水と共に 第二の創業へ

フソウ 社長 上床 隆明さん

Interview

2016.11.17

フソウの社員らと=高松市郷東町

フソウの社員らと=高松市郷東町

「水と共に生きる」。フソウの上床隆明社長(66)がずっと掲げてきた精神だ。

1946年に丸亀市で創業したフソウは、上下水道施設の設計・施工・メンテナンス、水道管やバルブの販売、水処理研究など、水に関するあらゆる分野を手掛ける「水の綜合企業」だ。飲み水だけに留まらず生活用水から工業用水まで、香川県内の「水」の7割はフソウの手によるもので、北海道から沖縄まで全国32カ所に支店や営業所を構えている。

「水は暮らしや産業に絶対に必要で、これからもまだまだ伸びていく大切な資源です」

今年8月に創業70周年を迎えた。第二の創業ととらえ、海外市場も視野に社名を扶桑建設工業からフソウに変えた。本社は東京に置くが、発祥の地・香川に愛される企業になりたいと高松市郷東町に新社屋も作った。

次の目標は100年だ。上床さんは暮らしを支える百年企業を目指し、水と共に、地元と共に歩んでいく。

暮らしを変える仕事

「水に関して言えば日本で一番だという自信があります。70年間、水道一本でやっている会社はまずありません」

上水、中水、下水に、資材から研究開発まで、水に徹底的にこだわったことが長年会社を続けてこられた一番の要因だと上床さんは話す。「井戸も掘れば、川から水も引く。私たちはいわば『水のゼネコン』です」

会社の土台を築いたのは、香川を中心に全国各地で行ってきた上下水道の整備だ。入社以来、営業畑を歩んでいた上床さんの仕事場は、専ら「水のないところ」だった。「水がないということは、ものすごい田舎だということです。当時はモータリゼーションの時代。都会の若者はスポーツカーを乗り回して青春を謳歌していた。そんな暮らしからは程遠かったですね」

田舎の現場は本当につらかったんですよと、懐かしそうに、うれしそうに上床さんは振り返る。

忘れられない現場がある。入社間もない25歳の時、京都府亀岡市の上水道拡張工事に加わった。「亀岡市の当時の人口は5万人余り。京都市のベッドタウンにして人口10万人を突破させようという計画のもとでの大々的な工事でした」
水道施設工事の様子

水道施設工事の様子

25億円で工事を落札。社運をかけ、全国から社員を総動員して挑んだ一大プロジェクトだった。上床さんはこのうち5億円分の資材部門を担当した。「積み上げた水道管で小学校の校庭に大きな黒山ができました。これを全部地中に埋めなければならない。いつ家に帰れるんだろうと気が遠くなりました」

広大なエリアに配水池や浄水場を作った。寝る間を惜しんで続けた工事は3年に及んだ。「土地を借りることから返すこと、自治体や地域住民への対応・・・・・・水道や現場のイロハを学べた貴重な経験でした」

そして、山積みだった水道管が全て地中に埋まった。蛇口をひねると勢いよく水が流れ出た。「今まで出なかったところから出るんですから、子どもからおじいちゃんおばあちゃんまでが『水道だ、水が出た』と大喜びしてくれました。これほどうれしいことはなかったですね」。設計変更などを繰り返し、最終的には5億円の利益に繋がった。会社が飛躍する大きな一歩になった。

「地域の人たちに本当に感謝され、まちの暮らしを変えているんだと、自分がやっている仕事に自信と誇りが持てました」

屈辱の13連敗も

鹿児島生まれで熊本育ち。日本大学を卒業後、扶桑建設工業(当時)に勤めていた父親に勧められて同じ会社に入った。「万物にとって必要な水の仕事に携われことは本当に良かった。父親にも感謝しています」

東京支店勤務が長かった。仕事の性質上、自治体を相手にすることがほとんどだが、役所の懐に香川の企業が入り込むことは困難を極めた。東京支店長時代、入札で13連敗したこともある。「この時は本当につらかった。責任は全て支店長が被るしかありません。挫折の連続で、もう会社に行きたくないといつも思っていました」。しかし、上床さんはこう続ける。「香川の会社が東京や大阪で仕事を取るというのは、営業力以外の何ものでもありません。営業力とは人間力。知識も必要ですが、あいつに負けたくない、あの会社に負けたくない、そういう強い気持ちがある人間なら絶対に負けないと信じてやっていましたね」

取締役を経て、2012年に社長に就任した。45年前の入社当時と比べると、水の事情は劇的に変わった。水道普及率はほぼ100%になり、水洗トイレが当たり前になった。水をペットボトルで買って飲む時代が来るとは思ってもみなかった。

「これまでと同じことをやっていたのでは社会に通用しない」

その思いから次々と変革に挑んだ。「社名を変えたのは私の決意表明です。みんな大反対でしたが、イメージを一新し、とにかく変わらなければダメだと思いました」

故郷・香川の地で

先月竣工したフソウテクノセンター

先月竣工したフソウテクノセンター

今後の事業の機軸にと、今最も力を入れているのが社会貢献だ。「もちろん社員を養うため、本業の安定や向上は必要です。しかし、それだけを求める時代は終わったと思う。水と共に歩んできた私たちだからこそこれから何をすべきなのか、しっかりと考えていかなければなりません」

個人や企業を対象に水や環境に関する技術開発に研究資金を助成する制度。海岸などを清掃するクリーン活動。災害が起きた時に円滑に水道を復旧する協定は、宮城や鹿児島など全国23の自治体と結んだ。「災害時に真っ先に復旧が叫ばれるのが電気やガスです。目に見えないものなので人は怖く感じるんだと思います。でも、被災された方の中には優先すべきは水だという声も多い。一刻も早く復旧できるよう力になれればと思っています」
先月竣工したフソウテクノセンター先月竣工したフソウテクノセンター
先月、高松市郷東町に「フソウテクノセンター」が完成した。延床面積5000㎡、地上3階建ての巨大な社屋だ。「香川は我が社の文化を育んできた故郷。ずっと大切にしていきたい特別な場所です」

災害などの有事の際、地域住民が逃げ込める「避難ビル」の機能も持たせた。水処理研究所は開放して、地元の小中学校の環境学習に活用してもらう計画だ。「水の歴史や、例えばトイレの水はどこへ流れていってどう処理されるのかなど、いろんなところを見学して学んでほしい。水は石油や石炭と同じ資源の一つで、とても大切なものだと子どもさんたちに知ってもらいたいですね」

蛇口をひねると水が出るのも、毎日お風呂に入れるのも決して当たり前ではない。飲み水だけが水ではなく、暮らしの中の様々な場所で私たちは水に支えられている。上床さんは力を込めて話す。

「水が少ない香川で我が社が生まれたのも不思議な縁を感じます。人間が居続ける限り、水は必要とされる。次代を担う社員たちと共に、これからも水を追究していきたいと思っています」

編集長 篠原 正樹

上床 隆明 | うわとこ たかあき

1949年 鹿児島県生まれ
1972年 日本大学法学部 卒業
    扶桑建設工業(株)入社
1976年 東京支店勤務
1993年 東京支店副支店長
2005年 取締役 東京支店支店長
2012年 代表取締役社長
写真
上床 隆明 | うわとこ たかあき

株式会社 フソウ

住所
東京都中央区日本橋室町2-3-1
代表電話番号
03-6880-2110
所在地
本社
東京都中央区日本橋室町2-3-1
TEL:03-6880-2110
フソウテクノセンター
香川県高松市郷東町792-8
TEL:087-881-0210
資本金
30億円
従業員数
687人
事業内容
上水道、下水道、工業用水道、農業用水道等各種処理施設、パイプライン、屋内給排水等の設計・施工・運転・維持管理
水道用塗覆装鋼管、水管橋、耐震性貯水槽等の設計・製造
上下水道用資材の仕入販売
水処理技術の研究・開発 他
沿革
1946年 丸亀市で創業
1980年 本社を東京へ移転
2015年 株式会社フソウへ社名変更
2016年 高松市郷東町にフソウテクノセンターが完成
地図
URL
http://www.fuso-inc.co.jp
確認日
2023.08.03

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