀。米国で品種改良され食用としてホワイトソルガムが開発された。

当時、米国産トウモロコシを原料とする食品を製造販売していた関係から、アメリカ穀物協会からホワイトソルガムセミナーに招かれた。

最初はベンチャーで挑戦

小麦製粉や、ビール原料用のトウモロコシの角質胚乳部(かくしつはいにゅうぶ)を顆粒にしたコーングリッツを製造販売していたので、穀類の二次加工には自信があった。

「どこにもない新しい食材原料だから面白い。ベンチャーでやってみよう」と思った。まず、皮を剥(む)いてみた。中国にコーリャンで作る紹興酒「白酒(パイチュウ)」がある。焼酎メーカーに持ち込んだが、麦焼酎が伸びていた頃で、このメーカーはあまり興味を示さなかった。

01年、粉砕ラインを併設したホワイトソルガム専用の工場を作り、粒や粉、顆粒の製造を始めた。

パンにして商品化しようと考えた。親しい製パン業者が協力してくれたが、ふくれないしパサパサで、1年以上かけてもおいしいパンは出来なかった。

一部の大手メーカー開発者の興味を引いて、少しずつ新しい商品が開発された。ビールメーカーの発泡酒の原料素材として仕込み試験に成功、メジャー商品として製造目前までいったが、米国からの原料調達がうまくいかず“幻のビール”に終わった。

大手スナック菓子メーカーは新素材の商品として開発、販売した。てんぷら粉のメーカーは、食感改良材として使った。ホワイトソルガムは植物繊維が小麦の2倍ほどで、グルテンを含まない。つなぎを加えない蕎麦(そば)のような食感だから、調理するのが難しい。

販路が広がらなくて困っていたら、毎日新聞で紹介された。

全国から問い合わせ殺到

「この粉で生まれて初めて美味しいクッキーを子供に食べさせてやれます……うれしい……ありがとう」。500件を超える問い合わせや注文が、全国から手紙、ファクス、メールで届いた。今まで小売りをしたことがなかったからまごついた。ホワイトソルガム粉、粒を小袋詰めにして、インターネットで販売した。

「どんな使い方をするのですか」「何を作りたいですか」

妻で企画開発担当専務の恵子さんは、買ってくれた人に一人ひとり電話して尋ねた。アレルギー症に悩む人たちの声から、レシピが工夫され、商品が開発された。

幸せのマカロニ

▲幸せのマカロニ「フェリーチェ」(右)

▲幸せのマカロニ「フェリーチェ」(右)

要望が多かった商品は「小麦なしのマカロニ」だった。小学校や幼稚園の給食でよく出るマカロニサラダやマカロニケチャップ和えなどが、食物アレルギーを持つ子には食べられない。

「みんなと同じように、マカロニを食べさせたくて、小さな製麺機まで買ったけどうまくいかなかった」というお母さんもいた。試行錯誤を重ね最初に商品化したのが、ホワイトソルガムと水だけで作ったマカロニタイプ「フェリーチェ」だった。

マカロニが出来たことを伝えたら「穴が空いていますか?」と聞かれた。「空いていますよ、と答えたら、うれしい、と涙声で喜んでくれました」

マカロニの商品名「フェリーチェ」はイタリア語で「幸せ」という意味だ。

子供たちのために・・・・・・

ある主婦は、今日の幼稚園の給食にバームクーヘンが出るが、食物アレルギーの子供が食べられないから、ミルクも卵も使わずにホワイトソルガム粉と水だけで、夜中までかかってバームクーヘンを焼いて、持たせた、と言った。

「子供のためのすごい工夫です。何枚も何枚も薄い生地を焼いて、アルミホイルの芯に重ねて巻いて作ったバームクーヘンです」

調理が難しいホワイトソルガムは、アレルギーの子を持つ母親たちの助言をもとに、小麦粉や卵、乳製品を加えずに水で溶いて焼くだけでオーケーの製菓材料「お菓子ミックス粉」が生まれた。

「お菓子ミックス粉」に続いて開発した、砂糖と食塩ゼロの「まるちミックス粉」は、子供のアレルギーから食と環境を考える、さいたま市のNPO「みれっと」代表理事の久間佳代子さんの提案だった。

愛媛大と共同研究し特許

▲母親らのアドバイスで生まれた「お菓子ミックス粉」と「まるちミックス粉」。その粉で焼いたお菓子(右)

▲母親らのアドバイスで生まれた「お菓子ミックス粉」と「まるちミックス粉」。その粉で焼いたお菓子(右)

「ミルクも卵も加えず、お菓子をつくれるのはありがたいが、砂糖を入れない粉が出来ないでしょうか。主食用に使えるものがあればもっとありがたい」と言われて、甘みがない食材なら調理の幅が広がると気付いた。

ピザやホットサンド、お好み焼き、てんぷらだけでなく甘さ控えめのお菓子にまで、小麦粉のように多用途に利用できるようになった。

食物アレルギーの子供を持つ母親と一緒に開発したこの2種類の「ミックス粉」はインターネットや電話、ファクスでも注文を受け付けているが、全国の「生協」はじめ、「赤ちゃん本舗」全店で販売されている。

06年、愛媛大学との共同研究で、ホワイトソルガムにアレルギー抑制効果などがあることが分かり、出願していた食品や医薬品などへの用途特許が昨年12月認可された。

幼児の食物アレルギーは10年間で倍になった(10年4月22日、東京都福祉保健局発表)。日本で最初に製造を始めて12年、ホワイトソルガムは確かな軌道に乗った。

中野 宏一 | なかの こういち

1954年 観音寺市生まれ
1977年 甲南大学経営学部 卒業
1978年 スイスヘ留学、製粉機械メーカーで製粉技術を学ぶ
1979年 スイスから帰国、中野産業入社
1994年 中野産業代表取締役社長
写真
中野 宏一 | なかの こういち

中野産業株式会社

所在地
高松市朝日新町33番25号
TEL:087-816-7188
FAX:087-816-7178
創業
1877年
設立
2007年
資本金
1000万円
代表者
中野宏一
工場
高松市朝日新町33番25号
倉庫
高松第1倉庫 高松市朝日新町33番16号
高松第2倉庫 高松市朝日新町33番25号
観音寺倉庫 観音寺市観音寺町字加茂甲4066番地2
事業内容
倉庫事業、ホワイトソルガム事業
沿革
1877年 個人商店として観音寺市に創業、米穀業を営み、国内各地や台湾、朝鮮半島へ米麦、乾めん、雑穀などを販売
1940年 西条市に製粉、精麦、製麺工場を設立し、農林省(当時)指定工場として小麦粉、押麦、乾めんを製造する
1949年 中野精麦製粉株式会社として事業を統合
1960年 中野産業株式会社に社名変更
1966年 コーングリッツの生産開始
2001年 ホワイトソルガムの製造販売を開始
2003年 ホワイトソルガムによる食物アレルギー二次加工製品の製造販売開始
2007年 組織を新たに変更。高松市に集約、移転
確認日
2018.01.04

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