生まれ育った地元に会社を存続させる

セシール 代表取締役兼CEO 上田 昌孝さん

Interview

2008.07.03

経営再建に取り組むセシールは、2012年度に売上高を6割増の1060億円、営業利益90億円をめざす中期経営計画「セシール・ルネサンス」の重点施策の一つに「四国戦略」を掲げた。
物流拠点を香川県に置くセシールは、瀬戸大橋を渡るコストが余計にかかる。おまけに四国の売上は3%強にすぎない。なぜ四国が重要なのか。なぜ四国戦略なのか。
昨年、セシールの代表取締役兼CEOに就任した上田昌孝さんは、少年期をイギリスで過ごし、外資系金融企業のトップを務めたダイレクトマーケティングのスペシャリストだ。
グローバル化だからこそ「地元に会社を存続させる」・・・四国戦略は、世界スタンダードの経営理念を越えた上田さんの”熱い思い“ だ。

※(ダイレクトマーケティング)
データベースを駆使しコストパフォーマンスを保ちながら顧客の便益と企業ブランドイメージを「伝えたいターゲット」にダイレクトに伝えること。「外資コンピュータメーカー」「外資生命保険」などが代表的で、電話、紙媒体、インターネットなどを駆使する。

会社を地元に存続させる仕組みを!

セシールは通販事業だから香川に居なくてもいい。「情報量が少ないし、物流で橋の経費が余分にかかります。アメリカ流の再建計画なら、香川から移転することに躊躇はしません」。しかし人材や物流機能は香川にある。移転すれば地元で働く社員の職場はなくなる。蓄積したノウハウも捨てることにもなる。おまけに志度ロジスティクスセンターの不動産価格が下落して売れる状況ではない…四国戦略は厳しい制約の中から出てきた選択だ。

グローバル化に負けない地元が大切。経済も自然環境も同じ。

地元に産業があるから地域経済は活性化する。経済合理性だけで会社がみんな東京に移ったら地域は衰退する。やがて国もだめになる。地元で会社が成り立つ仕組みができたら素晴らしい地域貢献になる。しかし四国戦略だけで会社がよくなるわけではない。「志度のセンターはそのまま残して、本州にも物流拠点を作れば、BCP的な要素も含めて経営の効率化が図れます」。四国の売り上げを5%に、10%に伸ばせると、セシールが香川に存続する価値がでる。
「地元企業にも志度を使ってもらって四国の物流効率が良くなると、あの場所が活きてきます」。会社と地域の現実を見据えた企業戦略だ。「高松で育った会社だから、地元に貢献できることを前提に再建計画を考える、これはもう論理ではないんです」。しかし高松にいても、情報収集力は東京と同じレベルでないと競争に負ける。「そういう意味で四国戦略は、社員に対する啓蒙活動でもあります」。
グローバル化に負けない地元が大切なのだ。経済も自然環境も同じだ。多様性こそ変化の落差に適応できる資源だろう。その思いが四国戦略だ。

※(志度ロジスティクスセンター)
敷地面積約16万m2(約5万坪)の、西日本有数規模を誇る物流センター。

※(BCP)
Business Continuity Plan
災害や緊急時の企業存続計画または事業継続計画。

セシールは異文化体験

セシールに来て最初に言われたのは「何しに来たん!」だった。
「予測したとおりでした。でも最初の印象が悪い方が、だんだんお互いの関係もよくなるものです」。異文化との接触はとっくに体験済みだからだ。11歳から15歳までイギリスで暮らした。言葉の違う外国では自分を確認する手段がないし自己主張しないと存在できない。英語がしゃべれないからピアノでコミュニケーションした。
「変なヤツだけど、あいつはピアノが弾ける…反発から親しみや尊敬へ…変化が起きたんです」。あうんの呼吸とか、言わなくても解るでは絶対に受け入れられない。人との違いを主張しあい理解しあうことが重要なのだと学んだ。

ダイレクトマーケティング一筋

大学を出て三菱銀行に4年、その後アメリカの金融会社でCEOなどを歴任。
「金融と衣料。商品こそ違いますが、アメックスも、アメリカンホームもその後係わったINGも、販売チャネルは通販、顧客は個人で、同じダイレクトマーケティングです」。ライブドアの代表だった平松庚三さんの引き合わせでセシールのCEOになった。

※(アメックス)
アメリカン・エキスプレスの略称。クレジットカードの国際ブランドの一つを運営するアメリカ企業。

※(アメリカンホーム)
アメリカンホーム保険会社。世界的な金融・保険グループ「アメリカン・インターナショナル・グループ」の保険会社。

※(ING)
International Nederlanden Group
50カ国以上にネットワークを持つオランダ最大の世界的総合金融グループ。

経営再建はセシール・ルネサンスで

通販事業は概して、原価率が50%程度とコストの高いビジネスだ。「カタログや配送のコストは、同じことを続けていくと、必ず効率が悪くなります」。
再建のポイントは、原価やマーケティング効率の改善と財務だ。不動産と長期借入金がメタボ状態で、お腹に余計な脂肪を貯めていた。「不要な不動産を売却して、財務体質の健全化を進めました」。再生・成長を実現する中期経営計画「セシール・ルネサンス」が2008年12月期からスタートする。

リスク管理と意識改革

金融庁は2008年4月から、経営者に社内管理体制の自己点検を報告させる「内部統制報告制度」を義務化した。
「船場吉兆さんとかミートホープさんとか、必ず起こるトラブルにどう対応するか。外資系の資本が入っていない上場会社を探す方が難しいほどグローバル化しているのに、時間がたてば解決するとか水に流すというカルチャーが日本にはあります。内部通報の仕組みがないとトラブルは隠ぺいされがちですから、企業にとって大きなリスクです」。外資系金融機関の経験が長い上田さんは、担当者十数名のコンプライアンス・リスク管理体制を敷く。
課題はやはり社員の意識改革だ。「現場から改善の提案や情報はまだ少ない。でも意識改革は時間がかかるから急ぎません。ポイントは成功体験です」。新しい手法でデータ分析をして、その結果をカタログ配布に反映させることを始めた。必ず成功させて社員の意識を変える。2割の社員が変われば会社は変わる。
●仕事を離れて地元交流
一橋大学出身の吉田 誠教授と知り合って香川大学と交流が始まった。インターンシップの受け入れやオープン講義の講師を務めた。
「仕事と関係のないところに自分の居場所が欲しいんです。その一つは音楽です。6月15日の香川大学医学部のオーケストラの演奏会にビオラで参加しました。時間をやりくりして練習もしました」。

●「ニューヨーク・シンフォニック・アンサンブルと香川のオペラ歌手たち」公演
四国戦略の一環として、地域・文化貢献活動にも力を入れる。セシールはスポンサーとしてニューヨーク・シンフォニック・アンサンブルと直接交渉し、地元に密着したコンサートを企画すべく、積極的な意見交換を行った。その結果、県内の音楽家とのコラボレーション、さらには今まで音楽にあまり親しみがなかった方々にも気軽にいらしていただけるよう、「新説 落語風オペラ モーツァルト『魔笛』」として、落語家の三遊亭好楽師匠に語りをお願いするなど、工夫を凝らし、楽しい演奏会を企画した。

上田 昌孝 | うえだ まさたか

略歴
1955年 4月5日 熊本県生まれ
1979年 3月 一橋大学経済学部卒業
1979年 4月 三菱銀行入社
1983年 8月 アメリカン・エキスプレス・インターナショナル 日本支社入社
1997年 3月 同社 グローバルネットワークサービス
日本・韓国担当バイス・プレジデント
2000年 9月 アメリカンホーム保険会社(AJGグループ)
副会長
2001年 3月 同社 会長兼CEO
2007年 1月 ING Direct services株式会社 顧問(現任)
2007年 3月 株式会社セシール 代表取締役会長兼CEO
2008年 3月 同社代表取締役兼CEO(現任)

株式会社ディノス・セシールコミュニケーションズ

住所
香川県高松市観光町545-3 セシール第3ビル
代表電話番号
087-883-1111
設立
2006年
社員数
1100人
事業内容
・総合通信販売事業(カタログ・テレビ・インターネット
 等によるファッション、家具・インテリア、美容健康
 商品他の販売)
・リテンションマーケティング事業
・フラワーネット事業
・法人向け事業(卸事業、広告事業他)
・保険事業
・催事・店舗事業
資本金
5000万円
地図
URL
http://www.com.cecile.co.jp
確認日
2010.06.17

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