「紙」と向き合い140余年 四国に深く根を張り、海外も視野に

高津紙器 社長 高津 俊一郎 さん

Interview

2024.09.05

愛媛県四国中央市川之江町の高津紙器本社工場

愛媛県四国中央市川之江町の高津紙器本社工場

謙虚に真面目にコツコツと

プラスチックフィルムなどを巻きつける紙管、紙製のパッケージ、紙トレーなど様々な紙加工品を製造する高津紙器は、1882(明治15)年創業。紙のまち・愛媛県四国中央市でも指折りの老舗企業だ。「先人は、戦争、火災、事故、不渡り……様々な経験をしてきました。それでも謙虚に真面目にコツコツとやってきた。長く続けてこられたのは、それに尽きるのではないでしょうか」。6年前に社長に就いた5代目社長、高津俊一郎さん(46)はこう話す。
大手航空会社に採用されている機内用弁当箱

大手航空会社に採用されている機内用弁当箱

とは言え、100年以上の歴史を刻んできた理由は他にもある。「時代の変化に柔軟に対応してきました」。高津さんの高祖母(祖母の祖母)カメさんが創業した当時は、女性の髪を結うために使う元結(もっとい)を巻くための紙管をつくっていた。その後、トイレットペーパーの芯、フィルムの芯、帽子を入れる箱、冷凍食品を入れる紙トレーなどを製造。つくるものは変化したが、「ずっとやってきたのは、厚さのある硬めの紙『板紙(いたがみ)』の加工です。『板紙専門』という“芯”は決してぶれていないんです」。高津さんは強調する。

現在、四国を中心に関東まで、食品メーカーや衛生品メーカーなどに向けた数千種類の紙製品をつくっているが、中でも力を入れているのが、航空機で出される弁当箱だ。耐熱、耐水、耐油などこれまで培ってきた技術力を生かし、航空機内での特殊な温め方に対応できる弁当箱の開発に成功。大手航空会社と契約を結び、順調に売上を伸ばしている。

大手企業との直接取引

弁当箱の大手航空会社との取引は、問屋などを介していない。

「『ユーザーに近い会社様と取引をする。できる限り下請けをしない』のが我が社の企業姿勢です」

直接取引することで、お客さんから生の要望や意見を聞くことができ、商品の提案や改良などがスムーズになり、市場の動向もいち早く分かる。「良いお客様と、丁寧で永い“良い”お付き合いがしたいんです」。高津さんは専務時代の2017年、資本金を4000万円から3億10万円に増資した。「大手企業様に信頼して頂き、直接取引をするためです」。税理士には「増資したら税金などが年間で数百万円増える」と釘を刺された。だが、それでも増資に踏み切った。「『大手と直取引をする』という意志を社内外に示しました。社員のモチベーションアップにも繋がっていると感じています」。現在、高津紙器の取引先リストには、錚々たる大手優良企業の名がずらりと並ぶ。

もう一つ、貫いている姿勢がある。決して手形を切らない「現金仕入れ」だ。「製造し納品するより先にお金が出ていくので、つらいのですが……」。それでも譲らないのは「仕入れ先を大切にする」という精神。約70年もの間、社長として会社を率いた先代の祖父・俊太郎さんの教えがそこにはある。

200年、300年を目指して

祖父は厳しい人だった。

「何をするにも会社のことを第一に考える人でした。『新しい機械を買いたい』『こんなことをやりたい』……何を提案しても全て『ダメだ』。いくら私が良いと思っていても、会社のためにはなっていなかったんでしょうね」
箱を製造している自宅兼工場で=昭和30年頃 創業者の高津カメさん(中列左から2人目)、 2代目社長の高津茂幸さん(後列)と親戚社員たち

箱を製造している自宅兼工場で=昭和30年頃
創業者の高津カメさん(中列左から2人目)、
2代目社長の高津茂幸さん(後列)と親戚社員たち

高津さんの社長就任に合わせて、祖父は会長に。しかし一昨年、94歳で亡くなった。「子どもって、怖いことがあると父親を見るじゃないですか。でも父親が怖がっていないと恐怖心は消えますよね。私にとって、祖父はそんな存在でした」。若くして社長になった高津さんにとって、祖父は陰で支えてくれる心強い味方だった。今、心に決めていることがある。「社長の私が怖がっていたら、社員みんなが怖がってしまう。何があっても『大丈夫』と言えるような“動じない社長”でありたいと思っています」

仏壇に手を合わせ、会社であった良いこと、悪いことをいつも祖父に報告する。「おじいちゃん聞いてよ、こんな会社にうちの製品が採用されたよって。クレームが出ないよう頑張るからねって。仏壇に製品を置くこともあります。いつの日か『お前を跡取りにして良かった』と思ってもらいたいですね」
「高津紙器で働いて良かった」と思ってもらえるような会社に

「高津紙器で働いて良かった」と思ってもらえるような会社に

近年、「脱プラスチック」が進み、紙が見直されている。高津さんは追い風を感じつつも、決して楽観視はしていない。「プラスチックは、安くて強くて大量生産できて好きな形に加工できる。最高に良い素材です。紙とプラスチックそれぞれの良いところを生かせば、共存共栄できると考えています」

20年に新工場を開設し、翌年には旧工場をリニューアルした。脱プラの流れを受け、食品用紙容器の需要の高まりに応えられるよう、食品工場レベルの衛生管理を目指している。「食品に使われるためにはクリーンさが必要です。紙の業界は、まだ遅れているのではないでしょうか」

今年で143年目。さらに200年、300年と続く企業にしていきたいと語る。「目標は『四国に深く根を張って、世界にも羽ばたく』こと。そして社員には『高津紙器で働いて良かった』と思ってもらえるような会社にしていきたいですね」

篠原 正樹

高津 俊一郎| こうず しゅんいちろう

略歴
1978年 愛媛県四国中央市出身
1997年 愛媛県立新居浜西高校 卒業
2001年 学習院大学理学部 卒業
     株式会社日立製作所 入社
2004年 高津紙器株式会社 入社
2018年 代表取締役社長

高津紙器株式会社

住所
愛媛県四国中央市川之江町3691番地
代表電話番号
0896-56-2423
設立
1882(明治15)年
社員数
72人
事業内容
紙加工
営業品目:紙管、紙箱、紙トレー、美粧ダンボール等の紙加工品
工場等
本社工場(愛媛県)、豊中物流センター(香川県)
福島工場(福島県)、東京営業所
地図
URL
https://www.kozushiki.co.jp/
確認日
2024.09.05

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