反対に、現金流通高が急速に減少しているのがスウェーデンである。同国では、Swishというスマホのアプリを利用した決済が広がり、街角からATMが消えつつある。商店やレストランでは「現金お断り」(!)の表示も珍しくないらしい。こうした状況を踏まえ、中央銀行自身が「デジタル通貨」を発行することも検討されている。
わが国で依然として現金が広く利用されているのには、いくつかの理由がある。まず治安の良さである。また、手前みそになるが、日本銀行が民間金融機関とともに、クリーンな現金を全国の津々浦々に届けるインフラを構築してきたことも貢献している。海外に出掛けると、日本の紙幣が非常にきれいであることに気付く。24時間どこでも使える現金は、通信障害や停電、災害などに強いことも特徴である。
とはいえ、グローバルにデジタル化、IT化が急速に進展する中で、日本だけがトレンドに逆行するのは好ましいことではない。ネットバンキングや電子マネーなどの新しい決済手段は、最初は抵抗感があるが、使ってみると非常に便利である。最近は、香川にも多くのインバウンド客が訪れているが、現金しか使えない店が多いことに不満の声も少なくない。キャッシュレス化を進めることで、現金の物理的な搬送や管理が不要になるだけでなく、各種のデータと決済サービスを融合することで、新たなビジネスチャンスにつながることも期待できる。
先般、政府も「キャッシュレス・ビジョン」を公表し、現在2割弱にとどまっているわが国のキャッシュレス決済比率を10年後までに4割程度に引き上げることを目指している。経済・社会の変化の中で、「お金」をより便利に安心して使えるようにするために、官民挙げた対応が求められている。
日本銀行高松支店長 正木 一博
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