「オリーブレザー」で 新たな道を切り拓く

エールック 専務 長田 篤樹さん

Interview

2016.04.07

オリーブオイルで仕上げたWOGNAブランドのバッグを持つ長田さん=東かがわ市川東のエールック縫製工場

オリーブオイルで仕上げたWOGNAブランドのバッグを持つ長田さん=東かがわ市川東のエールック縫製工場

東かがわ市の革製品メーカー、エールックの長田篤樹さん(46)が目をつけたのはオリーブだった。縫製用の革をオリーブオイルで加工するという誰もやったことのない手法で新たな素材「オリーブレザー」を開発し、3年前、バッグや小物などの自社ブランド「WOGNA(ヲグナ)」を作った。

「我が社は基本的にOEMでやってきましたが、『エールックが作っている』『香川で作っている』ということをお客さんに知ってもらいたかったんです」

オリーブと革との相性は抜群だった。オリーブオイルがもたらす柔軟性や色艶は評判となり、WOGNAは全国から注文が殺到する人気商品に育ちつつある。

約80年前、長田さんの祖父が手袋専門の工場として立ち上げたエールックは、時代と共に姿を変えた。家業の浮き沈みを間近で見てきた長田さんは自社ブランド製造で新たな道を切り拓き、革製品の魅力を地元香川から発信していく。

想像以上だったオリーブ効果

ハレの日に持ってもらえる こんなに素晴らしいことはない

ハレの日に持ってもらえる
こんなに素晴らしいことはない

「オリーブオイルを使ったのは単なるひらめきでした」と長田さんは振り返る。だが、「地元の全く違った分野の方と一緒に何かをやりたかった。1 1が2じゃなく、3にも4にもなるようなことを探していたんです」

革製品の原料となる動物の皮は、そのまま使うとすぐに腐ったり硬くなったりするため、油分を補給して柔軟性を持たせる「なめし」と呼ばれる工程が必要だ。なめしには動物性の油を使うのが一般的だが、長田さんはオリーブオイルを使ってみた。すると、想像を超える効果があった。

「動物性の油よりも革が滑らかになり、ソフトタッチで艶感もアップしました。オリーブオイルには消臭効果もあるので、革の臭みを抑えられるだろうと思っていましたが、それ以上のまろやかな香りにもなったんです」

なめしに使うのは酸化し難い最高品質のエキストラバージンオイルだ。小豆島で食品や化粧品などのオリーブ関連商品を製造販売している井上誠耕園から全て仕入れている。まだ開発して間がないため実証はこれからだが、「オリーブオイルには化粧水に使われるほどの保湿効果がある。人間の肌と同じように、革を健康的な状態で長持ちさせてくれるのではと期待しています」

東かがわ市の白鳥神社には、日本武尊(ヤマトタケルノミコト)が白い鳥になって舞い降りたという伝説がある。日本武尊の幼名「男具那(おぐな)」にちなんで名付けたWOGNAシリーズは、開発から3年でバッグや財布、ペンケースや名刺入れなど、女性ものを中心に既に30品目を超える商品が生まれ、全国のデパートなど約60店舗で扱われている。現在、高松三越や大手バッグ専門店モリタとの、新商品の共同開発も進行中だ。

「家業を継ぐ」。機内で決意

バッグ、財布、メガネケースなどのWOGNAシリーズ。 商品にはすべて「Made in KAGAWA JAPAN」と記載されている

バッグ、財布、メガネケースなどのWOGNAシリーズ。
商品にはすべて「Made in KAGAWA JAPAN」と記載されている

「本当はインテリアか建築関係のデザイナーになりたかったんです」。家業を継ぐ気はさらさらなかったと打ち明ける。高校生の時、建物のデザイン画を描いていたら、社長だった父に「そんなことをやっても無駄や」と言われ、「めちゃめちゃ腹が立ちました」

しかし、そんな考えが一変した出来事があった。学生時代、バックパックでヨーロッパを旅した時のことだ。長田さんにとって初めての海外旅行だった。「小心者なので不安でドキドキして、持ち物一つにいたるまで考えに考えて準備していました」

行きの飛行機の中で、おそろいのウエストポーチをした老夫婦と出会った。よく見ると、エールック製のポーチだった。「その夫婦も初めての海外旅行でした。私のように、そこまで気合いを入れて荷物を選んではいないかもしれませんが、これほどうれしいことはなかったですね」。二人がとてもわくわくしている様子を見て、思った。「建物でもインテリアでもバッグでも関係ない。特別なハレの日に持ってもらえるものを作れるのなら、こんなに素晴らしいことはない」。家業を継ぐ。そう決意した瞬間だった。

エールックは1933年に手袋工場として創業し、主に防寒用の手袋を作っていた。しかし、繁忙期は冬場に偏るうえ、暖冬になると一気に需要が減ってしまう。「売上を安定させるため、徐々にバッグなどの革製品にシフトしていきました」

熟練の職人の手により製造工程全てを一貫して自社で行う技術力を強みに、国内の様々な革製品ブランドのOEM製造を担ってきた。

バブル期にはDCブランドブームに乗り、イタリアの人気ブランドの国内向け商品や、横浜や神戸の有名ブランドのバッグを作り、業績は拡大した。しかし、バブル崩壊後に入社した長田さんはまもなくして、当時ほぼ100%を占めていたOEMに限界を感じるようになった。「バッグにも春夏物と秋冬物の山があって、谷間の閑散期には仕事が全くないということもありました」。工場をストップしたり、勤務時間を短くしたりすることもあった。「OEMだと勝手に商品を作るわけにもいかない。『これでは生活していけない』と辞めていく従業員もいれば、こちらから辞めてもらった人もいる。とてもつらいことでしたが、そうしないと次の月が迎えられない状況でした」

相手先の都合で生産品目や生産量が左右するOEMだけに頼っていたのでは会社はやっていけない。そこで思い立ったのがオリジナルブランドの確立だった。

若者に魅力を伝えたい

自社ブランド開発の責任者となり、5年ほど前に初めて手掛けたのが「LoveHands」だった。完全ハンドメイドの革小物で、「バッグ用に革を裁断するとたくさんの切れ端が出ます。それを捨てずに再利用できる一石二鳥の商品です」。カードケースやブレスレットなど小さな革製品を作ってみると女性に人気が出た。革にレースを合わせたり、女の子っぽいテイストにしたりと、従業員から次々とアイデアも出た。「自社ブランドはOEMとは違って、自分達の創造性を出せる。スタッフのモチベーションも上がります」。昨年11月、長田さんは「WOGNA」と「LoveHands」、2つの自社ブランド商品の直営店を高松市内にオープンさせた。「今はOEMが全体の売上の9割です。まだ1割ほどの自社ブランドを、3割にまで引き上げるのが当面の目標です」

今後チャレンジしたいことがある。店舗に工場を持っていくことだ。例えば店頭にミシンを置き、お客さんにバッグの色やタイプを選んでもらい、目の前で革から縫っていく。「作る過程を見てもらうことで、エンターテインメント性が出せるのではと思うんです」

進学などで地元を離れる若者は多い。でも、「古里に魅力があれば、『就職は地元で・・・・・・』と考えてくれるんじゃないかと思うんです」。自身がそうだった。ものづくりの町、東かがわ市が好きだった。「天然素材の革には個性があって、使う人によって様々に変化する。『革が育つ』という言葉もあります。そんな革製品の魅力、ものづくりの魅力をもっともっと伝えていきたいですね」

長田 篤樹 | ながた あつき

1969年 東かがわ市生まれ
    大学卒業後、
    キタムラ銀座三越店で3年間勤務
1996年 エールック 入社
2010年 専務取締役
写真
長田 篤樹 | ながた あつき

エールック株式会社

住所
東かがわ市川東823
TEL:0879-25-1133
FAX:0879-24-0011
創業
1933年
設立
1954年
資本金
3000万円
従業員
50人
事業内容
皮革素材等を使用したバッグ類
小物類の製造・卸販売
地図
URL
http://a-look.jp
確認日
2018.01.04

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