
日本銀行は、わが国の中央銀行である。中央銀行の使命は、「人々が『お金』を安心して使えるようにすること」。第一に、きれいな紙幣や貨幣を全国に流通させること。第二に、「お金」の価値を安定させること。つまり、モノの値段を安定させ、インフレでもデフレでもない経済状態を作ることである。第三に、金融機関を通じた「お金」のやりとりが円滑に行われるよう、金融システムの安定を図ることである。
ところで「お金」とは不思議なものである。「お金」とは、みんながそれを「お金」として認識するがゆえに「お金」として機能とする、というのがその本質であって、「お金」自体に固有の価値がある訳ではない。無人島では、どれだけ多くの「お金」を持っていても何の役にも立たない。
歴史をひも解いてみると、「お金」を安心して使えるようにするために、人類がさまざまな工夫をしてきたことが分かる。そうした多年の成果として出来上がったのが現在の通貨制度─中央銀行が独占的に「お金」を発行する権限を有し(法定通貨)、その円滑な流通と価値の安定に責任を持つ─である。
ビットコインなどの仮想通貨は、中央銀行にとっていわばライバルである。仮想通貨の大きな特徴は、発行・管理に責任を持つ主体が存在しないこと。仮想通貨の創始者といわれるサトシ・ナカモト氏の論文を読むと、リーマンショックによる国際的な金融システムの動揺を経験して、既存の通貨制度に強い不信を抱いていることが窺える。中央銀行という公的機関の裁量や判断に任せるよりも、暗号ロジックの中に通貨の管理をビルト・インした方が安心である、と。
いまのところ、仮想通貨よりも日銀が発行する「円」の方が信頼を得ているようである。ただ、何を「お金」として使うかを決めるのは、国民のみなさんである。法定通貨だからといって安穏とはしていられない。「お支払は、円ではなくて、仮想通貨でお願いします!」─そんな会話が広がることがないよう、日本銀行も努力を続けなくてはならない。
日本銀行高松支店長 正木 一博
- 写真
おすすめ記事
-
2019.07.04
讃岐と奈良の「縁」
日本銀行高松支店長 正木 一博
-
2019.04.04
瀬戸内国際芸術祭への期待
日本銀行高松支店長 正木 一博
-
2019.01.17
お年玉と金融教育
日本銀行高松支店長 正木 一博
-
2018.10.18
現金大国のキャッシュレス化
日本銀行高松支店長 正木一博
-
2017.11.02
ネット社会と地方都市の未来
日本銀行高松支店長 正木 一博
-
2017.08.03
連絡船と瀬戸大橋
日本銀行高松支店長 正木 一博
-
2018.07.19
香川県の企業の「底力」
日本銀行高松支店長 正木 一博
-
2018.02.01
「恵方巻」と「あん餅雑煮」
日本銀行 高松支店長 正木 一博
-
2020.10.15
景気判断と実感のギャップ
日本銀行高松支店長 小牧 義弘
-
2025.06.19
若手中心に活気づく支店の存在感を示したい
三井住友海上火災保険 四国東支店長 藤本 篤嗣さん
-
2022.02.17
住まいを通して、街づくりに貢献したい
独立行政法人 住宅金融支援機構 佐藤朝文さん
関連タグ
最新紙面情報
Vol.412 2025年08月21日号
「ここに来て良かった」 生徒一人一人に寄り添って
学校法人村上学園 理事長 村上学園高等学校 校長 村上 太さん
モニタリングの知見を生かし 地域と「顔の見える対話」を
日本銀行 高松支店長 稲村 保成さん
諸機関と柔軟に連携し 四国の中小企業に寄り添う
独立行政法人 中小企業基盤整備機構 四国本部長 田中 学さん
まち全体を一つの「宿」に見立て 古民家を核に日常風景の魅力を発信
NIO YOSUGA 代表取締役 竹内 哲也さん/菅組 社長 菅 徹夫さん
生徒の「やってみたい」が地域とつながる 進化するボランティア団体「TSUNAGU」
大手前丸亀中学・高等学校