ネット社会と地方都市の未来

日本銀行高松支店長 正木 一博

column

2017.11.02

高松は本当に住みやすい街である。瀬戸内の美しさや食文化の豊かさに加え、何といっても職住近接のコンパクトシティ。通勤はもとより、たいていの買物や用事は、徒歩か自転車で間に合う。「生活の質」という点では、東京とは比べ物にならない高さである。

インターネット普及の影響も大きい。新人の頃、ある地方都市に勤務したが、最も不便を感じたのは、専門書がなかなか手に入らないことだった。インターネットのない時代、東京と地方の情報格差は大きかった。今ではスマホさえあれば、世界中のモノや情報に直ちにアクセスできる。大都市に物理的に集積することのメリットが小さくなっているにも関わらず、東京一極集中が進んでいるのは、考えてみれば不思議な現象である。

もう20年近く前になるが、勤務先の制度を利用して、米国サンフランシスコ郊外の大学に留学した。ちょうどインターネットの勃興期で、ネット関連の起業家やそれを夢みる学生たちであふれていた。彼らの多くは、ニューヨークなど東海岸の大都市を離れ、「生活の質」とビジネスの新天地を求めて、サンフランシスコ湾を囲む「ベイエリア」と呼ばれる地域に集まって来た若者たち。今でも、グーグル、アップル、フェイスブックなど多くの世界的IT企業が、日本人の感覚では意外なほど小さな街に本社を置いている。豊かな自然の中で「生活の質」を追求することと、最先端のビジネスを展開することは十分に両立する。斬新なイノベーションを生み出すには、「生活の質」の高さが必要なのかもしれない。

穏やかな海に面し、陽光に照らされるベイエリアは、どことなく香川県に似ている。ニューヨークとサンフランシスコの間は約4000キロ、5時間のフライトである。東京-高松間は約500キロ、飛行機で1時間。東京との距離がビジネスを進める上で本質的な制約になるとは思えない。新たなアイデアを持つ若き起業家たちが、豊かな自然と「生活の質」を求めて香川県にやってくる。そんな未来は考えられないだろうか。ネット社会の進展は、地方都市にとってこそ大きなアドバンテージである。こうした追い風を活かす工夫が求められているように思う。

日本銀行高松支店長 正木 一博

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