叱って、褒めるお客さんが技術を育てる!

横井鋼業 代表取締役社長 横井 実さん

Interview

2008.08.07

創業時は、倉庫やビルの鉄骨を建設会社から下請けする鉄工所だった。
技術を高めて橋や水門や陸橋の下請けへ。そしてクレーンメーカーへ。さらに大企業と競いながら機械式駐車装置メーカーへ。
縦に横に縦横無尽に車を収納する「地下多段昇降横行縦行方式」で中規模マンションの地下駐車装置市場を独占する会社になった。
技術とアイデアで会社を育てた創業社長(現相談役)の横井 昇さんから、2代目社長を引継いだ横井 実さんは、機械メーカーにとらわれない発想で新しい事業を開拓する。

下請けからメーカーに

創業社長は探究心が旺盛で、数値化できないノウハウを持った職人だった。下請け会社が造っても、完成した橋や水門の施工者名は元請企業の名前になる。下請けに飽き足らずクレーンメーカーになった。
「製造許可を1963年に取って、オーダーメードのクレーンを作りました」。大手メーカーは規格品しか作らない。それに対抗するためだ。注文は来たがその分競争も激しかった。
そのころ石川島播磨工業がタワー式駐車装置の一号機を開発した。下請けを契機に、1972年 クレーン技術を応用したタワー式駐車装置を開発、立体駐車場建設の認定を取得した。先行大手も試行錯誤の時期だった。「タワーの外で車を丸板に載せて回していたのを、タワーの中で回して車が前から入って前から出る仕組みを作りました」。
当時は工業所有権の知識に疎く、業界初の画期的なターンテーブル内蔵機能の特許権を取得しなかった。この教訓が、駐車場関連の特許や工業所有権を100件以上開発する、横井鋼業の「特許政策」の始まりだ。

お客さんの期待が技術力に

なぜ大企業に負けない技術が開発できたのか。「お客さんの要望やアイデアを社長が引き受けたら、製造現場は出来ないとは言えませんから、泣く泣くでも何とかします」。
リスクがあると大手は引き受けない。「90%ぐらいの出来上がりでも、『よしわかった。後は一緒にやろう』…1億円も掛けてロクでもない物だったら困る。お客さんも必死です。”協力“してくれます」。期待されるからチャレンジする。叱って、褒めてくれるお客さんが技術を育ててくれた。だから、お客さんとの距離の近さが大切なのだ。

40年の泣き笑いは真似されない

10年前、30億円売り上げた主力事業の機械式駐車装置が1億円まで落ち込んだ。「納入した駐車場の周りにコインパーキングが次々とできて、ビジネス環境は一気に変わりました。そこで、新しいコイン式装置を開発してやろうと、いちどは決めたんです」。 機械式駐車装置メーカーだから簡単だと思った。しかしもう一度考えた。「うちの装置もずいぶんコピーされましたが、そんなメーカーは皆失敗しました。かたちはコピーできても、微妙なノウハウが山とあるんです。40年の泣き笑いは真似できません」。追いつくには10年かかる。装置開発より駐車場経営に頭を切り替えて、1998年に始めたNice Parkingは121店舗、売上は5億円になった。

※(機械式駐車装置)
車両を載せた台を移動させる駐車装置。タワー式、2段・多段式、地下式などがある。

※(コイン式駐車装置)
24時間無人の時間貸し駐車装置。駐車するとセンサーが感知し、地面に埋め込まれたフラップ板が上がって車両を動かせない。精算機で駐車スペースの番号を入力し料金を支払うとフラップ板が下がる。

10億円市場は大手がいない

200社以上の機械式駐車装置メーカーが、20社まで減ったが諦めなかった。地上は商業施設や人が使う。地下に車を収納する。”機械式駐車場が地下を征する“と確信していた。
「車を台に乗せて、縦、横、前後、上下に縦横無尽に動く『地下多段昇降横行縦行方式G4シリーズ』を開発しました。この方式の、100戸から50戸程度のマンション用駐車装置はうちの独占です。東京ミッドタウンにも納入しました」。
年間10億円ほどの市場に大手は手を出さないし、ライバルもいない。得意なノウハウを得意な市場で展開する。そしてお客さんのニーズにとことん応える。これからも横井の技術を育ててくれるのは、叱り褒めてくれるお客さんだ。

※(東京ミッドタウン)
東京都港区赤坂9丁目の旧防衛庁跡地再開発で誕生した、複合施設及びその地域一帯。

コイン式駐車場から運転代行事業「Nice代行」が生まれた

「親父はメカニックの職人だから、アィデアがバンバン出ましたが私には無理です。しかし機械つくりにこだわらなくても、培ったブランドの活用は出来ると思います」。
運転代行事業は社員の提案だった。「会社の要の『車関連事業』の展開でしたし、コイン式パーキングの看板『100円玉のNice Parking』がお馴染みになったので踏み切りました」。人件費に50%程度のコストは掛かるが固定費は少ない。去年の11月に2台でスタートして半年で7台まで増やした。
メカニックの専門家だったらおそらくこんな新規事業は出来なかった。

横井 実

横井鋼業株式会社

住所
香川県高松市一宮町
代表電話番号
087-885-0111
社員数
90人
事業内容
立体駐車場装置の製造・販売・メンテナンス業務、住宅用エクステリアの製造・販売、コイン式駐車場の経営、代行運転事業、カフェ事業
資本金
3024万円
地図
確認日
2008.08.07

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